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第2話 Giant Devil Step

2013年6月2日午前9時48分。東京都千代田区霞が関、警視庁。魔神"ヴォルケニックス・グランドバアル"こと柳生但馬守宗矩は日本の警察の中枢といってもよい警視庁を訪れていた。何かやらかしそうな感じはするが、別に何かしらの事件を起こしたから自首しに来たわけではない。自首するだけならお近くの新宿警察署や交番に行けばいいが、今回はそうではない。宗矩はある人物に呼ばれて、わざわざ警視庁まで来たのであった。まさか宗矩に警察関係の人物と交流があるのには驚きだが。


「超常犯罪捜査課の神楽坂葵に会わせて貰おう」


「はい、え~っと、超常犯罪捜査課の神楽坂警視ですね?少々お待ち下さい」


宗矩は警視庁の受付に向かい、超常犯罪捜査課の神楽坂葵警視なる人物に会わせるように頼む。実は警視庁に来るのはこれが初めてではなく、呼ばれる度に警視庁に来ていた。受付の婦警も何度も訪れる宗矩の顔をすっかり覚えてしまっていた。訪れた当初は何処となく漂わせる悪者オーラに職員一同警戒していたが、今や慣れてしまったようだ。たまに宗矩を初めて見かける職員から警戒される事があるようだが。待たされる事10分、ようやく宗矩は婦警の案内で超常犯罪捜査課に向かう事になる。


「お待たせしました、ご案内します」


「うむ」


午前10時06分。警視庁5階超常犯罪捜査課。そこは警視庁内で“陸の孤島”と呼ばれている殺風景かつ小さな部署である。宗矩は婦警の案内でそんな場所に連れて来られた。何度も足を運んでいるが、相変わらず殺風景な部屋だと思う。そしてそこには超常犯罪捜査課の課長にして唯一の職員である青みがかった長髪をポニーテールに束ねたグラマラスな美女が宗矩の待っていた。赤い革ジャンのライダースファッションに身を包んだその姿はとても警察官には見えない。


「神楽坂警視、連れて参りました」


「あぁ、ご苦労」


「では、失礼します」


「相変わらず卿は暇そうだな」


「あぁ、暇だぞ~?お陰様でな」


彼女こそがこの超常犯罪捜査課の課長・神楽坂葵(かぐらざかあおい)である。若くして警視という階級に就いただけあって、これまでに数多くの犯人を検挙してきた非常に優秀な警察官だ。しかし、あまりにも組織のあり方を完全に無視して好き勝手に捜査したり、少々度が過ぎる暴力を犯罪者に振るったり、犯人を追跡する為にスピード違反したり、平気で銃を発砲したりと警視庁一の問題児でもあった。そんな問題児の為に設立されたのが超常犯罪捜査課だ。ハッキリ言えば組織的には邪魔な葵を追いやる為の窓際部署でそこの課長というのは所謂閑職であった。


「卿が色々やらかすからいけないのだ」


「最初に言っておくが、私はいつだって私のしたいようにやるだけだ。お前には言われたくない」


「別に“最初に”なんて付けなくてもよかろうに…」


仲が良いのか悪いのか、とにかく親交がある2人だが、宗矩が悪魔であるように葵にも誰にも知られてはならない秘密があった。それは葵が宇宙人だという事である。葵の本名は“アクエリア・マリンフォード”。地球から遠く離れた水の惑星・リヴァイア星出身のリヴァイア星人なのだ。宇宙全体の平和と秩序を守る宇宙警察の警察官であった葵は地球、とりわけ日本が大好きで、それが高じて日本人の姿に擬態して日本警察の警察官になってしまい、こうして今に至るのだ。勿論、お互いの正体は知っており、人ならざる者同士協力して平和を守っているのだが、むしろ平和を乱す側に見られるのはご愛嬌かもしれない。


「そうだ、水でも飲むか?いや、喰うかい?」


「何をバカな事を言ってるのだ。卿はアニメの見過ぎだ、それにわざわざここまで来たというのに卿は我に水を飲ませるのか?」


「私がコーヒーやお茶が嫌いなのは知ってるだろ?それに好きだろ?アンコ」


「杏子が好きなのは否定しないが…」


超常犯罪捜査課は基本的に暇な部署なので、葵は勤務中であるにも関わらず、アニメやゲームを楽しんでいた。しかも、暇なので一緒にアニメを見る為だけに宗矩を呼んだ事もあるぐらいだ。とは言え、宗矩もそんな下らない呼びかけにも律儀にキチンと応えてやっていた。意外と宗矩もアニメやゲームは好きな方である。因みに葵に言わせれば日本のアニメが銀河系で1番面白いらしい。どうやら日本の二次元文化は他の惑星や異種族にも好評のようだ。


