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第1話 或る魔神の日常

2013年6月1日午前6時30分、東京都新宿区・レストラン「フライングデビル」2階柳生宅。暖かな日差しが差し込む台所に1人の男が立って2人分の朝食を作っていた。身長が190cmもある長身に腰にまで伸びるやたらボリュームある茶髪、今は朝食を作っている為に髪を髪ゴムで束ねているのだが、それでも長い。そしてやたら鋭い目つきをしている出会えば十中八九怖がられるであろう外見のこの男は、まるで主婦みたいに白いバンダナにエプロンをして料理をしていた。傍から見れば何ともシュールな光景ではあるが、これがこの家の日常なのである。


「よし…我ながら上出来だ」


彼の名は柳生但馬守宗矩(やぎゅうたじまのかみむねのり)。かつて江戸時代初期に活躍した剣豪・大名と同姓同名である。ホントに本名なのか疑われても仕方ない名前だが、本人は本名だと言っている。果たしてその"本名"にどんな意味があるのかはわからないが…。とにかく柳生但馬守宗矩は今、愛するたった1人の家族の為に料理を作っていた。


「そろそろ花梨が起きる頃だろう」


「おはよう、パパ」


「うむ、おはよう」


午前6時40分。制服を着た1人の女の子が宗矩待つリビングに現れた。彼女の名は柳生花梨(やぎゅうかりん)。近くにある新宿区立新宿第七中学校に通う14歳で花も恥じらう中学2年生、そして宗矩最愛の愛娘である。実は宗矩と花梨の間に血縁関係はなく、花梨は養子

なのだが、それでも実の親子のように深い絆で結ばれた仲である。


「温かい内に食べるといい」


「うん、いただきます」


花梨はテーブルに並べられた宗矩手作りの朝食を食べ始める。今日の朝食はご飯に卵焼き、味噌汁といかにも日本の朝食という朝食だった。花梨は外ハネしたボブヘアーに右耳の上にいつもつけてる様々な色に輝く宝石が埋め込まれたこちらも様々な色に変化する羽飾りが特徴的なロリ系の美少女で、成績優秀かつ聡明で優しい人柄から学校中の誰からも慕われる人物である。欠点があるとすれば、まだ14歳にしてはクール過ぎる事だろうか。


「今日は早く帰ってパパのお手伝いするよ」


「別に無理して手伝わなくてもいいぞ。確かにあのバカ共は今日は来ないが、我1人でも店は出来るし、我の心配よりも花梨の好きな事をやるといい」


「でも、パパのお手伝いをするのが花梨の好きな事なんだよ?」


「むぅ、そう言うなら…」


宗矩が花梨を養子にしてから早10年の時が経っていた。柳生家は宗矩と花梨の2人暮らしで母親に当たる人物はいない。それは宗矩がある理由で妻を娶るつもりがないからで、花梨の子育ては宗矩が四苦八苦しながら今までやってきた。甲斐あって花梨は優しくて聡明な女の子に成長したのだが、殆ど甘えない子供に育ってしまった。宗矩は花梨のやりたいようにさせていきたかったが、花梨が優先するのはとにかく宗矩や周囲の友人達の為に時間を費やすのが殆どであった。親としては少々複雑な気分だろう。


「そうだ、そろそろ三者面談だからね」


「な、何ッ⁉バカな…もうそんな時期か」


「嫌いだもんね、三者面談とかPTAとか」


「我は断固出席を拒否するぞ。なんなら影武者の1人や2人を用意してやろう」


「絶対バレるよね」


この時期になると担任と生徒、そして保護者の三者で行われる三者面談が始まろうとしていた。実は宗矩、担任との面談が1番苦手だったりする。誰と話しても雰囲気だけで黙らせてしまいそうな彼が面談が苦手なのは意外だが、こういった堅苦しい話は妙に緊張して苦手だったりするようだ。それにあんまり自分の家庭の事情に踏み込んで欲しくないのである。ここら辺では珍しいシングルファーザー故に色々余計な事を訊かれたのが苦々しいのだろうか。この家庭はとある悲劇がきっかけで生まれたのだから…


