隠れ身の術
忍者といえば「ドロンと消える」という、煙幕をつかって消えてしまうイメージが強いと思います。
これは昔の映画や講談の影響が大きいようです。講談では忍者を魔法使いとして忍術を誇張して話しました。そして戦前に輸入された映画技術でたくさんの映画が製作されましたが、なかでも忍者が消える映画が大評判になりました。
これは煙幕をたて、フィルムをいったん止めて画面から去ってから、撮影を再開すると消えたように見えるという、今では単純な映画トリックですが、映画自体を初めてみる当時の人々には衝撃的な見世物で、おおくの忍者映画をつくられました。それで「忍者がドロンする」というイメージが定着したようです。
しかし実際には現実の人間が民話の仙術や妖術のように消えてしまうわけではありません。科学的合理性やマジシャンのようにあざやかな手法で姿を隠したので、消えたと勘違いさせたのが真相のようです。
ここでは江戸時代に書かれた忍術書から、忍者の隠れ方を紹介いたします。
忍術のなかで姿を隠す技術は「隠遁術」、「穏形」、「遁法」など、さまざまな呼び方がありますが、現在では「隠れ身の術」といったほうが一般的なようです。
現在のフィクションのマンガやアニメ、特撮ドラマの隠れ身の術は、壁や石垣などの建物、木や草の茂みなどと同じ色や絵柄にした布で身をつつんでカモフラージュして姿を隠すというシーンを見たことがあると思います。
また、忍者は敵から襲われ、危ういシーンで丸太に入れ替わって攻撃を避けるというのも定番のシーンですね。
これらを作品によっては「隠れ身の術」以外にも、「身代わりの術」、「隠れ蓑の術」、「空蝉の術」などと呼ばれていますね。
元になった江戸時代の忍術の秘伝書ではまず、五遁の術と呼ばれる火遁、水遁、土遁、木遁、金遁とその他の遁法が紹介されてます。こちらは別項で紹介します。
ここでは動物、自然現象から学んだ隠れ身の術を紹介します。
「狐隠れ」
狐という動物は狩人や捕食動物に追われると水中に逃げ込み、ハスの葉、藻などの水草を頭にかぶり、鼻先を水面に出して隠れる知恵があったといいます。(『万川集海』より)
そこから、忍者が追われたとき水中にもぐって竹筒をシュノーケル代わりに潜水して身を隠す術。犬の匂いによる追跡もふりきれます。
「狸隠れ」
狸は猟師に追われると樹上によじ登り、木の葉の茂みや枝に隠れて姿を隠したことから学んだ隠れ身の術。忍者は鉤縄や手鉤をつかって素早く木登りしたと言われます。
「狸退き」
上記の狸隠れとは違って木登りをしません。追手がせまってきたら、慌てずに落ち着きはらい、「怪しい者はあちらへ行った」などといって無関係を装う術です。また、木陰や建物の影などの物陰にかくれて追手をやりすごす術です。狸の習性というより、ずる賢いタヌキオヤジの知恵ですね。別項でのべる「人遁の術」でもあります。
実際の狐や狸は、猟師の撃った鉄砲の音に驚いて、傷を負ったわけでもないのに気絶し、猟師が仕留めたと勘違いして安心したすきに息を吹き返して逃げ去った――そんな臆病な動物の習性を狩る人間側から見ると「狐や狸はずる賢い」というイメージが生まれたようです。
「鶉隠れ」
鶉という丸っこい鳥の習性を真似て、追手から身を隠すために、物の近くに寄り、うつ伏せになって寒夜に霜の音を聞く如く息を殺し、首をひっこめ、手足を縮めて、石のように身動きせず、じっと動かずに気配を消して隠れる術です。
この時、摩利支天の印を結び、真言の呪文「オンアニチヤマ、リシエイソワカ」と唱えて心を落ち着かせることが大事です。ほかにも「うつ伏せは五つの得があり、あおむけは五つの損がある」と忍術書は伝えます。
「観音隠れの術」
植物や立ち木、壁や塀などの遮蔽物に寄り添って、追手が近づいても棒立ちになって、じっと動かない術です。見つかりそうなものですが、追手の意表をついて案外見つからないと忍術書「万川集海」は説きます。このとき、袖で顔をおおって、目だけを出して息を殺し、上記でも紹介した摩利支天の呪文を唱えて心を落ち着かせます。
「木の葉隠れ」
名前を聞くと世界的にも有名な忍者マンガの里の名前を思い出す方が多いと思いますが、おそらく語源となった術と思われます。別項でのべる「色遁の術」でもあります。
町や里ではなく、自然の森のなかなどで隠れるためには自然の一部になりすますのが最適です。落ち葉や木の葉の茂った枝などを使って偽装して隠れる術です。
これは現代の軍隊やゲリラの使う迷彩服に引き継がれているようですね。
迷彩服はは自然に溶け込む色柄で自然に隠れるように考慮されて作られています。
また迷彩服の一種で、現地の植物をネットでくくりつけたジェットやヘルメットなどのギリースーツがあります。
これも木の葉隠れの術の未来形ですね。さらに補足すると、ギリースーツは温度差を感知する赤外線カメラの登場で見破られてしまいますが、対抗策として赤外線に感知されないスーツが登場しました。まさに、いたちごっこですね……
そしてカモフラージュ(カムフラージュ)とは、人だけでなく、戦車や戦闘機、艦船、兵器、建造物までも迷彩塗装や自然物に近い形にして自然に溶け込むことです。
他にも「天井隠れ」、「床下隠れ」、「雪隠隠れ」などの場所限定の隠れ身の術があります。雪隠とは便所、トイレのことです。