「まぁいい、卿がコーヒーやお茶が嫌いなのは知っている。だから、代わりの物はないのか?」


「はぁ、仕方ない奴だ。ほら、アクエリアスだ」


「出すと思った…卿はもう少し来客に気を遣うべきだ。いくら何でもアクエリアスはなかろう」


「ぐぬぬ、さっきから文句ばかり言いおって…!じゃあ、何がいいんだ⁉」


葵が来客である宗矩に出したのはスポーツドリンクで有名なアクエリアスであった。葵が地球で好きな飲み物がアクエリアスで、理由は単純に自分の本名そっくりだかららしいが、勿論その味も気に入っていた。この超常犯罪捜査課には大量のアクエリアスがキープされており、なくなれば箱買いなんて当たり前だ。とは言え、とても来客に出す飲み物ではない。


「自分が飲まなくてもお茶やコーヒーは来客の為に用意しておくべきだろう?インスタントで構わん。因みに我は飲まないからな」


「じゃあ、いいだろ?別にお前なんかアクエリアスや水で充分だ!」


「後は万人受けする爽健美茶とかココア、烏龍茶とかでもいいだろう」


「そ、そうか、参考になったぞ」


葵は地球に来て10年ちょっとになるようだが、未だに地球の文化を理解しきれていない部分があったりする。勿論、葵は大の親日家なので理解しようと努力はしているが、それでも1人で何でもかんでも吸収するのはやはり難しい。そこで頼りになるのは宗矩だ。魔神としてこの人間界に災臨してから早3000年以上は経過し、日本に移り住んでから2000年は経っている。日本の文化というより地球の文化は誰よりも理解しているハズだ。なので、葵は宗矩を頼りにしていた。


「用は済んだな?我は帰る」


「ま、待て!これからが本題なんだぞ?」


「何だ、まだ何かあるのか?」


「昨日の深夜の事を訊かせて貰おうか?」


「あぁ、その件か…」


帰ろうとする宗矩を引き止める葵。さっきまでとは雰囲気や声のトーンが違うので、ここからは仕事モードといったところだろうか。そもそも葵が宗矩を警視庁まで呼んだのはこの為である。その理由は昨日の深夜、宗矩が品川で怪物と戦った事に関してだった。こういう怪物関連の捜査は窓際部署たる超常犯罪捜査課が受け持っている。まず他の部署では捜査出来ないから閑職に任せるというのもあるが、人外の捜査は人外の警察官がすべしというのが上層部の本音だろう。因みに葵が宇宙人である事を知る警察官は上層部にごく僅かいるだけである。


「6人もの変死体が見つかって捜査一課は大騒ぎだったぞ。勿論、化け物の仕業で間違いないだろうが、倒したであろうお前に一応話を訊いておかないとな。調書が書けん」


「そんな物、卿が適当にでっちあげればよかろう」


「そういうわけにもいかん。折角、当事者を呼んだんだ…たっぷり可愛がりながらゆっくり話を訊かせて貰うぞ?」


「お手柔らかに頼む」


現在、こういった怪物と戦える存在は宗矩しかいない。まず化け物がこの世に存在している事を認知している人間が殆どいない。厳密に言えば忘れてしまっているのだが。認知している人間が殆どいないので、共に戦う仲間がいない、支援者がいないので孤立無援、とにかく宗矩しか化け物を倒す事が出来ないのが現状である。この状況を葵は不甲斐なく思っていた。いくら自分が宇宙人だからといっても化け物と戦えるだけの力は持っておらず、宗矩に任せるしかないので、葵は負い目を感じていた。


「すまないな…」


「何故、卿が謝る?」


「本当はこういうのは私がやるべきなんだ。私にも戦う力があれば、お前1人に何でもかんでも背負わせる必要はない…だが、現実は違う。いつもお前ばかり苦労を…」


「気にするな、守ると決めたのは我の意志。我が力でほんのごく僅かでも人間共の世界が平和になるならば、我は喜んで力を振るう…ただ、それだけの事だ」


誰もが思う事だが、彼は本当に悪魔なのだろうか?そもそも悪魔にはいいイメージがない。現実でも悪魔は悪者として認識されたり悪魔祓いがあったり、基本的には忌み嫌われるべき存在として扱われている。しかし、目の前にいる柳生但馬守宗矩は違う。彼は長年人間共を見守り続け、人々に降りかかる災厄を振り払って来た。それは他ならぬ自分の意志なのだ。


