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転生王子は錬金術師となり興国する  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:転生王子は錬金術師となる
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第十九話:転生王子と決闘

 ヒバナとタクム兄さんが決闘する日がやってきた。

 あくまで、城内でのイベントにし、一般市民たちには公開しない。

 観戦者は、この国の重役たちと、数少ない職業騎士たち。

 滅多に表にでない、妹のナユキ姫もいて、ナユキのファンたちは見惚れている。

 ナユキがウインクを飛ばして来た。

 ……いったいどういうつもりだ、あいつ。


 この決闘に賭けるものは王位継承権、敗者は王位継承権を放棄する。


 訓練場のリングで俺とヒバナが並び、タクム兄さんと向かい合っていた。

 初めてヒバナとタクム兄さんが戦った日を思い出す。

 そのときと違うのは、お互いの武器が真剣であること。

 非常に危険であり、治療のために万全の準備を整えてきた。

 この小さな国にも医者はいるが、俺のほうが腕は上だ。

 大抵の傷は手当してやれる。


「タクム兄さんとヒーロの決闘、このアガタが見届人になろう。決闘について、改めて確認を行う。実剣を用いた真剣勝負。勝利条件は一太刀いれること。敗者は王位継承権を放棄する。……すでに、第二王子である僕は継承権を放棄した。つまり、ここでの勝者が自動的に次期国王となる。両者、異存はないね」

「問題ない」

「俺もいい」


 アガタ兄さんの言葉に俺とタクム兄さんが同意した。

 もともと、タクム兄さんとアガタ兄さん、揃って王位継承権を破棄しようとしたのだが、軍部を中心に猛反発があったため、アガタ兄さんだけが王位継承権を放棄することになった。


 タクム兄さんは王位継承権の放棄を強行することができた。しかし、それをすると騎士たちの心が俺から離れる。

 だからこそ、騎士たちに俺を認めさせる儀式が必要となり、今日の決闘がそれだ。


「我が命運はわが剣に委ねる」


 タクム兄さんが剣を引き抜き宣誓。


「我が命運を、我が騎士の剣に委ねる」


 俺は王族特権で、決闘の代役に自らの騎士であるヒバナを決闘の代役に指名。

 これで準備は整った。

 いつでも決闘を始められる。

 なのに、タクム兄さんはちょっと待ってくれといい、咳払いしてから口を開いた。


「ヒーロ、改めてこの場で俺の考えを伝えよう。俺は、お前の理想に協力すると言った。その気持ちは今も変わらん。俺はこの決闘でおまえが……いや、おまえの騎士が勝つことを願っている」


 小声ではなく、この戦いを見守るすべてに聞こえるように声を張り上げる。

 自らが信じ、王になってほしいと願うタクム兄さんが負けたいと口にしたことで、騎士たちに動揺が広がる。

 この戦いが八百長じゃないかという言葉すら、騎士たちから聞こえてくる。

 しかし、その本人は飄々としていた。


「だが、勘違いするなよ。俺はおまえの騎士が勝つことを願っているが手は抜かん。おまえの語る理想が正しいことを武を以て示せ。俺程度を越えられんようじゃ、お前の理想は理想で終わる。そんな弱い理想は、ここで潰したほうがおまえのためであり、この国のためだ。そのときは俺が王になる」


 闘志をぶつけてくる。

 混じりっけなしの本物。

 思わず後退りそうになるが、必死に踏みとどまる。

 ここで気圧されるわけにはいかない。

 弱いところ見せれば、騎士たちに舐められる。


「だが、俺を超えたとき、おまえの理想を本物と認め、この命と俺が鍛えあげた部下をおまえの理想のために使う! いいか、おまえら! よく見ていろ。俺の全力の戦いを、俺は一切手を抜かない、本気で潰す。……だからな、俺を超えたときはヒーロを認めてやれ!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」


