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転生王子は錬金術師となり興国する  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:転生王子は海を渡る
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プロローグ:転生王子は目覚める

今日から二章です! 二章もよろしくね

 収穫祭が終わり、俺は次期国王になると宣言した。

 きっと、もう少しすれば塩王子だとか、小麦王子とかそういう愉快なニックネームから解放されるはずだ。

 そんな期待を胸に新しい朝を迎える。

 目を開く、頭がずきずきと痛む。

 体を起こし、布団を捲ると硬直した。


「なんでヒバナがここにいる」


 そう、俺の騎士であるヒバナが隣で眠っていた。

 服は着ているが、寝間着のため薄着だ。


「ひどいわね。ヒーロが連れ込んだのに。所詮、私のことは遊びだったのね……」


 俺の声で目が覚めたのが、ヒバナも体を起こすと、目をこすり伸びをしてから、よよよと泣き崩れる。

 ちょっと待て、昨日のことを思い出せ。

 あのあと檀上から降り、そうだ、城に帰らずに収穫祭で民と一緒にバカ騒ぎをした。

 エールがなみなみと注がれたジョッキを持ちながら。

 ……そういえば、酒なんて転生してからほとんど飲んでないな。


 それで、酒のうまさで気が良くなって、周りもどんどん勧めてくるからどんどん飲んで、それから……記憶がない。

 寝間着のヒバナがこちらを見ている。

 記憶がないが、ヒバナは俺が連れ込んだと言った。

 つまり、やらかしたのか? 俺はやらかしたのか?


「そんなふうに申し訳なさそうな顔しないで。ふふふ、さっきのは冗談よ。酔いつぶれたヒーロを私が介抱したの。べろんべろんになってるからけっこう重かったし、部屋に戻るなり盛大に吐いて、大変だったのよ? 部屋を掃除したり、体を清めて、着替えさせたり」


「すまなかった……本当に悪いと思っている」


 あまりにもかっこ悪すぎる。

 軽く死にたい。

 こんな醜態の晒し方は初めてだ。


「ヒバナ、この埋め合わせはさせてもらう」

「そんなのいいわ。ここ最近気を張り詰めすぎていたせいでしょうし。それに酔うと素直になるのね。可愛かったわ」

「いったい俺は何をして、何を言ったんだ」

「大したことじゃないの。でも、ちょっとプライドを傷付けられたから仕返しに悪戯をしたのよ」


 そう言って、ヒバナは微笑んでベッドから下りる。

 普段から綺麗だと思っているけど、今のヒバナは見惚れるほど綺麗だ。


「プライドを傷つけられたか。あまりはぐらかさずに教えてほしい」


 それにより、俺がやらなければならないことが決まる。


「私の胸に顔を埋めて、姉さんって甘えた声を出して抱き着いてきたの。あなたに甘えられるのは悪い気がしないけど、さすがに別の女性と勘違いされるのは屈辱ね」

「その、重ね重ねすまない」

「お姉さんのこと大好きなのね。……もしかしてシスコンという人種なのかしら」

「違うと言いたいが、信じてもらえなさそうだな」

「そうね。でも、別にシスコンでもいいのよ。あなたは私の王、昨日の演説、とっても素敵で、もっと好きになった。では、また後で」

「ああ」


 頭ががんがんする。

 そう言えば、錬金術で作れる薬に二日酔いに効くものがあった。

 ストックしてある薬草で作れるはずだ。

 頭をすっきりさせて、しっかり働き名誉挽回しないと。


 ◇


 収穫祭の翌日だが、さっそく仕事がある。

 三人の王子が集まっていた。

 収穫祭を迎えて、ひと段落したので次にどうしていくかを改めて話し合う。


「ヒーロ、いや、陛下。てめえ、人前に立つのが苦手だって言ってあれはなんだ」

「がっちり、民の心を掴んでいましたね。あなたには人を惹きつける不思議な魅力がありますよ」


 二人の兄さんが褒めてくれて気恥しい。

 しかし、二人の兄は苦笑して言葉を続ける。


「だが、そのあと、あれはねーよ」

「ヒバナさんには謝っておきなさい。今後、公の場では酒は控えるよう大臣として進言します。今回はうちうちの収穫祭で問題ありませんでしたが、外交絡みでやらかすとフォロー仕切れません」