「だが、共に戦えば…!」


「必要ない。我が戦いに卿等は巻き込めん。それに力を振るう事の辛さを卿等に味合わせたくない…」


「お前は強いな……」


「言うほど強くはないがな」


その悪魔らしからぬ優しさ故か、基本的に他人が戦いに関与するのは良しとしていない。ましてや戦おうとするなど宗矩からすればもってのほかである。そこは幼少の頃から戦いに明け暮れ続けた宗矩なりの考えがあるようだ。因みに宗矩の悪魔としての実年齢は約3万7000歳になるらしい。約がつくのは本人もあんまり数えていないからのようだ。


「さて、早く調書を書け」


「全く強引な奴だな…嫌いじゃないわ‼」


「………今のは引くぞ」


「いっ、言ってみたかっただけなんだ…///」


せっかくシリアスな空気を変えようとしたのに言ったセリフがマズかった。さすがの宗矩も引かざるを得なかった。葵自身、空気を読めないタイプだが、今回の失言には顔を赤面せざるを得ない。基本的に豪胆な姐御肌として知られる葵だが、こういう可愛い一面もある。そんな可愛い一面をもっと出せばモテるだろうに葵は全くモテない。容姿が良くてもスタイルが良くても、お金があっても、普段の豪胆っぷりと問題児のイメージが強すぎてなかなか男が寄り付かないのが現状だ。神楽坂葵、人間で言えば27歳。絶賛婚活中。


「今日はすまなかったな。おかげで上の連中に提出出来る」


「結局、卿がまともに仕事をしたのはほんの10分程であったな。いいものだな、特命係とやらは」


「特命係言うな!最近、他の連中からそう呼ばれる事が増えてきてしまってるんだぞ?」


「間違いなく卿の自業自得だな」


午前11時32分、警視庁1階。宗矩は葵との用事を済ませて帰ろうとしており、葵が見送りに1階まで降りて来ていた。調書を書く事自体はすぐに済んでしまい、殆ど葵との他愛のない世間話ばっかりであった。やはり、スーツや制服姿の警察官の中で赤い革ジャンのライダースファッションの葵は目立ちすぎるぐらい目立っていた。警察手帳を見ないと警察官だとは信じてもらえないだろう。いや、それでも信じてくれなさそうだが。


「また何かあったら呼ぶぞ。暇でも呼ぶぞ。何なら今度お前の店に行ってやってもいいぞ」


「その時は割増にしてやる」


「な、何を!まぁ、いい…気をつけてな」


「卿もな」


葵と別れを告げた宗矩は警視庁の地下駐車場に向かい、愛馬ならぬ愛車のDN-01に跨り、自宅へと戻っていった。とりあえず外まで見送った葵はふと空を見上げる。さっきまで晴れていたハズの空が何時の間にか曇天に変わり、今にも雨が降りそうな予感がしていた。確か今日の降水確率は10%もなかったハズ。葵は何か嫌な予感を感じていた。


「ったく、何時の間に曇りになったんだ…しかも、何かやな予感がするな」


午後4時12分。東京都新宿区・レストラン“フライングデビル”。警視庁から帰って来た宗矩は突然の大雨に見舞われ、干してあった洗濯物を中に閉まったりとバタバタしたお昼時を過ごしてしまい、今に至っていた。今日は開店日。昨日はデートで散々いちゃついたであろう桐生拓海と高槻文乃がシフトに入っている。2人も大雨に見舞われびしょ濡れになっていた。


「しかし、ひっでぇ雨だこと。折り畳みとか用意してなかったからびしょ濡れだぜ…ったく、ど~してくれんだよ?」


「卿の自業自得だ。普段から備えあれば憂いなしと言ってるのを無視するのが悪い」


「因みにあたしもびしょびしょよ!」


「…卿は早く着替えるんだな」


特に文乃の濡れ具合が酷く、エプロンの下のワイシャツは完全に濡れてしまって肌にくっついたり、透けて文乃のブラジャーが見えてしまったりしていた。文乃は性格が残念なのを除けば完璧な美少女である。中学、高校と何故かあった美少女コンテストで優勝し続けた実績がある。背は少し小さめだがスタイルはいいほうだ。ムチムチの身体にGカップの爆乳を持つワガママボディの持ち主なので、彼女と付き合いたいと願う男子生徒は大勢いるが、文乃が選んだのは幼馴染の拓海であった。とはいえ、付き合ったら色々吸い尽くされるというのは彼氏である拓海の言である。何かは想像にお任せしよう。


