表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/27

14 おでかけ(前編)

 前回までのあらすじ。


 ある日、私は鏡を戸棚のいちばん上に置いて外出しました。

 その間、時子お姉さまは鏡を見ることができません。


 そう、私はその日、生まれて初めて他人に“いじわる”をしたのです。

 ――それも、だいすきな時子お姉さまに!!


 そんな私を見て、明智はなさんは『ぼくとおなじく“いじめっ子”になったんだね』と笑っていました。私は憤慨しましたが、しかし……


 あのとき戸棚の下で、必死にもがき泣きわめくお姉さま。

 あんな、すこぶるお可愛らしい姿を見てしまい、私は新たな興奮に目覚めるのです。


 それは、まるで地を這う虫が、蝶になって羽ばたくように――。



 そして今。


 あれから、もう一ヶ月です。

 あの日以来、私はちょくちょく、おなじ“いじわる”をするようになりました。


「お姉さま、それでは行ってまいります」

「ふみぃ! ふみぃ!」


 お姉さまは、何度も私の名前を繰り返します。


 何をおっしゃりたいのかは、わかっています。

 鏡のことです。決まっていました。


「ふみぃ……!!」

「だぁめ。鏡は、戸棚の上に置いておきます」


 そうです。

 この日も私は、いつぞやとおんなじように


 手鏡を、棚の一番上に置いたのです。


 かつては「留守の間、これを見ていてください」と、床に立てかけておいた鏡をです。


 つまりは、いじわる。

 鏡をどうするかを聞いて、お姉さまは「ふみぃ」と恨みがましい目で私のことを見つめます。


 怒っていて、悲しそうで、哀れっぽい、そんな目です。

 この目をすることは、今の時子さまにとって、私にできる唯一の反撃でした。


 アア、なんと可愛らしいコトでしょう!!


「うふふっ、あははっ。駄目ですよぉ。

 だって、お姉さま、ゆうべの晩ごはん、すねた顔をして食べていらしたじゃありませんか。だから、これは罰なんです」


「ふみぃ、ふみぃ……」


 必死に名を呼ぶ声を背中に、私はぷいっと玄関を出ていきます。


 もちろん背中はゾクゾク震えていました。



 最近、私はお出かけのときは、いつもこう。


 それどころか、このいじわるをするためだけに、意味もなく出かけることが増えました。


 今日などは、篠崎佳子さまたち――女学校時代の時子さまのとりまき連中に会いに行くという、ほんとうにどうでもいい用事です。


 前なら、くさくさしての外出でしたが、最近は違います。


 はなれで、お姉さまがふみぃふみぃと泣きながら待っていらっしゃると思うと、それだけで心が躍るのです。
















 これが、のちにどんな結果を生んでしまうのか、

 おろかな私にはまだ想像すらついていませんでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おお、待ってました 更新ありがとうございます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