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陽忍の術・近入りの法

 陽忍術・近入りの術は、遠入りの術より短時間でおこなうため、敵側に気取られないよう注意が必要。臨機応変にことに対して、好機を逃してはならない。

 敵陣に潜入したら、時機をねらって放火・撹乱・破壊活動などをおこなう。



略本りゃくほん術」


 略本とは、「基本的なことは省略する」ことである。つまりは、忍者の基本的な技術・知識を心得ておくこと。七カ条あるので紹介しよう。


1、敵方の陣地の様子、物頭・奉行・近習・使番などの氏名・住居などをよく調べて、覚えておくこと。

2、敵方にそむいて浪人となった者、出入りの商人、職人、猿楽などに近づき、敵状を調べておくこと。

3、自分の生まれを偽るために、他国の風俗・方言・地勢に関してよく知っておくこと。

4、さまざまな国の城主の偽印・筆跡・花押をならっておくこと。

5、仮妻・仮子をともなって行くこと。

6、味方との連絡方法や合図をよく決めておくこと。敵の合言葉・合印を知りおくこと。

7、胴衣・肩衣などを多数ほど色染めにして持ち歩くこと。


迎人げいにん術」


 敵方の軍勢が味方に攻め寄せてきたとき、これを出迎え、敵の宿営に忍び込んで敵状をさぐる術。

 敵方の親族・縁者の使者といつわって潜入する。または、敵の宿舎から五、六里はなれた「郷士の者」といつわって陪従ばいじゅうを願い出る。

 もしくは味方の陣地から五里から十里ほどはなれた場所で出迎えて、敵陣へ陽忍・陰忍などあらゆる術をもちいて忍び入り、放火して混乱させる術。


妖者ばけもの術」


 この場合の妖者とは、化物ばけもの、妖怪変化の意味ではなく、変装する(化ける)ことをいう。

 特に有効な者は、非力な者である。つまり、乞食・不具者・病人・狂人などに変装して近づく。

 敵方兵士も追っ払ったり、あるいは憐れんで施しをしたりするだけで油断する。

 そこに付け入り敵方の城内や陣屋に潜入する。放火や騒動をおこして城外の味方の軍勢を押し寄せさせる。

「万川集海」によれば、近江の大名・六角義賢が百々(どど)隠岐守おきのかみのまもる沢山(佐和山)城を攻めるのに、伊賀崎(楯岡)道順どうじゅんという伊賀忍者を呼び寄せた。

 道順は部下を「妖者の術」で乞食などに変装させて城の様子をさぐった。そして、忍び込んで放火し、混乱に乗じて、城を落して手柄をたてた。


参差かたたがえ術」


 参差とは高低・大小の出入りのあること。入り混じる、散らばる術。

 狭い場所で人がすれ違う場合、肩を斜めにかたげて通すように、相手がかたげたら、すかさず入るという意味。陰陽道の風習「方違かたたがえ」とは関係ない。

 敵軍が城内・陣地から出たとき、入れちがいに素早く敵陣へ入ること。また逆に敵が城内・陣地にもどったとき、敵地から忍び出ること。陽忍・近入りの術のもっとも秘密の術といわれている。


一連離行いちれんりこうの術」


 雑兵たちは一連の隊形で行進する。その場合、一、二間ほど歩行距離をあけて行進する。そこで、雑兵に変装してその隊列にまぎれこみ、敵城内・陣地に潜入する術。


水月すいげつの術」


 水中にうつる月のように、臨機応変に忍び込む術である。例としては、

 昼の合戦、夜討ちに関わらず、敵味方入り乱れての戦闘中に、敵陣内を走りまわって相印・相詞(合言葉)を調べておくこと。

 敵方の城を攻めるとき、三方より攻め、一方はわざと空けて逃げ口としておく。そこに敵の味方の使者をつかわせて、敵将に兵站へいたん(軍需品・食糧・馬)をおくる偽書状を送る。

 後日、偽の荷駄隊の者に変装して城内に潜入。時をみて城門を開き、味方の寄せ手を招き入れる方法。


谷入たにいり術」


 敵国の谷川に入るように、味方の忍者が次々と敵陣営に個別に忍者として雇われる。そして、数が増えたとき、時期をみて敵城内に破壊工作をおこなう術。


虜反りょはん術」


 捕虜ほりょを抱き込んで敵国に戻し、叛逆させる戦術。また、捕虜を牢にいれて牢番や兵士がわざと偽りの情報を聞かせておく。そして、捕虜をわざと逃す。敵軍は偽の情報にふり回されるわけである。


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