「ごちそうさま」


「うむ」


朝食を食べ終えた花梨はそそくさと台所に自分が使った食器を運び、洗い始める。こんな事、今時の中学生は多分やらないであろうが花梨は自ら進んでやる子である。親の手伝いを進んでやれる辺り、所謂手のかからない子で宗矩は助かったが、もうちょっと手がかかってもよかったのではと思う事もある。


「いってきます」


「うむ、いってくるがいい。せめて先生共に見つかるなよ?」


「うん、わかってる」


午前7時00分。今時あまり見かけなくなった紺色のセーラー服の制服に着替えた花梨は新宿第七中学校に登校して行く。家から第七中学校まで徒歩で15分前後かかるのだが、花梨はかなり余裕を持って登校するようにしていた。第七中学校の登校時間は8時20分なのでむしろ早すぎるぐらいなのだが、登校した後は1人教室で予習復習をしているようだ。とは言え、あまりに早すぎるのでたまに先生に注意される事もあるようだが。因みに花梨は何処の部活にも参加していない。


「さてと……」


花梨を見送った後、宗矩は再び台所に立って何故か2人分の弁当を作り始める。自分で食べる為に作っているわけではなく、花梨の為に作っているわけではない。大体、花梨が通う第七中学校には給食があるのだ。では誰の為なのか?その答えは数十分後に明らかになるのであった。


「そろそろ来るな…」


「お~い、おっさ~ん‼」


「来たな」


午前7時50分、レストラン「フライングデビル」前。宗矩が仁王立ちしていると自転車に乗った一組の男女が宗矩に駆け寄って来た。男はボサボサの金髪に目つきが悪い不良っぽい外見で、女はツインテールにリボンをつけた金髪でミニスカにルーズソックスを履いたギャルっぽいスタイル抜群の美少女であった。彼の名は桐生拓海(きりゅうたくみ)、彼女の名は高槻文乃(たかつきふみの)という。


「悪ィ悪ィ、遅れちった」


「遅刻だな」


「仕方ないじゃない、拓海が着替えるのが遅かったんだから!」


「何言ってんだよ、オメェがいつまでも惚けてたからだろうが。オマケにヨダレまで垂らしてよぉ」


「バッ、バカッ‼///拓海が激しかったから…つい気持ちよくなっちゃって…///た、拓海のせいなんだからね⁉」


「はぁ…またか」


拓海と文乃は幼馴染であったが、今は恋人として付き合っており、毎日幸せな日々を過ごしてした。そんな2人を宗矩は2人が幼い頃から見守っていたのだ。実は花梨よりも2人を見てきた年月のほうが長かったりするので、ある意味自分の子供のように思っていた。しかし、あの頃はあんなに可愛かったのに外見で大体想像つくように、今では2人は学校で有名な問題児となっていた。因みに2人が昨日…厳密には今朝までナニをしてたか訊いてはならない。宗矩も周知の事実なので何も訊かないようにしている。というか訊きたくない。


「今日はそのままデートするんだったな」


「そっ、つうわけで今日はもうこっちには来ないから後はヨロシク~」


「来るな来るな。卿らはそのままリア充らしく爆発してしまえばよいのだ」


「拓海、あたし達リア充かしら?店長ったらおかしな事言うわね、あたし達がリア充なわけないじゃない。爆発しろって言うなら他のリア充共に言いなさいよね」


何をバカな事を言っているのだろうか。というか宗矩がリア充なんて言葉を知っているのにまずビックリするだろう。意外と宗矩はネット社会に慣れ親しんでいるようだが、イメージに合わなさすぎるのだ。因みに宗矩の一人称は我、二人称が(けい)とかなり変わっている。さて、文乃の言葉にちょっとイラっと来た宗矩は文乃の口を無理矢理広げて悪戯する。恋人のピンチ?に拓海は総スルーしていた。