「……その、すまなかった」


 痛い教訓だ。気にしておこう。

 アガタ兄さんがホワイトボードにさらさらと文字を書いていく。

 このホワイトボードとマジックは、俺が錬金術で生み出したもの。

 会議の際にあると便利なのだ。


「では、陛下の望み、この国を豊かをするという夢に必要なことをリストアップしていきます。まず、食料問題。魔物の肥料化で、この国の土地でも小麦が調達できるようになりました。が、魔物の出現数から逆算した肥料の作成量、その肥料で維持できる畑の面積は、この通り。今の三倍ほどが限界です。それ以上は畑を広げても肥料が追いつかなくなります。魔の森に足を踏み入れれば話は別ですが、それで狩りつくしたら終わりです」


 肥料は定期的にまかないと意味がない。

 そして、あの肥料を安定供給できる畑の数には限界があるのだ。

 その試算が必要だと思っていたが、もう動いてくれていたのか。


「アガタ兄さん、それでどれほどの人口が賄える」

「おおよそ、三千人。人口が今の三倍までは耐えられるでしょう。しかし、国民が飢えなくなれば、人口は増えていく。それに、ヒーロはこの地へ人を誘致すると言っていましたよね? この段階で心配するのは早いですが……問題が出てからでは遅い」

「そうだな。それに、魔物がいつまでも涌き続けるという保証もない。魔物の肥料に頼らずに育つ作物、あるいは魔物を材料にしない肥料の精製を考えておく」


 イモなどは、この地でも肥料なしに育った。

 あのイモはそのままではあまりうまくない。だから、あれをベースに美味しく、収穫量が上がる品種にしてしまおう。

 それから、もう少し野菜の種類を増やしたい。どこからか、新たな作物の苗を手に入れられるよう手配をしようか。


「ヒーロ、こちらは優先順位は低いですが、考えておいてください」


 さすがはアガタ兄さん。

 的確な指示だ。

 次にタクム兄さんが口を開く。


「二日前にも報告したが隣国……フラル王国から密偵が放たれている。捕らえたが、情報を吐かせる前に自殺しやがった。かなりきなくせえな。冬が終わるのと同時に戦争になることは覚悟していたが、いよいよ現実的になってきやがった」

「戦争が起こるのもそう遠くないだろうな。……今年は言い訳が利くぐらいには塩を買ったとはいえ、疑問には思っていたんだろう。あの大国からすれば俺たちから搾り取っていた額なんて、さほど大きくないが、それでも収入が減ったことには変わりない」


 フラル王国。

 それはタクム兄さんが言う通り、非常に好戦的な国だ。

 国内の発展ではなく、軍事に多額の金と人材をつぎ込んでおり、侵略して、略奪し続けなければ滅びる国だ。


 周囲の国を吸収し拡大し続け、ついにはヒバナがいたキナル公国と同盟関係にある国々と隣接するところまで国土が広がった。

 キナル公国はその兵数こそ、フラル王国には劣るが、世界最強の騎士団を保有する国。

 フラル王国はキナル公国を敵には回したくない。

 となると攻められる場所はなくなり、こちらに矛先が向く。


「ヒーロ、タクム兄さん、僕たちのやるべきことは変わらない。冬の間は向こうも動かないだろう。それまでに、こちらの軍備を増強する。勝てないまでも、向こうが戦えば割に合わないと思える強さまで」

「む、そうだな。俺は兵どもを鍛える。それから、兵の募集をかけたい。希望する数はこれぐらいだ。今のカルタロッサなら賄えるはずだ。むろん、半農のほうだな。騎士だなんて贅沢はいわねえ」


