ヒーロー
「あと5分だけ...」
そう、母親に告げた。
季節は冬。年末が近づき冬休みを今か今かと待ち望みする時期。
外は防寒着無しでは出られないぐらいの寒さだ。そんな寒さなのだから布団でもう少し寝たいのは当たり前だろう。
「急ぎなさい、今日は終業式でしょ、今日行ったら終わりなんだからがんばりなさい。ほら、布団から出て」
母親から急かされ、ご機嫌斜めでの起床。しかし遅刻ギリギリの時間だったので仕方なく急ぎながら身支度を済ました。
すると、家のインターホンが鳴った。
いつも1人で登校しているのに終業式だからって誰か来たのか、そんなわけないか。
母親は家事で忙しくあんたが取りなさいと言われた。
誰ですか?と不機嫌な感じで言うと驚きの人物の声がした。
そんなの夢の中でしかありえない。気付かれないように自分の部屋に戻りこっそり玄関前を覗いて見ると確かにいた。
かわいい手袋を付け、目立ちそうなカラフルなマフラーを巻き、茶色のコート、セミロングな黒髪、スカートをなびかせ、寒そうに待っていたのは学年1かわいいといわれる同じクラスのマドンナであった。
どうしてと考えたい気持ちは山々だが待たせてはいけないと思う気持ちの方が勝ったのか鞄を持ち、防寒具を身につけ、急いで玄関まで走った。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
忙しい朝、母親との最後の会話をし終え、玄関扉を開けるとそこには彼女がいた。
「遅いよ!遅刻しちゃうよ!」
かわいい声が聞こえてきた。寒さで鼻と頬が赤くなってしまっているがそれが更にかわいく見えてしまう。
まず聞かなければいけないことがある。絶対にだ。
「どうして俺の家なんかに?こんな終業式の日に」
終業式だから、あと気分?という答えが返ってきた。
しかし、現実で起きているのだから信じるしかない。今は学校に遅刻しないほうが大切だ。2人とも小走りで学校まで向かった。
靴紐が解けそうになり先行っててと彼女に言う。が、待ってくれるのが彼女である。ごめん、と告げると大丈夫と返してくれた。
靴紐を直し、走り出して数秒、曲がり角から自動車が飛び出してきた。間一髪避けたがすこし頭を打ってしまった。
ここはカーブミラーも設置されておらず年に数回軽い事故などが発生してると噂では聞いたことがある。
彼女が心配そうな顔でこちらを見てくるので見栄を張りたかったのか大丈夫そうな顔で急ごう、と言った。
心の中では車のナンバープレートだけは絶対に覚えて置こう、そう思っていた。
下駄箱で履き替えてる時、学校のチャイムが鳴った。なんとか間に合ったようだ。
学年1かわいい子と登校している自分を不思議そうな顔で見てくる学生があちらこちらに。自分だってそんな顔をしたい。
クラスに着くと終業式なのに人が揃ってない気がした。
風邪なのかはたまた1日でも多く休みたいと思った仮病なのか。
しかし今日の時間割は終業式だけで先生たちの長いお話を聞いておしまいな日。気を引き締めグラウンドへ向かう。
今日の終業式はコートの着用は認められた。学生達はグレーやブラックのコートを着用してる中、1人茶色のコートが目立っていた。
学校の規則では茶色のコートは禁止されていた。
彼女は先生に軽く注意されていた。
そんな時、彼女が先生に何か話している。特に内容は聞きたくはなかったがどうやら体調が優れないらしい。伝言ゲームみたいにクラス内の人達が話している。
彼女は先生に連れられ保健室に向かったのだろう。
校長先生の長い話もそろそろ終わる頃だろうという時、事件は起きた。校舎の1階部分から煙が上がっているのが見えたような気がした。最初は霧なのか?と思っていたが段々赤みを帯びていくのが分かる。辺りがざわつき始めた。
だんだんと炎は大きくなっていく。それに気付いた教職員は生徒の安全を第一として避難させている。
そんな時、少しばかりの学生が体調を崩した彼女のことを心配そうな声で呟いた。
自分は普段ヒーローみたいな活動はしていないのだがこんな時こそ動かなくてどうする、と思ってはいたものの、行動には移せない。勇気がなかった。
体育教師や理科の先生は真っ先に炎の勢いを弱めようと走り出したが、どうも校舎に入ることすら難しそうにしている。
しかし、僕は知っていた。校舎裏のトイレの窓の鍵が開いていることを。日中のトイレはセキュリティが甘いことを。
これを知っているのは生徒のごくわずかであった。そして動けるのは自分しかいない。
それに気付いた自分は足がすでに動いていた。走り出していた。
危ないから、と呼び止められるがここで止まっては男ではない。彼女を助け出すことに夢中になっていた。
先生たちの横を走り去り、校舎の裏へと向かう。
校舎の角を曲がりトイレの窓を見つけ、いまから救ってやる、という気分になったと同時にそこには彼女の姿があった。
茶色いコートが部分的に黒澄んでいる、さらに赤色に染まっていた。とにかく無事でよかった、と思うが少し疑問に思うところもあった。
黒澄んでいるのは分かる。火事の影響だろう。だが、あの赤色は何だ。べっとりとした濃い赤色。まるで...。
なにより彼女に付き添いで保健室に向かった先生はどこへ行ったのだろう。普通なら一緒に逃げるはずだ。
疑問を抱きつつ彼女に近寄っていくと、彼女の右手には先が尖りポケットにも入りそうな小型ナイフのような物を握っていた。
ちょっと待て、と目を瞑り状況を理解しようとしていると足音が近づいていた。
次の瞬間、彼女は目の前にいた。笑っていた。
「今日は終業式でしょ、今日行ったら終わりなんだからがんばりなさい。ほら、布団から出て」
どこかで聞いたことあるような母親の言葉を耳にし、目を開けると自分の部屋の天井が見えた、と同時に夢だと分かり安堵した。今日は家の中が冷えきるぐらい寒いのだが寒さなど気にしない表情ですっと起き上がる。
毎日ぐだぐだと布団の中で目が覚めるのを待っているのだがなぜか今日は遅刻しそうな気がしたのかいつもより早い起床となった。
朝食を食べ終え、身支度を済まし防寒具を身につけた。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
母親との会話をし終え、いつもより少し早いが家を出ることにした。
玄関扉を開けるとなぜか家の前にはカラフルなマフラーを身につけた学生がいた。どこかで見たことあるような気もしないでもない。
転校生なのかは分からないし茶色いコートに身を包んでいるので確実な判断は出来ないが多分制服は通っている学校の物だろう。
待ってたよ、とかわいい声で話しかけてきたがどこか不気味な笑顔に見えた。
彼女のことは何者かも分からないが一緒に登校しようと誘われたので断る理由もなく2人で学校へと歩き出した。
特に何事もなく学校に着いた。
登校している最中、彼女がかわいかったので横目でチラチラと見てしまっていたのが変な人だと思われていないかが心配だ。
あと気になった事がある。
彼女のコートのポケットには何か尖った金属のような物が入っていたような気がした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
正直なところ一番迷ったのはこの作品がどのジャンルに属するかです、普段本なんて読まないものですいません笑
そしてこの後の展開は一応ハッピーエンドにもバッドエンドにも出来たんですがそれはみなさまのご想像にお任せします。最後までは書かないほういいかなと思ってしまいました。
何かアドバイス、感想ありましたらコメントお願いします
ではまた次回作でお会いしましょう