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白馬の王子様

作者: 福寿草

昔からの憧れ。

絵本で何度も何度も読みなおした素敵なお話。

お姫様は白馬に乗った王子様が迎えに来てずっとずっと幸せに暮らしましたという女の子なら一度は読んだことはあるであろうお話。

きっと私にもいつか白馬の王子様が迎えに来るって信じてた。

けれども


「こんなお迎えだとは思ってなかったーー!」




私の名前は佐藤結愛。

どこにでもいるであろう高校二年生。

おしゃれやテレビや雑誌や芸能人の話をすることが好きという、(自分でいうのはどうかと思うが)平凡な女の子である。

来年は受験だと思いつつも将来の夢なんていうものはなく、来年はどうしようかというのが最近の悩みである。


「佐藤、進路はどうするんだ?」

「まだ決まってなくて……」

「来年なんてすぐだぞ。進学するという可能性があるのであればすぐに勉強を始めておけ。勉強なんてのは積み重ねだからな、早めからやっておかなくては意味が無い」

「はい……」




進路相談の帰り道、気分が重くなりため息をついてしまう。

(夢、ゆめか……。昔は確か白馬の王子様がお迎えに来てくれて、恋愛して、結婚して幸せにいつまでも暮らしましたっていう絵本の物語に憧れたっけ。現実は……そうはいかないよね)

確かに今でも少しは憧れてしまうが、そんなことは現実にはありえないという理解が年齢とともに大きくなっていく。

(小さい頃はなんであんなに憧れたんだろう、どうして信じられたんだろう。白馬の王子様ってドラマや絵本や小説の中の登場人物、架空の存在なのに。小さい頃って本当に不思議で恥ずかしいけど羨ましい)


そう思いつつ角を曲がると、小さい頃よく通っていた神社が見えた。幼稚園や小学生低学年の時によくここで遊んだものだった。

独特な研ぎ澄まされ澄み渡ったような空気が好きだったのだ。樹の根元に座り空を見上げたり、鳥を見つめたり、木の葉の揺れる音を聞いたり、何かをするのではなくただいることが好きだったのだ。

つい寝てしまって母親に迎えに来てもらい、家で怒られた記憶もある。

(最近来てなかったな。久しぶりだしお参りをしていこう)


お賽銭を入れ、鈴を鳴らし、お辞儀をする。

一息を入れ本殿をしっかりと見つめ柏手を打ち、お願いごとを言う。

(いつもありがとうございます。本日参ったのは将来のことのためです。私はまだ将来ということが見通すことができません。しかし、今後選ぶ道が自分にとってより良いものであるようお導き下さい)

そう願った後に、ふと先ほど思い出した小さいころの夢についても付け加えようと思い返した。

(小さいころの夢であった、自分にとっての白馬の王子様と出会えるようどうかお導き下さい)

もう一度お辞儀をした時に何か聞こえた気がした。



夜寝ていると、何か暖かいものが頬を撫でていく。そしてそれとともにとても大きな呼吸音が耳に届く。

(んー……なにこれ? 暖かいものが頬を撫でてる?)

夢だと思い、払いのけるように手を動かし寝返りをうつ。しかしその暖かいものは、変わらず逆の頬を撫でてくる。

(……不審者? 怖いけれどこのままじゃいけないよね。少しだけ目を開けてみよう。……せーのっ、いち、にの、さん!)


何か真っ白な布が見える。毛布かと思ったが、毛布であればこんなに表面が見えることはない。薄目をしつつ、寝返りをうつふりをしながら全体を見た。白い毛、黒い目、ぴんと立った耳、大きく少し灰色がかった鼻、背中にはこれまた真っ白な流れるようなたてがみ。

なぜそんな生物がここにいるのか分からなかった。寝返りをうった床を見てみれば自分の布団ではなく、色も大きさも違う敷布団。

昨日、黒色のカバーに替えたはずだが今は白色だし、そもそも私の布団はこんなに大きくないはずだ。


「起きたのか?」

「……えっ?」

いつの間にか目をしっかりと開いていたのだろう、誰かの声が聞こえた。男の人だと思う。声低かったし。

このままでは何も解決にならないと思った私はゆっくりと起き上がって周りを見てみた。

やはり目の前には真っ白な馬がいた。こんなにも白く綺麗な馬は初めて見た。触ってしまうのもためらってしまうくらいだと思った。

そして部屋は自分の家の一番広いであろうリビングよりも広い。ひょっとしたら、自分の家の床面積はあるのではないかと思うくらい広かった。そして装飾品もこれまた白い物ばかり。


「ここ、どこ、なの……」

全く身に覚えがない部屋だった。自分の家でももちろんないし、親戚友達にもこんなにも広くて真っ白な空間はない。そもそもなぜ馬が部屋にいるのか。

「ここは俺の部屋だ」

また声が聞こえた。やはり男の人だ。しかしいくら周りを見渡しても男の人は見当たらない。スピーカーとマイクがあるのかと思ったがそれらしきものも見当たらなかった。

「どなたですか……? どこにいらっしゃるんですか……?」

「お前の目の前にいるではないか」

「目の前……?」

目の前には、真っ白い綺麗な馬がいるだけだ。

「どこ……ですか……?」

「ここにいる」

まさかと思いつつも馬を見つめ返す。すると返事は馬から聞こえる。

「え、えっと……スピーカーをつけているんですか? どこにつけているんですか? すごいですね。馬がしゃべっているかと思いました」

「……信じられないかもしれないが、目の前にいる馬が喋っている。飼い主もスピーカーとやらもない」

「え、えええええ?!」



どうやら異世界とやらにきてしまったとのことだった。

外で寝ていた私を保護してくれたのが、この真っ白なお馬さんな彼。

そしてこの国の王子様だという。



確かにお迎えにきてくれと願ったが、

「白馬な王子様が迎えに来るなんて思ってなかったーー!」




しかしこの馬の王子様、魔法使いに呪いをかけられたためにこの姿であったという。

全く絵本のような物語と同じであるとは言えないけれど、白馬の王子様が迎えに来てくれて将来幸せに暮らしましたっていうのは叶った。

……でいいんだよね?私の白馬の王子様!

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