 この国ではごく一部の精鋭を除いて、半農・半兵。

 完全な職業軍人が少数しかいないのは、職業軍人を養うだけの体力が国にないから。

 ただ、この国の半農は通常のものと微妙に異なる。

 ここで募集するのは、次男や三男、あるいはほとんどいないがよそから来た者という自らの土地を持たないもの。


 そんな彼らを雇い、開拓をさせたり、国が保有する大規模な畑を使って組織的に農業を行うことで、効率よく作業する。

 そうして余った時間で訓練を行うのだ。


 効率的な農業により、収益が出る。そのため、そこから給料を支払える。

 また、一定の年齢になると退職金代わりに土地をもらえて、私有地にできるのも人気が高い理由。

 畑を自前で持っていない次男三男や、小作人たちは割がいい仕事と、兵を募集すれば応募が殺到するし、また勤め上げれば自分の畑を得られるとモチベが高い。


 これは、かつてアガタ兄さんが考案した方法だ。

 これにより、完全な職業軍人ほどではないが、一般的な半農・半兵よりは、練度・士気が高い。


「俺もアガタ兄さんの意見に賛成だ。まずは兵の数がいる。いくらタクム兄さんの騎士団が精鋭ぞろいかつ、俺の作った魔剣を持っていても、限界がある」


 戦いは質よりも数の要素が大きい。

 むろん、錬金術で数の差を覆す兵器を作るつもりだが、限界はある。

 できるだけ、数を用意する努力はしたい。


「アガタ、冬の間にがっつり鍛えてえんだ。今、募集しなきゃなんねえ」


 本来なら悪手。

 なにせ、この地方の冬は冷える。育つ作物がないし開拓もはかどらない。

 つまるところ雇ってもやらせることができる仕事は多くなく、国庫にダメージを与える。

 だが、だからこそみっちり鍛えることができる。


「いいよ。この人数なら、今のカルタロッサ王国ならなんとかできる。ヒーロ、その代わり、増やした兵を強兵にする兵器、しっかり頼むよ。増やしたのが訓練された普通の兵程度じゃ焼石に水だからね」

「わかってるさ。魔剣を携えた騎士団に匹敵するとまでは言わないまでも、向こうの一般兵を凌駕する武器は作ってみせる」


 強力な武器。

 それも、大量生産ができ、なおかつ扱いやすく、魔力持ちでなくとも使え、数の差を覆すもの。

 となると、魔物素材だけじゃダメだな。

 鉄が欲しい。

 ……そして、例によって例のごとく、この国にそんな資源はないと来た。まずは鉄を得るところから始めよう。

 それからは個別に議題を話していき、最後のまとめを行う。


「アガタ兄さん、やり方は任せるから、可能な限り、戦争の開始を遅らせる時間稼ぎを頼む」

「やるだけはやってみるよ」

「頼んだ」


 そして、次はタクム兄さんだ。


「タクム兄さん、新兵の教育、しっかり頼む」

「おうよ、冬の間に徹底的に鍛えてやる」


 タクム兄さんの育てた兵士たちは質がいい。

 そして、質以上に統率の取れ方が異常に高い。多くの騎士や兵士を見てきたヒバナですら、目を疑うほどだ。

 おそらく彼が持つ圧倒的な強さとカリスマによるもの。

 タクム兄さんの部隊なら、どんな武器だろうと使いこなしてくれる。

 兵たちはタクム兄さんの手足のように動き、望み通りの作戦行動が可能だ。


 二人に指示を出した。

 なら、次は俺だ。


「俺は船を作り、海にでる。そして、鉄を手に入れて帰ってくる。不在時については、その権限全てをアガタ兄さんに託す」


 その宣言にタクム兄さんは目を見開き、アガタ兄さんは薄く笑う。


「あのときの言葉は本気でしたか。たしかに、鉄がほしいならそうするしかありませんね。この国は魔の森以外、どこに行くにもフラル王国を通る。鉄なんて大量に運べば、即反抗の意思があると兵を差し向けられます」

「だから船だ。船なら、陸路を通らないで済むうえ、大量の鉄を運べる。それしかない」

「んな鉄を大量に運べるような船、作んのに、いったいどれだけ時間がかかるんだ」

「まあ、一週間ぐらいかな」

「錬金魔術というのはでたらめですね」

「たまげたな。何百人もの船大工が半年はかけるはずだぞ」


 さて、目標は決まった。

 兵器を作る。そのためには鉄が必要で、鉄を入手するために船を作る。

 これから大変になるだろうが、どうしようもなくわくわくしてきた。

 鉄を運ぶ以外にも、この船はきっと役立つはずだ。

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かつて世界を救って眠りについた魔王は、平和になった千年後の世界で普通の冒険者として生きていく。是非、読んでください
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[一言] 試看文庫 隣国がフラル王国に改めました グルニッジ王国? 姉を六つ目妻の王子の国なのたろ! ※電子版は紙書籍版と一部異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください
[気になる点] 隣国わグルニッジ王国なのか?
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