遁法一覧
つぎに江戸時代に書かれた忍術書から、五遁の術以外の遁法を紹介します。
いずれも自然現象や地形、心理学、科学の応用したものでなるほど昔の人はよく観察したものだと感心するものから、首をかしげてしまうものもあります。
まあ、平成の派手な忍者ゲームやアニメになれた方々には地味に感じるかもしれません。
しかしですね……これらの遁法のネーミングは、実に語感が良い! カッコいい!
魔法のような新しい忍術を考えて妄想するというのも楽しいです。
また、忍者が登場するゲームやラノベ、マンガなどを考えるときに参考にしてみてください。
○生き物をつかった遁法
「虫遁の術」 ヘビ、カエル、トカゲ、ヤモリ、クモ、ムカデ、ゴキブリなどなど……人々に嫌われる下々の虫などをつかう遁法です。平気な人もいますが、生理的に苦手な人には効果絶大です。忍者は普段から飼育して虫の習性を研究してつかったといいます。
ちなみに中世では爬虫類や両生類は虫と分類されていました。
講談時代の忍者である自来也などの忍者(当時は「忍術遣い」と呼んだ)は大ガマの背中に乗って登場するのも、虫遁の術からの連想でしょうか?
例として、武家屋敷の台所に天窓からヘビを投げ込み、女中たちが大騒ぎして、侍たちが「何事か!」と、皆がかけつけた隙に密書を奪うなんていう応用法もあります。戦国時代から江戸時代の家屋にヘビやヤモリが忍び込んでも時たまあることで、まさか忍者が人為的に起こしたとは考えにくかったでしょうね。密書を盗まれて、「されは……」と思い当たっても後の祭りです。
「鳥遁の術」 鳥寄せ笛や口笛で小鳥を集めて一斉に解き放ち、その隙に逃れる遁術。鷹やフクロウを飼いならし敵に攻撃させて、その隙に逃れる術。
「隠れ身の術」で紹介した「うずら隠れの術」もこれに入るそうです。
「魚遁の術」 魚をつかって逃れる方法。
「獣遁の術」 昭和三十年代の忍者ブーム以前の講談では、忍者が天井に忍び込み、下の部屋の侍や大名が曲者に気がついたとき、懐に隠し持った数匹のネズミを解き放ち、「なんだネズミか……」とゴマかしたシーンがよく使われ、忍者と言えばネズミ使いというイメージがあったようです。
伊賀流はネズミ、甲賀流はネコをよく使ったそうです。
猿回しに変装した忍者が、飼いならした猿を武家屋敷の高い塀を登らせて、門に回らせて閂を取らせて潜入したという術もあります。「隠れ身の術」で紹介した「狸隠れの術」、「狐隠れの術」なども広義で獣遁の術に入れる忍術書があります。
白土三平氏の忍者マンガでは犬猫猿などの動物を自在に駆使した忍者が多く登場し、「忍犬」、「忍猫」、「忍猿」などという言葉も白土三平氏が発明した造語です。
○人間をつかった遁法
「人遁の術」 大勢の人の集まりや雑踏にまぎれて逃れる遁法。刑事ドラマで犯人がよくつかう手ですね。これは詳細にわかれるようです。
「男遁の術」 男性をつかって逃れる方法。
「女遁の術」 女性をつかって逃れる方法。
「老遁」 老人をつかって逃れる方法。
「幼遁の術」 子供つかって逃れる方法。
「貴遁」 身分の高い人をつかって逃れる方法。
「賎遁」 身分の低い人をつかって逃れる方法。
○自然現象をつかった遁法
「日遁の術」 太陽の光を背にして追手の目をくらます術です。バトル系少年漫画でよく逆光を利用して隙をつく方法ですね。
「月遁の術」 闇夜に輝く月の光が雲に隠れて、暗闇になる瞬間に逃れる術。現在のように人工の光のなかった時代は、夜は月がないと真の闇となります。
「星遁の術」 星の光をつかって逃れるのではなく、北極星と北斗七星による方角や天文学による知識を学ぶことらしいです。う~~ん、無理強いっぽい解釈の術ですね……
「霧遁の術」「煙遁の術」 これは自然に発生した霧やガスを利用して逃れるもの。また、火薬、煙玉をつかって人工的な煙霧を発生させて逃れる術です。講談の霧隠才蔵、百地三太夫が得意としました。
「雲遁の術」 上記と同じような遁法です。雲の中に入る事。高い山に登ると、地上では雲に見えるものが霧だったと肌でわかります。行方不明になることを雲隠れといいますが、元は貴人が亡くなったときに使った言葉のようです。
「雷遁の術」「電遁の術」 敵に捕らわれた、追われた時に、自然現象の稲妻が発生する雲を予想して稲妻が落ちて、相手が動揺した隙に逃れる方法。また、火薬をつかって人工の雷の音響を再現して敵を驚かせたもの。
「潮遁の術」 潮の干潮を使って逃れる方法。潮流の流れにのって泳ぎ去る、または舟で逃れる遁法。
「風遁の術」 大風や台風、竜巻などに紛れて追手から逃れる遁術。
「雨遁の術」 突然の土砂降りの雨や夕立、現在でいうゲリラ豪雨に姿を紛れて逃れる方法。
「雪遁の術」 白い服を着て、雪をカモフラージュにつかって逃れる方法。また、吹雪にまぎれて逃げる術など。
いずれも自然現象をつかった遁法ですが、遭難しては大変なので、気をつけて……
○その他の遁法
「色遁の術」 忍者の装束はリバーシブルになっており、例えば表は闇に紛れる暗色でも、裏地に町人の着る生地であったり、百姓の着る野良着の生地であったりして、変装して逃れます。
また上記の「雪遁の術」のように白い生地であれば雪に紛れます。「隠れ身の術」で紹介した「木の葉隠れの術」もこれに入ります。
「毒遁の術」 毒薬をつかって目潰しなどで逃れた方法。
「音遁の術」 大きな音をたて、そちらに気を取られた隙に逃れる方法。人工「雷遁の術」もそうですね。
ほかにも「草遁の術」、「石遁の術」、「湯遁の術」、「屋遁の術」などがあります。
○奇門遁甲
「奇門遁甲」とは、三国志で有名な諸葛亮孔明がつかった兵法であり、現在は占いの術として伝わる術です。これは忍術の源流のひとつといわれる兵書のひとつで、遁法の名の由来と考えられています。遁法じゃないですが、吉格のネーミングがカッコいいので紹介します。
十八ある吉格で遁がつくのは下記の九つです。
「天遁」、「地遁」、「人遁」、「龍遁」、「虎遁」、「風遁」、「雲遁」、「鬼遁」、「神遁」