「そうかそうか、リア充じゃないとぬかす愚かなお口はどれだ?ん?」


「い、痛いれす…ご、ごぺんなさい」


「そうだ、早く弁当よこせよ」


「ん?そうだな、ほら」


拓海にせがまれ、宗矩は2人に手作りのお弁当を渡す。今朝作っていた2人分のお弁当は拓海と文乃の分だったのだ。何故、宗矩が2人のお弁当を作っているのかというと実は拓海と文乃の両親は多忙故に殆ど家に帰っておらず、2人の面談をみてやれないので、代わりに2人と親しい仲にある宗矩に色々任せてあるからである。基本、拓海と文乃は一人暮らしをしている事になるが、いつもお互いの家に泊まりあいっこしているので、本当に一人暮らしって事ではなかった。


「サンキュー、店長♫」


「ありがとな」


「早く行け、遅刻は確定だろうがな」


「あいよ」


「サボるなよ?」


時間的には遅刻は免れないようだが、それでも宗矩は拓海と文乃を送り出す。どうやら2人は授業をサボる事があるようだが、宗矩には知ったこっちゃない。花梨同様、2人も割と好きにやらせているのだ。それでいいのかどうかはわからないが、少なくとも2人を縛り付けるような事はしたくないのである。


「はぁ…さて、洗濯するか」


宗矩は主婦ならぬ主夫である。結婚していれば奥さんに任せる事が出来る家事を宗矩は1人でこなさなくてはいけない。家に戻った宗矩がやるのはまず洗濯だ。柳生家は2人だけなので、洗濯物が少なくて楽である。宗矩と花梨、お互いにあまり服を買わないので尚更だが、花梨は一応思春期の女の子である。当然下着も洗わなくてはならない。そこで困るのは花梨のブラジャーであった。


「Bカップのブラ…また買ったのか」


花梨のブラジャーはBカップなのだが、それはかなり見栄を張って花梨が買った物だ。実は花梨の胸はAカップ…もないかもしれなかった。それを花梨はかなり気にしており、まず花梨の前で胸の話は禁句で、それに触れると花梨はかなり機嫌が悪くなるらしい。養父である宗矩もその話題には踏み込めずにいた。因みに自分の下着を宗矩に洗われる事に関して花梨は全く気にしていないようだ。


「また見栄を張ったのか…今度文乃に相談してみようか。しかし…」


『パパ!花梨のおっぱいの話して!ひどい…パパなんて大嫌い‼グレてやる‼』


「うわあああああああっ‼」


思わず叫んでしまった宗矩。想像の中だといえ、花梨にグレられるのは宗矩にとって悪夢のような出来事であった。もし現実でおっぱいに関する話題で機嫌が悪くなり、挙句にグレられる事になれば宗矩は絶望する事になるだろう。どちらかといえば、宗矩は絶望を与える立場なのだが、それは後ほど。


「ま、まさかな…そんな事はないさ…ハ、ハハ…」


ちょっとした悪夢を見てしまった後、家の中を掃除機で掃除していく。その後、布団や洗濯物を干したりして宗矩の午前中はあっという間に過ぎ去っていった。さて、宗矩にはいくつか顔がある。花梨の父親、主夫、そして第3の顔が店長である。


「来たか、ご苦労」


「へい、毎度~」


午後2時24分。レストラン「フライングデビル」裏口前。宗矩は業者から食材を受け取り、店内に搬入していた。このレストラン「フライングデビル」は宗矩が経営する小さな学生向けのレストランである。料理が得意な宗矩は自分の腕前を活かしてこの小さなレストランを開き、学生達に自分の料理を振舞っていた。学生向けとは言いつつも一般のお客も来るのだが、比率で言えば中学生高校生が多い。