「あっ、もしかしたらこのあたしの裸を想像してるのかしら?店長ったら、意外とムッツリね♫」


「誰が卿のだらしない裸など想像するか。卿はそんなに風邪を引きたいのか?」


「その時は拓海が温めてくれるわよ。勿論、裸同士でね…いやん///拓海のエッチ!」


「はっ?ヤダよ」


「な、何でよ⁉」


「風邪引きたくねぇし」


「ひ、酷い!うぅ…た、拓海のあんぽんた~ん‼うわああああん!」


拓海に軽く拒絶された文乃は店を飛び出し、半泣きで大雨の中に飛び込んでいった。ちょっと高飛車な文乃は実は意外と打たれ弱く、ちょっとした暴言で傷ついたりとメンタルが弱かったりする。そんなところが妙に可愛かったりするから拓海は文乃の事が好きなのだという。因みに雨の中に飛び込んでいった文乃を拓海は追いかけるのかというと追いかけない。追うのが面倒臭いし、どうせ戻って来る。


「あっ、行っちゃった」


「もう毎度聞くのが面倒でしょうがないのだが、一応訊いておこう。追わなくていいのか?」


「呼べば来るって。せ~の、文乃~」


「あたしを呼んだのは誰?♫」


「あっ、戻って来た」


文乃は戻って来た。全身びしょ濡れになってるにも関わらず、何故かドヤ顔でフライングデビルの入り口に立っていた。拓海が自分を呼んでくれたので嬉しかったみたいだが、傍から見ればただのアホの子に見えなくもない。さすがにびしょ濡れのままだと可哀想だと思った宗矩は文乃に我が家の風呂に入るように勧める。


「哀れな奴…早く風呂に入って来い」


「サンキュー♫あっ、そうだ店長、せっかくだから花梨ちゃんのタオル使うわね?」


「ダメだ」


「ちぇ~」


文乃は宗矩の愛娘・花梨を拓海と共に自分の妹のように可愛がっていた。2人とも兄弟ならびに姉妹がいない一人っ子なので、尚更可愛がっていた。しかし、文乃は花梨の下着やベッドの匂いで興奮したり、本人に過剰なスキンシップをしたりと可愛がる方向性を間違えていた。その為か花梨は最近、文乃が怖くなってしまい、ちょっと距離を取ろうとしているが、アホの子・文乃はその事に全く気がついておらず、相変わらず変態淑女まっしぐらな付き合いをしていた。拓海に言わせれば『知り合いじゃなかったら通報』だとの事。


「くんくん…花梨ちゃんの匂いいいわぁ♫なんていうか甘酸っぱくて、まだまだお子ちゃまな匂いだけどこれも悪くない…♫」


「…また使ったな」


「だって、男物を使うわけにいかないじゃない、女の子は女物使わなくちゃ。って事は自然と花梨ちゃんのタオルを使わなきゃいけないのよ♫グヘヘ…花梨ちゃん、ハァハァ…」


「後で花梨に怒られるがいい」


「花梨ちゃんに…?」


柳生家の風呂に入った文乃は結局、宗矩の言いつけをガン無視して花梨のタオルを使っていた。洗濯はしてあるが、花柄の薄いピンクのタオルからほのかに香る花梨の甘酸っぱい匂いを嗅いで文乃は興奮していた。傍から見れば危ないお姉さん、いや変質者そのものである。やがて、宗矩の言葉から文乃は花梨の事を妄想し始める。その妄想に登場する花梨は本人とは大きく異なり、クールを通り越して冷酷でドSな性格をしていた。


『文乃お姉ちゃん、また花梨のタオルを使った上に匂い嗅いで興奮してたの?パパがダメだって言ってたのにね。正直キモイよ、死ねばいいのに』


『か、花梨ちゃん…///』


『こんな変態さんは花梨がしっかり調教しないといけないよね。ねぇ、花梨の足…舐めてよ?』


『は、はい…///』


文乃の妄想の中の花梨は何故か眼鏡をかけており、女王様らしく黒いボンテージを着て足を組んで椅子に座り、文乃をまるで汚い物を見るような冷たい目で見下していた。大体いつもとあまり変わらない口調だが、可愛い声のトーンが低くなっており、普段の花梨が言わなそうな罵声を容赦なく浴びせていた。対する文乃はそんな花梨の罵声にも残念な事に興奮していた。そして残念な変態淑女全開でこの状況を楽しみ、黒のソックスを履いた花梨の足を舐める。舐めまくる。


