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化学室の主と忘却04

「ごめん」

 某木が小さく謝った。

「俺の方こそ、噴いたのがかかった。すまない」

「問題ない」

 半分程減った緑の液体のビーカーを置いた某木が白衣で拭きながら端的に答える。

「なら良かった。で、話を戻すが、都合良く記憶を消すことなんかできるわけがないと俺は思うんだが」

「わかる、たぶん、多くの人がそう言う」

「いやいや、みんな言うだろ? 言わない人間の可能性を示唆するなよ」

「それは……」

 某木が言いかけたところで、奥の化学準備室の扉がバァンッ、と勢いよく音を立てて開いた。

「やっちゃーん」

 綺麗な黒髪の女子生徒が泣きそうな声を出しながら入って来る。

 セーラー服のリボンは赤ではなく、三年生を示す青なので先輩のようだ。

 小さな髑髏が連なった首飾りと金色の大きな腕環、いかにも魔法使いが着ていそうな濃い茶色のローブを制服の上に羽織っている。

 彼女は俺たちが向かい合っているのを見つけて動きを止めた。

 信じられないものを見るように目を見開いた後、指をこちらに向けて叫んだ。

「や、やっちゃんが男を連れ込んでお茶してるー!」

 どれをどう好意的に解釈したら、気泡が次々と湧き出ているビーカーに入った明るい緑の液体がお茶に見えるのだろう。

「やっちゃんって誰だ?」

 俺の疑問に赤い髪が指で自分の白い顔を示した。

「私の下の名前、約分、集約とかの『ヤク』、だから」

 つかつかと近づいていた先輩が、先ほど某木を呼んだ声とはうって変わったドスの利いた低い声で唸った。

「おどれ、アタシのやっちゃんに手を出そうなんて、どこの学校だァコラァ!」

「この高校ですよ!」

「まあ、それはそうだよね」

「急! テンションの落差が激しすぎる!」

 突然に入ってきた彼女は俺の言葉に満足したのイヒヒと笑う。俺の訝しげな顔を察した某木が入ってきた彼女に手を向け、説明する。

「ヒョーちゃん、占い部、お隣」

「そーでっすっ、オモテです。愛称はヒョーちゃんです☆」

 そう言って彼女は中指を薬指を畳んだ手を顔の横に付け、舌を出してウインクを決めた。

「はあ」

 突然現れた三年生への対応がわからず、あやふやなリアクションを小さく返しておく。

 小さく頭を下げた俺を値踏みするように先輩が見て言った。

「キミはアタシのやっちゃんに手を出す気なのかな? そうならまずはこのアタシをクロスカウンターで倒してからなんだけど」

「クロスカウンター限定!?」

 突然、先輩がシッシッと言いながらシャドーをし始めた。

 あ、この人、たぶんめんどくさい人だ。

 某木は慣れているようで、無表情のまま口角を上げてさえいない。

 少しは笑ってやれよ。

「誰なんだ?」

 俺が先輩を指差して某木に訊く。

「ヒョーちゃん、何の用?」

 俺の問いには答えず、愛想のない無表情な顔で某木が先輩に向いて口を開いた。

 先輩があっけらかんと言った。

「忘れた」

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