 兄の部下たちが兄の覚悟に歓声を以て答える。

 もはや、彼らに不満はない。

 八百長なんて考えは吹き飛んだ。


 兄の部下たちは、タクム兄さんの力に憧れ、全力でその背中を追いかけた者たち。

 そんな彼らが、タクム兄さんが本気で戦うと信じて、その全力が見られることに歓喜し……そのうえでタクム兄さんの言う、タクム兄さんを超える力を期待した。


 お膳立てはタクム兄さんが整えてくれた。

 あとは勝つだけだ。そうすれば、騎士たちは俺を認める。

 タクム兄さんがそうしたように、俺の騎士に言葉を送ろうとしたとき、ヒバナの肩が震えていることに気付いた。

 そうか、ヒバナも怖いのか。

 無理もない、タクム兄さんはあまりにも強大だ。

 頼りないとは思わない、むしろそんなヒバナの一面が可愛いとすら思えてしまった。こんな状況なのに。

 ヒバナの肩に手を乗せる。


「ひゃっ」


 びくっとなって、そんなところがおかしく思えた。


「いきなり、びっくりするじゃない」

「ヒバナ、怖いか?」

「怖いわ。でも、もう大丈夫。今の驚きで、怖さが吹き飛んだの」


 それは強がりだ。

 だけど、強がれる程度には大丈夫になった。

 一週間の特訓の中でヒバナは装備なしには、一発も当てられなかったと聞いている。

 それでも、装備を使えば、俺の力とヒバナの力を合わせれば勝てる。


 俺とアガタ兄さんは舞台から降り、リングの上にはヒバナとタクム兄さんだけが残される。


「俺を超えて見せろ……ヒバナ」


 いつの間にか、女からヒバナに変わっていた。

 タクム兄さんなりに、ヒバナを認めたということだろう。


「結局、一人じゃ無理だった。強くなったけど、まだ足元にも及ばない。……でも、ヒーロと二人なら勝てる」


 二人は睨み合う。

 緊張感が高まる。

 そして……。


「決闘開始!」


 アガタ兄さんの言葉で戦いの幕が切って落とされた。


 ◇


 決闘が始まると同時に、ヒバナは俺が授けたインナーの機能を解放する。

 体内電流の増幅、加速。

 それによって動体視力・反射神経が強化される。

 初手から全開。そうでないとタクム兄さんに瞬殺される。


 ヒバナは、超高速での戦闘を仕掛ける。

 以前はその速度をただ叩きつけるだけだった。

 だけど、今は違う。ちゃんと見ている、見えている。

 己の動きも、相手の動きもすべて。

 死角に回り込み、最速の一撃を放つ。

 タクム兄さんは見えていないそれを、半身をずらすだけで躱し、それだけで終わらず、振り向きすらせず、背面への突きを放つ。


 ほとんどモーションがなく、なおかつ剣のセオリーから外れる動きで、何より無駄なく速い。

 それもヒバナの剣が通り過ぎた瞬間というもっとも、対処が難しいタイミングに放たれた。

 完璧な一撃。

 しかし……。


「これで決まると思ったがな」

「ちゃんと見えているわ」


 ヒバナはそれを剣の柄で受け止め、そのまま後ろに跳び着地。 ヒバナはタクム兄さんのすべてを見ていた。だからこそ反応出来たのだ。


 またもや超速で距離を詰めつつ、一気に限界まで姿勢を低くする。正面にいたタクム兄さんはまるでヒバナが消えたように見えるだろう。

 一瞬の動揺、その動揺した時間を使い、斜め前、死角に回る。

 真っ直ぐ突っ込めば、見えていなくても予測されてカウンターを喰らうと読んでの戦略。


 しかし、いったいどういう手品か、タクム兄さんの読みを外すための行動すら読み切り、ヒバナのいる未来位置に先手での一撃を振るった。

 恐ろしい。まるでヒバナのすべてを見抜いているかのような観察眼。予備動作を見て予測しているだけじゃ不可能。ヒバナという人間を掌握しているからこそ可能なこと。

 