『フフッ、もうどうしようもないド変態さんだよね、文乃お姉ちゃん。そんなに花梨の足、美味しいの?』


『うん、美味しいよ…///』


『そっかぁ、もう文乃お姉ちゃんは人間さんじゃないね。卑しい牝犬だね、醜い豚でもいいよ?肉って呼んでもいいよ?』


『あ、あたしは牝犬よ!花梨ちゃんが好きで好きでしょうがない淫乱な牝犬なのよ‼』


妄想の中だとはいえ、どうしようもない変態発言をしてしまう文乃。普段から花梨にこんな感情を抱いていたのかと思うと恐ろしいし、現実の彼氏である拓海が浮かばれない。とはいえ、拓海も文乃がそういう危ない感情を抱いているのは周知である。妄想の中の花梨は文乃が自分を牝犬だと認めた事に征服感を感じ、さらなる辱めを与える。


『ねぇ、牝犬だったら服なんてもういらないよね?今すぐ脱いでよ。脱いで花梨にそのだらしない裸を見せて?』


『は、はい…花梨様ぁ…///』


「やめんか!」


「はぅ‼」


しかし、そんなバラ色な妄想タイムは無情にも終わりを告げる。花梨の父・柳生但馬守宗矩が頭を叩いて文乃を現実に引き戻したからだった。自分の娘を変な風に妄想されてはたまらない。ましてや、ドSな女王様の花梨など見たくはない。見たらショックで寝込んでしまうかもしれない。しかし、自分に似てクールなところが似てしまった花梨が将来そうなるかもしれないと思うと妙に納得出来そうな気がしてしまう。


「花梨でそこまで妄想出来るとは…引くぞ」


「いいじゃない!花梨ちゃんはそういうのが似合うんだから!アレ、そういえば花梨ちゃんは何処なの?」


「花梨なら今日は友達の家でお泊りだ」


「あら、珍しいわね?花梨ちゃんがお泊りなんて」


因みに今日は急な話ではあるが、花梨は友達の家に泊まる事になった。昨日の宗矩との会話で少しは友達と深く接しようと心掛けたのだろう。あまりにも急な話だったが、宗矩は快諾した。とはいえ、花梨が1人で友達の家に泊まるのはこれが初めてなので、少し心配もしていた。しかし、宗矩は花梨がこの体験を経て何かひとつでも学んでくれたらと切に願っていた。


「いいではないか。たまには花梨も遊ばなくては」


「大丈夫なのかよ?」


「花梨なら大丈夫だ」


「ホントにそうかしら?実はその花梨ちゃんのお友達がレズだったらどうすんの?例えば…」


こうして、また文乃のエッチでイケナイ妄想劇が幕を開けてしまう。先程はドSな女王様っぽい花梨であったが、今回は完全に受け身という設定だ。文乃の妄想では花梨は友達のベッドに押し倒されてしまい、今まさに禁断の関係に発展しそうな状態となっている。因みにあくまでも、これは文乃個人の勝手な妄想であり、実際に花梨の友達がこんな人物とは限らない。というか、そんな友達は今のところ花梨にはいない。


『だ、ダメだよ…こんなの。花梨達、女の子同士なんだよ?だから…』


『えへへ、ダメじゃないよ♫女の子同士だなんて関係ない、あたし花梨ちゃんが大好きだから、こういう事するんだよ?あたし、花梨ちゃんともっと仲良くなりたいなぁ…♫』


『や、やめ…』


必死の抵抗虚しく、花梨はお友達に唇を奪われてしまう。これが花梨のファーストキスであった。お友達に舌を絡まされ、貪られ、口内を蹂躙されていく中で花梨の中の何かが目覚めようとしていた。そして花梨も次第に無意識にお友達を求めるようになってしまい、激しくもぎこちないキスをするようになっていく。花梨が痴女に覚醒するのも時間の問題だった。


『はぁ…はぁ…頭がフワフワする…』


『えへへ、じゃあ次はおっぱい見たいなぁ♫花梨ちゃんの可愛いちっぱい、あたしに見せて♫』


『う、うん…///』


「やめんか!」


「はぅ‼」


しかし、そんな百合色全開の妄想も長くは続かない。さっきと同じように宗矩に頭をチョップされて文乃の妄想劇は終演を迎える。妄想とはいえ、これ以上娘の痴態なんか見たくないだろう。そして、そこまで妄想を膨らませられる文乃も文乃である。彼氏の拓海は文乃を変質者を見るような目で見ている。いつもの事なので、あんまり気にしていないが。