「今日も儲かるといいっすね~」


「まぁ、上手くやるさ」


営業時間は平日は午後4時から午後8時30分、休日は午前11時から午後8時30分なのだが、実は休店日は不定である。確実なのは1週間の内、最低3日は店を閉めてる事である。休日も店を閉めていたりするのだ。これは店員の都合だったり、店の都合に左右されやすいからのようだ。店長は宗矩で、店員はなんと拓海と文乃、また中学生故にアルバイトとしてではなくお手伝いとして花梨が働いている。店の制服はなく、ただエプロンとバンダナしてればそれでOKという緩い職場であった。


「ありがとうございました~」


「ご苦労」


食材の搬入を終えた宗矩は店内を掃除し始める。メニューはハンバーグに3種のチーズハンバーグ、ステーキ、唐揚げ、カルビ、チャーハンといかにも学生が好きそうなラインナップで、量を自由に選べるのが特徴である。少ない順からスモール、ミディアム、ラージ、メガマックス、アルティメイタムとあり、メガマックスとアルティメイタムまで来れば1人では食べきれない量となり、どちらかといえばパーティー向けの内容だ。更にそれらのメニューを全て食べられる所謂てんこ盛り『ヴォルケニックス・スペシャル』なんて物まであるのだ。


「ただいま」


「おかえり」


「ごめんね、遅くなって。すぐに着替えるから」


午後3時42分。ようやく花梨が帰宅して来た。店を開けるまで20分を切っていた為、花梨は急いで制服から着替えて店に降りてきた。早く帰ると言ってた割にはギリギリの時間だったが、遅れた事に関して特に宗矩は咎めなかった。ちゃんと帰ってきてくれれば宗矩はそれでいいと思っている。要は花梨が帰ってくるまで1人で頑張ればいいだけの話なのだから。


「さて、今日も閑古鳥が鳴かねばよいが…」


「それはちょっとわからないけど、今日は2人で頑張ろうね」


「花梨がいるのだ、問題なかろう」


因みに今日は拓海と文乃がデートの為、お休みとなっていた。週3日も店は休みなのに更に休みをとるのはどうかと思うが、特に宗矩は気にしていない。拓海と文乃がいなくても花梨がいるし、普段からそんなに混まないし、そもそも店が広くないので席も少ないのだ。最悪、自分1人でも店はなんとか切り盛り出来るのだ。


「さて、今日も頑張るとしよう」


「うん、そうだね」


午後4時00分。フライングデビルは開店した。行列が出来る店だと開店前から客が並んでいたりするものだが、残念ながらフライングデビルはそうではない。そもそも営業している事を大々的に宣伝しているわけではない。何となくひっそりやっているイメージがあるようだ。とはいえ、まだ16時なので時間的にもそんなに客も来ないのだが。


「最近、学校は楽しいか?」


「普通…かな?」


「どうやら楽しくなさそうだな」


「なんていうのかな…面白くないっていうか…」


客が来ないので、2人は他愛のない親子の会話を始める。どうやら、花梨は最近学校がつまらなく感じてしまっているらしい。思えば花梨は部活動に参加しておらず、殆ど友人とも遊ばない。学校が終われば基本、1人で何処かに出掛けるか、こうして宗矩の手伝いをするかの二択しかなかったりする。


「何か面白い事はないのか?」


「学校って勉強するところだよ?」


「花梨は昔っから頭が固すぎるのだ。学校は友達を作る場であろう?まずは友達と仲良くするべきだ。例えば、花梨の友達を我が家に連れて来るとか、逆に友達の家に泊まりに行くとかな」


「迷惑じゃないかな?相手とかパパとか」


「少なくとも我は迷惑だと思った事はないがな。そういうのも人生の糧になるハズだ」


思えば、花梨が自分の友達を我が家に招き入れたり、逆に友達の家に泊まりに行った事は一切なかった。その為、宗矩は花梨の友達がどんな人間なのか全く知らなかったりする。どうも花梨は他人の為に力を尽くす割に他人との距離を縮めたがらないところがある。過度に他人に干渉せず、一定の距離を置くのがいいらしい。そんな人付き合いのせいで花梨には親友がいない。宗矩はそんな花梨を案じる。彼女の人生が実り多き豊かな人生にならん事を信じて出来る限りの助言はしていくつもりだ。


