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花シリーズ

ひまわりが笑う頃に

作者: 東京 澪音

小学5年生の夏休み、僕は暇を持て余していた。

家は父も母も共働きで、お盆休みとか関係ない仕事をしていた。


僕は夏休みの日記が大嫌いだった。

家族で出掛けたり、遊んでもらった事なんて殆どないから日記を書くことが出来ない。


日記は殆ど毎日同じ内容。

朝起きてラジオ体操に行き、夏休みの友をやって、近所の河原で川遊び。


でもこの夏、僕には新しい友達が出来た。


家の裏手にあるとても小さな森。

僕はここでよくカブトムシを採ったりしていた。


その日は子供会の集まりで、夕方から公民館で夏祭りの太鼓の練習が19時位まであった。

夏祭りはもう来週に迫っていた。


僕はその帰りに小さな森に寄ってみた。


いつもはいるはずのカブトムシが今日は見当たらない。

どうやら僕より先にここに来た人がいるらしい。


小さな森を抜けると、少し大きな家がある。

去年カブトムシを探してこの家の庭に入ってしまった事がある為知っていた。


今日は帰ろうと、少し大きな家の前を通りかかると、女の子とおじいさんが花火をしていた。

綺麗な色の花火。

風に乗って花火の煙と匂いがする。


僕はこの花火の匂いがたまらなく好きだ。

しばらくその花火を眺めていると、おじいさんが僕に気が付き、僕をそこへ呼んでくれた。


見た事のない知らない女の子。


僕はおじいさんに花火を分けてもらうと、その子の横で一緒に花火をした。

あまり人見知りしない僕は、女の子に話しかけてみた。


転校生?

女の子は首を振った。


歳を聴いたら同じ年だった。

女の子は神奈川県に住んでいて、夏休みを利用しておじいさんの家に遊びに来ているらしい。


女の子の家もご両親が共働きで、この夏は一人でおじいさんの家に来ているみたいだった。

お父さんとお母さんは、お盆にこちらに帰省して、お盆が過ぎたら家族で神奈川に帰るらしい。


花火が終わる頃、玄関からおばあさんが出てきて、家に招き入れてくれた。

図々しくもスイカをご馳走になり、色々な話をした。


気が付くと時計は8時半を過ぎていたので、僕は大慌てで帰る事にした。

おじいさんが僕を家まで送ってくれるという。


僕は近いからと遠慮したが、夜道は危険という事で送ってもらう事となった。

女の子もついてきた。


帰り道でも色々な話をした。

女の子の住んでる街の事、学校で流行っている事、よく見るアニメとか。


気が付いたら僕らはとても仲良しになっていた。


家について、玄関でお別れを行った時、女の子はとても寂しそうな顔をしていた。

友達もいないこんな町で、きっと寂しかったしつまらなかったのだと思う。

僕も同じ気持ちでいたから、この子の気持ちがよくわかる。


明日また遊びに行くから。


そう言うと女の子の顔が明るくなった。

指切りげんまんさせられたのは少し恥ずかしかったけど。


おじいさんと女の子を玄関の前で見えなくなるまで見送ると、女の子は何度も何度も振り返り、その度に手を振ってくれた。


次の日から僕らは毎日一緒に過ごした。

川で魚をとったり、駄菓子屋でアイスを一緒に食べたり、夏休みの友を一緒にやったり、市営プールにも行った。


この年の夏休みは、日記を書くのがとても楽しかった。


八月の第一週の土・日。

この日は夏祭りだ。土曜日は子供会のおみこしと太鼓がる為、僕らは日曜日に一緒にお祭りを回る事にした。


金魚すくい・ヨーヨーすくい・綿あめ。

おこずかいは少なかったので、あまり多くのものは買えなかったが、お祭りにいるだけで楽しかった。


夕方、女の子を家まで送ると、僕はまた図々しくも夕飯をごちそうになった。

夕飯の後におばあさんがスイカを切ってくれたので、縁側でスイカを食べた。


今まで気にしていなかったけど、庭にはひまわりが植えてあった。


女の子はひまわりをみてこう言った。

この鮮やかな黄色と太陽に向かってっ咲く姿がとても好きと。


スイカを食べ終わると、暗くなる前にと、おじいさんと女の子が家まで送ってくれた。

この頃になると、うちの母親なんかとも面識が出来ていて、女の子もよく来ていた。


母親と玄関で二人を見送る。

女の子は初めて会って日の時と同じように、何度も何度も振り返っては手を振ってくれた。


二人が見えなくなると、母親は僕にこう言った。

ひまわりみたいに笑う可愛い子だね。


子供だった僕には意味が分からなかった。


次の日女の子の家に行くと、お父さんとお母さんがいた。

女の子のご両親はとても優しい人たちで、一緒に遊んでくれたことに何度もお礼を言われた。


お礼を言われるような事じゃないんだけど、少しくすぐったかった。


僕らはいつもの様に夕方まで遊び、女の子を家に送っていくと、女の子は少し寂しそうに言った。

明日神奈川に帰るんだ。


最初僕には理解できなかった。

そう、女の子はこの町の子じゃないんだ。

忘れていた。いや、忘れようとしていたのかも。


明日の午前中には帰るらしい。


僕らはそれ以上何も話せずにいた。

明日、見送りに来るから!


それだけを告げると、僕は走って家に帰った。

明日が来なければいいのに。


いままでそんな事思った事もなかった。


部屋の時計を止めてみたりもしたけど、時間は止まらなかった。


お別れの日、僕らは指切りをした。

このひまわりが咲く頃にまた会おうて。


あの子が乗った車が見えなくなるまで見送って、僕の楽しい夏休みは終わってしまった。


それからいくつかの夏が過ぎたけれど、女の子と会う事はなかった。

今思えば、きっとそれが初恋だったんだろうと思う。


僕が神奈川県を好きな理由は、初恋の女の子が住む街だからかもしれない。

今頃どうしているだろうか?


ひまわりが笑う季節、僕はいつもあの子を思い出す。












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― 新着の感想 ―
[良い点]  女性にも気があったのかもしれません。 [一言]  よい初恋であるといいですね。
2016/05/31 10:39 退会済み
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