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この狂った街の全てに抗え  作者: 柑藍
荒々しいのが赤原学園
8/37

塚本賢人という男

一方で

階段を上がる賢人は

赤原学園に入学する前のことを思い出していた


塚本賢人は赤原学園に入学する前までは

そう遠くはない別の街に住んでいた


幼い頃からヤンチャで暴れることが大好きだった


一緒に住んでいた祖父が

昔は強い人だったと聞かされてきた


頬には刃物で切ったような傷跡があり

いつか賢人はその傷のことについて

尋ねたことがあったが

若かりし頃のもだとはぐらかされた


賢人は大きくなったら

力で祖父に勝る男になることを夢見ていた


しかし

賢人が中学校に上がる頃には

彼の祖父は寝たきりの生活を送るようになっていた


1人では自由に動けなくなっていく祖父を

見ていて賢人は思った


祖父を超えることは不可能だと


そう気付かされると

暴れて何もかもを

壊してしまいたい衝動が沸き起こった

賢人は毎晩のように喧嘩をし

不良の間では有名な存在となっていった


地元では相手になる人間がいないほど

強くなった賢人だったが

その衝動が止まることはなかった


そして暴れていても何のために

自分がこんなことをしているのかわからなくなる

その思いを消すためにまた暴れる


賢人の中学時代は相当荒れていた


中学3年生のある日

いつものように喧嘩から家に帰ったのは

夜が明けた頃だった


帰宅した賢人は祖父から呼ばれていると言われ

寝室に向かった


「何?」


中学生になってから

あまり祖父と顔を合わせることがなかった

弱々しい姿を見ることを避けていたのだ


「また喧嘩か

程々にしなさいよ」


「説教か?」


「まぁ、待て

お前にはこの家の秘密を話しておく」


そう前置きをすると

ゆっくりと話始めた


「塚本家はかつて

大きな街を支配するほどの治からを持っていた

街の人にも慕われながら

それなりに上手くやっていた」


祖父の声だけが響く部屋で

賢人は興味深く聞いていた


「ところがわしが18の時

突然終わりが来たんだ

得体知れない組織にあっという間に潰された

その時、両親も殺された


最も強いと言われていたわしでも

歯が立たなかった

追い出されたわし達は

この街に逃げてきたんだ


この傷について

聞いてきたことがあったな」


祖父は懐かしそうに目を細めながら

頬の傷を触った


「若かりし頃のものだって

はぐらかしやがったけどな」


「この傷は

16の時に家を守る覚悟として自分でつけたんだ


…だが守れなかった


賢人、お前はきっとわしよりも強い

その強さを無駄にするな

自分の大切なものを守るために使いなさい」


賢人の目をじっと見る


その目の力は

元気だった頃のものと変わらないと

賢人はそう思った


「はっ、結局説教かよ」


これが2人の最後の会話となった

この会話の次の日

祖父は息を引き取った



上下ジャージという非常識な格好で葬式に出た賢人は

ツカツカと遺影の前に立つと

ポケットからナイフを取り出した


周囲の人々はギョッとして

少し距離を保ったまま

賢人を落ち着かせようとしている


そんな周囲のことなどお構いなしに

多くの視線を集めるなか

賢人はナイフの刃を自分の方に向けた


そして左の頬に思いっきり突き刺したのだ


厳かなお葬式で

血がポタポタと滴る異様な光景に

ざわめき立つ


「これはてめぇを超えるための覚悟だ

1つだけあったんだよ

てめぇを超える方法が」


そして中学卒業後

かつて塚本家が治めていた街にある

赤原学園に入学した


入学式の数日前、夜中に出歩いていた賢人は

いくつもの喧嘩の場面に遭遇した


自分が住んでいた街とは違う

こんな綺麗な戦い方をする奴はいなかった


ある喧嘩が賢人の目を惹いた

よく見れば女だということがわかった


この街には強い奴が山のようにいるのかもしれない

そう思うと

血が騒ぐ気がした


そしてこの街を塚本家から奪った奴を潰すことができれば

祖父を超えられる


そう考えると

その日が待ち遠しく楽しみで仕方なくなった


過去のことを思い出していた賢人の耳に

足音と叫ぶ声が聞こえてきた


廊下の向こうから走って来ているのは

涼で

その後ろから

一華が追いかけている


「逃げんじゃねーよ!」


一華の叫びを無視して

走るスピードを上げた涼は

あっという間に賢人の隣を通りすぎていった涼


御曹司だからといって

動けない訳ではないようだ


続いて一華が通りすぎたが

相当怒っているようだった


「うるせーな」


賢人は2人がこれから

喧嘩をするかもしれないことには

全く興味を示さず

また歩き出した


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