「わかった…今度友達連れてきてみるよ」


「楽しみにしてるぞ」


「あっ、でもパパが怖いって言うかも…」


「……それは善処しよう」


花梨の懸念どおり、宗矩は他人を怖がらせるような雰囲気を纏っており、初見の人間はまずビビる程であった。勿論、宗矩自身は悪人ではないのだが、例えられるならまず悪役が真っ先に挙がるという悲しい現実があった。こればかりは善処しようと思っても出来ないような気がするのだが…


「あっ、いらっしゃいませ~!」


「来たか…いらっしゃい」


そうこう話をしているうちに早速、本日の客第1号がフライングデビルに現れた。第1号と言っても制服を着た4人組の男子達で、しかも花梨と同じく新宿第七中学校の生徒であった。時間的にはまだ夕食には早い気がするが、お腹が減ったのだろう。ともかく客が入った以上は全力で料理を振舞わなくてはならない。宗矩・花梨親子の戦いが始まった。


「はぁ…今日はあんまり来なかったね」


「今日はハズレだったか」


午後8時4分。フライングデビルは本日の営業を終了し、2人は後片付けに入っていた。結論から言えば、今日はあまり儲からなかった。客足も途切れ途切れだったのでいい予感はしていなかったが、極端に暇というわけではなかったのでまだ良かったのかもしれない。因みに宗矩はこういう日をハズレ、儲かった日をアタリと呼んでいる。


「明日はどうするの?」


「開けるさ。明日は拓海と文乃がいるんだ、呼び込みをして貰おう」


「今日休んだ罰として?」


「それも込みでやって貰う」


明日は拓海と文乃がシフトに入れるので、店は開けるようだ。シフトと言っても、平日は必ず開店から閉店までいるのが原則なので、メンバーが交代するなんて事は殆どない。労働時間とかあるが、週3日は店を閉めてる上に平日は約5時間しか働かないので、それも心配ない。給料はそこそこいいが、働く時間が短いのでそんなに稼ぐ事が出来ないのが難点だろうか。


「さて、片付けが終わったら飯にしよう」


「うん」


静まりかえった店内で黙々と片付ける2人。大体1時間もあれば片付き、その後は遅い夕食が待っている。片付け終わった2人は2階に上がり、夕食を食べ始める。新たに作ってやる時間が惜しいので、やむなく冷凍食品で済ませてしまう。宗矩はあまり冷凍食品を好まないのだが、こういう時には重宝する。それに最近の冷凍食品は種類と豊富で美味しいものも増えてきているので、意外と捨てがたいのだ。


「ごちそうさまでした」


「すまないな、冷凍ばっかで」


「仕方ないよ。もう9時だもん」


「早く風呂に入って寝るといい」


遅めの夕食を食べ終えると花梨はお風呂に入る。今でこそ1人で入っているが、中学2年生になるまでは宗矩と2人で入っていたのだ。花梨は気にしていないが、宗矩は成長していく花梨の身体を恥ずかしさ故に直視できなくなり、この春から1人で入るようになった。失礼な話だが、成長していくといっても胸に関しては……本人の為に言うのはやめておこう。


「お風呂空いたよ。入る?」


「いや、これから少しドライブしていくから風呂には後で入ろう」


「そっか、おやすみなさい」


「ああ、お休み」


花梨はそのまま自分の部屋に入り、眠りにつく。目を閉じればすぐに眠れる体質らしく、目を閉じた瞬間に花梨は熟睡していた。花梨が眠ったのを確認すると、宗矩は黒い陣羽織風のコートを羽織り家を出て、下の駐車場に辿り着く。そこには愛馬という名の愛車があった。