「痛いじゃない!せっかく花梨ちゃんがこれから百合に…ううん、レズに目覚めようとしてたのに!」


「いいか、それ以上喋るな。これ以上花梨でよからぬ妄想をするなら、卿を葵に突き出してやろう」


「嫌よ!あんな暇で無駄にあたしよりおっぱい大きい暴力刑事なんて‼ねぇ、助けてよ拓海!後でいい事してあげるから♫」


「……真人間になれよ」


「ひ、酷い‼」


午後7時41分、JR新宿駅近郊。降りしきる大雨はやがて豪雨と化し、さらには雷まで鳴り始めた。どうやら、首都圏全域に大雨洪水警報が発令されたらしい。豪雨と雷という最悪のコンボにより交通に影響が出るのは明白で、新宿駅はいつも以上に混雑してきており、傘をさしてもびしょ濡れになる人も出てきた。豪雨と雷という悪天候を除けばいつもとそう変わらない日常ではあるが、その時は突然訪れる。それは人類にはあまりにも早すぎる未知との遭遇だった。


「ハッハッハッ!ここがチーキュかぁ?はん、田舎くせぇチンケな星だぜ。聞け、チーキュ人共よ‼」


「な、なんだ?」


「うわあっ、何だあのデカイのは⁉」


「俺の名はドラファング星人ウーゴン!これからこの田舎くせぇチーキュを支配する者だ!正義は俺にある!俺に従え!」


「う、うわあああああっ‼」


日常を壊す者、ドラファング星人ウーゴン。豪雨と雷に彩られ、空から舞い降りた巨大な宇宙人は人々で賑わう新宿駅近郊に姿を現し、いきなり自分に従えという。正義は俺にあるとか俺に従えとか色々強引な奴だが、人々は耳を貸さない。いや、貸せないのだ。貸してる余裕がないともいう。いきなり巨大な者が現れたら普通は逃げるからだ。傘を放り投げて逃げる者、車を捨てて逃げる者、様々だ。おかげで新宿駅近郊は大パニックに陥った。


「に、逃げろおおおっ‼」


「はん、いきなり逃げ出すとはチーキュ人も肝が小せえ田舎者だなぁ。オラよ!」


「うわあああああっ‼」


「きゃあああっ!」


ウーゴンは逃げ惑う人々に向けて右手から火球を放ったり、自動車を踏み潰して人々を恐怖に陥れていく。こんな巨大な怪物相手に人間はどんな抵抗手段があるのだろうか?いや、恐らくないだろう。少なくとも日本だけの力では無理だ。自衛隊の全戦力を注ぎ込んでも勝てる相手ではない。最低でもアメリカ軍がいないと話にならないだろう。もしかしたら核を使うのもやむなしだろうが、そうすれば新宿一帯が壊滅してしまう。それでも勝てるかはわからないが…


「ふん、この俺がこんな田舎くせぇチンケな星を支配してやるって言うんだ。10分で俺に従うか決めな!もし従わねぇっていうなら、この星のお前ら下等生物を皆殺しにしてやるぜ‼」


「む、無理だ…そんなの…」


「もうお終いよ…」


「だ、誰か助けてくれぇ!」


午後7時52分、フライングデビル。こんな豪雨と雷という悪天候の中でも意外と賑わっていた。カウンターも含めて席は大方埋まっているが、入っていたオーダーは全て終わったので、宗矩と拓海達は普通に店内でTVを見ていた。フライングデビル店内には薄型のTVが設置されており、日によってはアニメや映画を流したり、普通にTV放送を流したりして客が退屈しないようにしていた。この時はバラエティ番組を見ていたのだが、臨時ニュースに突然切り替わってしまう。そのニュースは勿論、今まさに新宿を襲撃しているウーゴンに関するニュースである。


『番組の途中ですが、ここでニュースをお伝えします』


「何だ、いいところだったのに」


『午後7時40分頃、JR新宿駅付近に突然巨大な怪物が出現しました。怪物は自身をドラファング星人ウーゴンと名乗っており…』


「何?」


ウーゴン出現のニュースを聞いた宗矩は急に顔が険しくなる。それもそうだろう。自分達が暮らすこの街に宇宙人が現れて、しかも好き勝手に暴れているのだから。そのニュースを聞いた宗矩のやるべき事はただ一つしかない。宇宙人出現のニュースを聞いてざわつく店内を尻目に宗矩は外に出ようとする。


「おっさん!」


「店を頼む」


「大丈夫なの…?」


「心配するな、すぐに討ってやる」


拓海と文乃に店を任せると宗矩は豪雨の中に傘もささずに飛び込む。新宿駅の方向には煙が上がり、上空には自衛隊や報道陣のヘリコプターが飛び交い、消防車や救急車、パトカーのサイレンが鳴り響く。人々の怒号と悲鳴、ウーゴンの嘲笑う声が新宿駅付近に響いていた。魔神は今立ち上がろうとする。宗矩はバンダナと髪ゴムを外して瞳を赤く発光させると頭上に禍々しい赤の魔方陣を出現させる。


