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五遁の術

 フィクションのマンガやゲームでは、「火遁・○○の術!」「水遁・○○の法!」と叫んで忍者が火炎や水流を自在に出して攻撃します。


 しかし、火遁や水遁の術に使われる「とん」という字は「げる」こと、つまり「逃げる」、「のがれ去ること」です。

 つまり敵に追われたらあざやかに隠れてやりすごす術の事です。隠れ身の術の一種であり、決して攻撃の技ではありません。


 ではありますが、日本語は常に変化していくものです。現在「おかしい」という言葉は、面白いという意味ですが、平安時代の「枕草子」、「更級日記」では、「風情ふぜいがある」、「おもむきがある」という意味でした。

 この先もゲームや新世代の小説では新たな名称の術名が生まれていくでしょう。


 このエッセイではそれらの元ネタとなった江戸時代の忍術書から元になった遁法とんぽうを紹介します。

 本格的な時代小説家を目指すかたや、忍者の歴史に興味のあるかたは参考にしてみてください。


「遁法」


 遁法とんぽうは、遁術とんじゅつ隠遁遁いんとんじゅつともいい、自然現象や心理学、科学を応用した隠れ身の術の一種です。遁法は忍者の本質でもある虚実転換法きょじつてんかんほうであり、重要な術です。

 遁法は何十種類以上ありますが、ここでは有名な五遁ごとんの術から紹介します。五行思想から発想したものでしょうね。


「火遁の術」


 敵に追われた忍者はまきやワラに火をつけて追手の注意をそらして、その隙に逃げます。また放火して騒ぎを起こして、その間に逃げます。これはまだ初歩的な火遁の術です。

 忍者は火薬の製法にくわしく、火薬で煙幕を発生させて、相手が驚いたすきに逃げます。中世では火薬はとても珍しいもので、戦国・江戸時代の人間が突然、煙が発生したら現代人以上に驚きます。忍者というと古めかしい印象がありますが、実は火薬は中国から伝わった当時最先端の科学を用いた術でした。


 忍術流派のなかでも甲賀流が火遁の術に優れていました。「甲賀流忍術屋敷」あることで有名な、滋賀県甲賀市甲南町竜法師の地名ですが、竜法師は「りゅうぼし」と特殊な読みかたをします。一説には花火の原型である狼煙のろしの「流星」からきているそうです。そのことからも、この地でひそかに火薬の開発が行われたと言われているのです。江戸時代になると幕府は火薬の製造を一部の者にしか許可しませんでした。その一部の者が甲賀組でもあります。

 火器をつかう火攻法として、火矢、火車剣の飛び道具があります。


「水遁の術」


 水を利用して逃げ去ることを総称して水遁の術といいます。泳ぐ、潜るといった水練すいれんを鍛えるのが、まず基本です。

 河川や湖沼、掘に飛び込み水中から竹筒を出して、息継ぎに使って長時間潜ることが有名な水遁の術ですね。忍者の刀は反りがなく、まっすぐな直刀で、鞘も当然まっすぐです。これを息継ぎの筒に使ったと言われています。


 しかし、現在のシュノーケルであっても筒から水が入りやすく、よだれが筒に詰まりやすいのです。排水弁つきシュノーケルが開発されましたが、当時はもちろん有りません、竹筒を息継ぎに使うのは現実には難しいようです。

 

 忍者はほかにも、甕筏かめいかだ水蜘蛛みずぐも挟箱船はさみはこぶねなどさまざまな水器を開発しました。これは別項で紹介します。

 また、追手から逃れるために、池に大きめの石を投げて追手に水に潜ったと思わせて別方向に逃れる虚実転換法を応用した術があり、これも水遁の術になります。


「木遁の術」


 フィクションでは草木などの植物を操り、丸太を身代わりにすることを木遁の術と呼んでいますが、本来の木遁の術は、もちろん地味です。

 樹木、草原、稲田、麦畑、材木置き場などに身を隠す術。日本家屋や納屋、小屋に身を潜めて隠れることを木遁の術といいます。

 また、樹木の幹や木目の絵柄にした布を保護色にして隠れる術も木遁の術といいます。


「金遁の術」


 金属を扱った術の総称であり、忍者刀・手裏剣など忍具を扱った術。白刃を閃かせる。半鐘はんしょうかねを叩いて注意をひく。鐘や大釜のなかに隠れる術。金銭をばらまいて、追手が拾っている間に逃れる術。大金で裏切らせる術。などなど……


 金遁の術は忍術秘伝書でもバラバラな記述があり、確定的なものは無いように思われます。やはり、五行とかけて格好よく五遁の術と言ったはいいが、無理がある……数合わせ的な遁法のようです。


「土遁の術」


 土を利用して逃れる遁法。こちらは忍術発生以前の戦争から使われてきました。

 忍術における土遁の術は、土地のへこみ、低地、岩石の影などの遮蔽物しゃへいぶつに隠れて、大地の一部と化す隠れ身の術が本質です。

 また、抜け穴や隠れ穴、トンネルを掘ることも土遁の術です。武田信玄は金掘りにつかっていた山師やまし集団・黒川くろかわ金山衆かなやましゅうを城攻めの破壊工作につかって成功したという記録があります。


 大坂の陣で作られたという真田の抜け穴も、実は徳川家のやとった金掘り師たちが大坂城への示威行為として掘ったトンネルが、のちのちになって抜け穴だったと勘違いして伝わったといいます。


 近代戦でつかわれる塹壕掘さんごうほりは土遁の術の未来進化形といえそうです。

 塹壕とは歩兵が銃撃や砲撃から身を守るために掘った穴や溝のことです。個人用はタコツボといいます。しかし兵器の発達により塹壕は消えつつあります。


 フィクションでは土をモグラのように潜って移動する、岩石を壁にする、泥人形のゴーレムをつくる……などを土遁の術といいますね。

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