 そして、振るわれた剣には確信があり、確信は速さへとなる。

 もはやヒバナに回避は不可能。

 ヒバナは避けない、雷速の反射神経を以て魔剣花火を振るう。


 紙一重で迎撃が間に合う。

 筋力は遥かにタクム兄さんが上、打ち合えばヒバナは態勢を崩し、その隙をタクム兄さんが見逃すはずはなく終わり。

 ……もっとも、互いの剣が同等の性能であればの話だが。


 剣と剣がぶつかり、タクム兄さんの剣が一方的に斬られて、刃が宙に舞った。

 魔剣と普通の剣がぶつかり合えばこうなってしまう。


 タクム兄さんが決闘で勝つには、一度たりともヒバナの剣を剣で受けることも、逆にヒバナの剣に受けられることも許されなかった。


 それはタクム兄さんもわかっていた。だからこそ、受けず、受けさせない。

 そういう戦い方をしていた。


 こうなってしまったのは、ヒバナがタクム兄さんの予測を超えたから。タクム兄さんが迎撃は間に合わないと確信して振るった一撃を受けることができたからつかめた勝機。


 ヒバナが踏み込む。


 タクム兄さんが薄く笑う。


 剣を失ったタクム兄さんに身を守るものはない。

 彼女の名の通り、火花のような華やかで疾い剣閃が走り、タクム兄さんの肩甲骨から脇腹までを鎧ごと斬られ、血が噴き出た。


「勝者、ヒバナ・クルルフォード。この決闘、ヒーロの勝ちとする」


 アガタ兄さんが素早く勝利を宣言する。


「タクム兄さん!」


 俺はリングに向かって走り、タクム兄さんに駆け寄る。

 鎧を引きはがし、消毒液をぶちまけ、その後、強力なポーションをかける。


 切断面があまりにも滑らかなのと、ポーションの力でみるみる傷が塞がる。

 完全に繋がったわけじゃないが、表皮と浅いところは繋がった。完全に繋がるのに時間はかかるがとりあえず血は止まり、命の危険はない。

 血を拭き取り、薬液をしみ込ませた包帯を巻いていく。


「ヒーロ、まるで魔法だな」

「一応傷を塞いだだけだ。三日は安静にしていてくれ。激しく動くと傷が開く」

「この傷がたった三日で治るのか、俺の剣を叩き切った魔剣といい、剣士を加速させる肌着といい、めちゃくちゃだ……だが、頼もしいな。あ~あ、負けた! 完全に負けた! 俺の武は、お前の騎士と、お前の力に負けた!」


 タクム兄さんが体を起こす。

 そして、俺の腕を掴み、高らかに上げさせる。


「てめえら、見たな。おまえらの中に、俺が手を抜いたように見えた間抜けは一人もいねえよな。俺は本気だった、だが負けた! 俺はその女より強い、だが負けたんだ。それはヒーロの力だ。ヒーロが作った剣と防具でその女は力の差を覆した。俺は、俺を超えさせた力を信じて、ヒーロに力を貸す。いいか、俺は負けたが、負けたからこそ、ヒーロの力でより強くなる。おまえたちもだ!」


 兄の声に反応して、騎士たちが喝采する。


「ヒーロ、おまえの力で俺たちを強くしろ。俺たちはおまえのためにその力を振るう」

「約束する。タクム兄さん、そしてタクム兄さんの騎士たち、この国を強くするために俺はみんなを使う。だから、みんなは強くなるために俺を使ってくれ」

「新しい王がそう言ってるぞ。おまえら、返事はどうした!?」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」


 これこそが錬金術による強国だ。

 騎士たちはそれを受け入れた。


 ……タクム兄さんは役者だ。騎士たちの心が俺に向くよう、完璧な筋書きを書いてくれた。

 この人は、脳筋に見られがちだが、実は洞察力があり、頭が回るし、なによりよく人を見ている。

 だからこんなにも慕われるのだ。

 タクム兄さんと敵対しなくて本当に良かった。


「今日は、ヒーロが次期国王になったことを祝うぞ! ごちそうはだせねえが、その分、笑おうぜ」


 騎士たちが笑う。

 ……こういうノリは俺には出せない。

 だが、嫌いじゃない。

 燃え尽きて、呆けている俺の騎士に声をかける。


「ヒバナ、ありがとな」

「生きてるのが不思議。……本気で死んだかと思ったわ。あの一撃を防げたのほとんど運よ」


 ……タクム兄さん、ほんとうに容赦なかったんだな。


「運でもなんでも、勝ったんだ。さすがは俺の騎士だ」

「そうね、あとで反省はしないといけないけど、今はただ喜ぶわ」


 さて、宴だ。

 折を見てヒバナのために用意した花火を打ち上げよう。

 きっとヒバナだけじゃなく、兄たちも、騎士たちも喜んでくれるだろう。


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