「この街で暴れるとはいい度胸だ…褒美として我が直々に地獄に送ってくれる!」


午後7時57分、新宿駅付近。ウーゴンが定めたタイムリミットまであと5分となった。人々は恐怖で逃げ惑い、ウーゴンはそんな人々を嘲笑い、まるで虫ケラのように攻撃していく。幸い死亡者はまだ出ていないが、この5分後、人類側の選択次第で死亡者は大きく増える事だろう。現場には警察も駆けつけて拳銃を構えるが、とても敵うような相手ではない。あと5分で従うか決められるのか、いや無理だ。人間はそんなに一枚岩ではないからだ。それに日本だけではなく諸外国の返答も

含まれており、ウーゴンによって地球が征服されてしまうのも時間の問題かとこの時は誰もが思っていた。


「ハッハッハッ!チーキュ人っていうのは自分達の事もすぐに決められないのか?だから田舎者の下等生物なんだよ!オイッ、返事はまだか?あと5分だぞ!」


「ち、畜生…!」


「俺達は終わりなのか…?」


「お、オイ!見ろォ!」


人々が絶望に染まっていく中、豪雨と雷は更に激しさを増していく。誰もが終わりを予感している中、突然地響きがした。地響きというよりは足音と言った方が正解だろう。やがて人々は揃って同じ方向を指差して見る。暗闇でまだ全容はわからないが、足音は確かに近づいており、近づくにつれて鎧の音も聞こえてくるようになった。


「あん?何だテメェは」


「きょ、巨人?」


「いや、あれはまるで…」


「悪魔‼」


「魔神、災臨せり…!」


激しい稲妻がその巨体の全容を明らかにした。彼の名はヴォルケニックス・グランドバアル、柳生但馬守宗矩の正体にして天下無双の魔神である。ヴォルケニックスは55mもの巨体でこの新宿に君臨したのだ。実は魔界ではこのサイズがデフォルトらしく、つまり巨体こそがヴォルケニックス・グランドバアル本来の姿になる。因みに巨体だからといって別に巨体を維持するための制限時間があるわけではない。そもそも自分の本来の姿に戻れるのに制限時間があるというのが変だと本人は言う。


「こんな田舎くせぇ星にお前みたいな奴がいるとはな」


「卿は一刻も早くこの星から立ち去れ」


「あん?誰に向かって言ってんだよ‼」


「ふん!」


いきなり立ち去れと言われて立ち去る馬鹿はいない。ヴォルケニックスの言葉に激昂したウーゴンは右手から火球を放つ。しかし、ヴォルケニックスはそれを右手を前に出していとも簡単に防いでしまう。それにビビったウーゴンは次々に火球を連発するが、ヴォルケニックスは腕を軽く払うだけで凌ぎ、ゆっくりとウーゴンに近づく。


「なっ⁉ち、クソッ!クソッ!クソッ‼」


「……………………」


「く、来るなぁ!来るんじゃねぇ‼い、田舎モンが!」


無言でゆっくりと自分に向かって来るヴォルケニックスに対し、ウーゴンは両腕をゴムもたいに大きく伸ばして反撃しようと試みる。この両腕を大きく伸ばすのはドラファング星人の特性らしく、ドラファング星人は遠くの物を取るのに苦労しないそうだ。しかし、ゴムみたいに伸ばして襲いかかる両腕に対し、ヴォルケニックスは右手首を軽く上げるだけで、ウーゴンの両腕をメチャクチャに絡ませてしまう。ちょっとした魔力というかフォースというのか、こんな事もヴォルケニックスにとっては朝飯前だ。


「な、何だ⁉腕が絡まって!」


「ふん」


「は、離せよ!田舎モンの分際で‼」


「んんんんんっ、ぬわああっ‼」


「うわあああああっ‼」


ヴォルケニックスは複雑に絡ませたウーゴンの両腕を握ってウーゴンを持ち上げ、ハンマー投げの要領で雷鳴轟き豪雨降りしきる新宿の夜空に放り投げる。両腕を封じられたウーゴンにはなす術なく、無様に夜空に放り投げられてしまう。そして、ヴォルケニックスは左手で空間をガラスみたいに割り、中から禍々しい装飾が施されたショットガンタイプの魔銃“射抜神命(いぬがみのみこと)”を引き抜き、その銃口を放り投げたウーゴンに向ける。もう勝負は着いたも同然だ。


