願い叶わず
数日後
特に大きな問題も起きていないが
それは未だ5人全員が揃ったことがないからかもしれない
柴崎一華は1度も登校してこないし…
そんなことを考えながら
校門に立ち
登校してくる生徒にあいさつをする三浦
登校時間を過ぎてからの方が
校門をくぐる生徒が多いため
いつになってもちらほらと登校してくる生徒の姿が見え
なかなか校舎に戻ることができずにいた
だいぶ時間が経ち
もう誰も来ないだろうと校門を離れようとしたその時
1人の生徒が歩いて来るのが見えた
「派手な髪色だな…」
遠くからでもわかる
金髪に思わず三浦は呟いてしまう
時間を気にすることなく
ゆっくりと歩いて来ているが
次第にその姿がはっきりと見えてくる
黄色に近い金髪を後ろでまとめている女子生徒
目鼻立ちがはっきりしていて
ダルそうに鞄を持っているが
かなりの美人だ
三浦は
つい見入ってしまっていた
するとその女子生徒は
三浦の前で立ち止まり
じっと見つめた
さすがに見すぎたか
と焦る三浦に対し口を開いた
「なぁ
私、2年になってから学校来んの初めてでさ
クラスとかわかんねーんだけど
どうしたらいい?」
「え…」
聞かれた三浦は
目を合わされたままで落ち着かないのか
聞かれたことを理解しようと
必死に頭を働かせているようだ
「えっと…
2年生は東棟の3階です
でも、クラスがわからないなら
職員室に行った方が早いかもしれません」
オドオドと答えた三浦を
彼女は表情を変えることなく
見ていた
そして
「あぁ、そうだな」
とだけ言うと
またゆっくりと校舎へと向かった
校門から校舎までは
結構距離がある
三浦は彼女の後ろ姿をずっと見ていた
すると彼女の前方から2人の男子生徒が現れ
なにか話しかけているようだ
あいさつでも交わしているのか
と思いながらそのやりとりを
見ていたが
次の光景に三浦は目を疑った
男子生徒2人が
声を荒げながら殴りかかったのだ
「えっ、ちょっと!
君たち!」
駆け寄りながら
三浦は叫んだつもりだが
声は全く響かなかった
だが
三浦が追い付く前に
女子生徒は1人に蹴りを入れると
すぐにもう1人を持っていた鞄で殴った
1発ずつだったが
すごい力だったのだろうか
2人とも地面に倒れこんだ
あっという間の出来事だった
三浦が追い付いた頃には
もう全てが終わっていた
「…」
その光景に三浦は何も言えずにいた
地面に這った男子生徒が
女子生徒を睨み付けている
「ぅ…調子に乗るなよ、柴崎…」
だがその言葉には聞く耳を持たず
柴崎と呼ばれた彼女は
息の上がっている三浦に目を向ける
「何か用?」
「いや…
え、もしかして…君が柴崎一華さん?」
三浦にはちゃんと男子生徒の言葉が聞こえていたのだ
校門での
今日が初登校の2年生という会話の時点で
彼女が柴崎一華だと気付きそうだが
そこまで頭が回らないほど
三浦は焦っていたのかもしれない
「そうだけど」
何か文句でもあるのか?とでも言いたそうな目付きだ
だが三浦は先程までビビっていたのが
嘘のように明るい笑顔になった
「そうですか!
いやー、学校に来てくれて良かったぁ
柴崎さんは2年F組です
そして、僕がF組担任の三浦です
よろしくお願いします」
担任として
このまま一華が来ないことを心配していたのだ
登校したことがとても嬉しいことらしい
「あ、そう」
そんな担任の気持ちなど全く知らない一華は
冷たくそう言い放つだけだった
三浦と一華が
教室に向かい
初めてF組が全員出席かと思いきや
五十嵐涼が欠席していた
「せっかく全員揃うと思ったのに」
涼の席を見ながらガックリする三浦
三浦が望む全員出席はまだ成し遂げられそうにない