「お、オイ!やめろ‼」


「消えてしまえ。ぬわああっ‼」


「ギャアアアアアアアッ‼」


ウーゴンは必死に命乞いをするが、そこまでやっておいて今更許して貰おうなど甘い事をヴォルケニックスが許すハズがない。ヴォルケニックスは射抜神命の引き金を引く。銃口から発射された魔力の弾丸はウーゴンの身体に命中し、一瞬のうちに爆発、ウーゴンは田舎くせぇ星の新宿の夜空に汚い花火となって散っていった。因みにこれ自体必殺技でもなんでもない。勿論、必殺技はあるのだが、こんな雑魚に使うまでもなかった。


「……………」


「や、やったのか?」


「アイツも俺達の敵なんじゃ…!」


「う、撃て!」


しかし、ヴォルケニックスがウーゴンを討ったにも関わらず、人々の恐怖は拭い去れていなかった。むしろ恐怖がより増したというべきか。それもそうだろう、人々からすればウーゴンよりもいきなり現れてウーゴンを簡単に葬り去ってしまったヴォルケニックスの方が圧倒的に怖いのだ。その圧倒的すぎる強さに外見もあいまって人々に与える恐怖心は絶大だった。しかし、黙って恐怖に震えるだけが人間ではない。警官隊が一斉にヴォルケニックスに向けて拳銃を発砲したのだ。ヴォルケニックスはそんな人々を何ともいえない表情で見つめる。人々からすれば睨まれてるに等しいが。


「…………………」


「で、出てけ!」


「そうだそうだ!」


「早く出てけ!」


ヴォルケニックスに拳銃など人間が生み出した兵器は通用しない。仮に等身大になってもダメージなどないに等しい。やがて人々からヴォルケニックスに非難の声が上がる。せっかく自分達に降りかかった火の粉を払ってくれたにも関わらず、人々から感謝の声はなかった。ある意味それが正しい反応ではあるのだが。辛い現実ではあるが、そんなのはヴォルケニックスにとってわかりきった事。だから、誰にも戦わせたくないのだ。


「………………ふん!」


「やったぁ!悪魔を追い払ったぞぉ‼」


「俺達が悪魔を追い払ったんだ!」


やがて、ヴォルケニックスは漆黒の翼を広げて新宿の夜空の闇に消えていった。そして人々は自分達が悪魔を追い払ったんだと勘違いして新宿に歓声が湧き上がる。この世界にヒーローはいない。いてもそれは人々からすればただの悪魔でしかない。それがこの世界の現実なのだ。ヴォルケニックスが去った後も豪雨は降りしきる、まるでヴォルケニックスの今の心情を現してるかのように。止まない雨はないが、この雨は今のままでは永遠に止まないだろう。


こんばんわ、エンジェビルです(^-^)


いよいよ第2話を投稿出来ました(^-^)/ちょっと時間がかかってしまいましたが、何とか今月中に投稿出来て何よりです(^-^)


今回はギャグで来てシリアスに終わらせましたが、よくよく読み返せばかなり後味が悪いですよね(T_T)宗矩は一体何の為に戦ってんのかと思いますが、とにかく人々の為に戦ってるとしか言えませんね(^_^;)でも、わかっていてもやっぱり辛いんじゃないでしょうか?



○神楽坂葵/アクエリア・マリンフォード(ICV:豊口めぐみ)

今作にも登場する我らが葵たんです(^-^)相変わらずですが、勤務先が新宿警察署から警視庁に変わり、人間関係も大きく変わりました。特にユキトがいないので、主に関わるのが宗矩になりました。思えばかつては葵と宗矩はあまり関わりがなかったので、これはこれで新鮮かもしれません(^-^)因みに今はまだ戦えませんが、いつかは戦うようになると思って下さいなo(^▽^)o


○妄想の中のお友達(ICV:大亀あすか)

何という残念でエッチな文乃の妄想に登場した花梨ちゃんのお友達です。勿論、現実の花梨ちゃんにそんな危ない子はいませんが(^_^;)イメージキャスト的にはどんな子なのか大体わかるのではないでしょうか?因みに文乃の妄想の中の花梨ちゃんはドSだったり、受け身だったりしますが、どっちが好みでしょうかo(^▽^)o


○ドラファング星人ウーゴン(ICV:石野竜三)

今回の敵で地球侵略を企てるチンピラチックな雑魚キャラです(^_^;)イメージキャストも何となくそんな感じがするキャストになりました。色々ネタを入れられたキャラで楽しかったですよ(^-^)もう出ないでしょうが(^_^;)



次回は深夜の学校で戦いましょうか(^-^)でわでわo(^▽^)o

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