「さて、一走りといこうか」


宗矩の愛車は2つある。1つはパジェロ。これは家庭用というよりはフライングデビルに入った予約の弁当を配達する為に使う所謂業務用の自動車だ。稀ではあるが、フライングデビルはレストランなのに予約限定で弁当を作っているのだ。主に学校行事や地域行事の為に予約が入り、1クラス分から100人単位で作る事もあるそうだ。そして、もう1つの愛車がこのDN-01という車種のバイクだ。これは花梨と何処かに出掛ける時や自身の用事に使われる家庭用のマシンである。


「今日はいい風が吹く」


午後10時37分。東京都品川区内。宗矩駆るDN-01は深夜の品川を走っていた。宗矩の数少ない趣味にツーリングがある。今はあまり遠くにいけないので都内を走るだけなのだが、いつかは花梨を連れて遠くに行ってみたいと思っている。そんな宗矩が品川の倉庫街に差し掛かったところで夜の静寂を切り裂く断末魔の叫びが聞こえてきた。


「ギャアアアアアアッ‼」


「なっ、何だ⁉くっ…!」


宗矩が愛車を走らせて悲鳴の下に駆けつけるとそこに広がっていたのはこの世の物とは思えない光景が広がっていた。地面には幾つもの喉元を噛みちぎられた無残な死体が転がり、夥しい血が流れていた。そして、尻餅をついて恐怖に怯える20代の男性の目の前には怪物がいた。生えた牙からは噛みちぎった死体の血が流れ、今まさに彼を噛み殺そうとしていた。


「何をしている!」


「た、助け…」


「逃がさないぞぉ!」


「ひっ、あっ、アアアアアアアッ‼」


宗矩の目の前で男性は怪物に喉元を噛みちぎられて死亡する。地面に転がる死体の数は6つとなってしまった。普通の人間だったら命からがら逃げ出したくなる光景だろう。しかし、宗矩は逃げなかった。愛車から降りると不遜にも怪物と対峙する。その顔はさっきまでの父親としての顔ではなかった。


「あなたは…だぁれ?」


「卿こそ何だ?卿は自分が一体何をしでかしたかわかっているのか?」


「僕はねぇ、僕をカツアゲしようとしてた奴らに死の制裁を加えただけだよ。悪い事じゃない」


「ほう、カツアゲごときでこれか?しかも、反省の色がないとは…全く救い難い」


この怪物は元は人間らしい。どうやら殺された6人組に絡まれてカツアゲされそうになった時に怪物に変身し、彼らを無残な死体にしてしまったようである。しかも、宗矩が指摘するように反省の色が全くなく、むしろいい事をしていると思っている。確かに殺された彼らに非がないわけではないが、何もここまでする必要などない。


「そうだ、君って悪い人だよね?悪い人は皆殺さないと…天国にいけないじゃないか!」


「フフフ…ハハハハハハッ!何をバカな事を…卿が天国に逝けるわけがなかろう?卿は地獄行きだ」


「悪い奴は死の制裁をおおおっ‼」


怪物の名はドッグス。口から牙を、両腕から鋭利な爪を生やした犬の怪物である。首には犬らしく首輪がつけられ、背中には何故か本当に小さな天使の羽が生えていた。6人もの命を奪った怪物には不相応な天使の羽が何故生えているのだろうか。しかし、そんな事は宗矩にはどうでもいい。本当にどうでもいいのだ。そして宗矩を勝手に悪人認定したドッグスは宗矩をも殺そうと飛びかかってきた。


「バカめ…ふん!」


「うわあっ!はあああっ‼」


「ぬわあっ!」


「ぐわあああっ‼ぐっ…!」


飛びかかったドッグスに対し、宗矩は足を大きく振って蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたドッグスは地面に着地するとまるで犬みたいに跳躍し、再び宗矩に噛みつかんと飛びかかる。しかし、宗矩もまた跳躍して身体を大きく捻り、その勢いでドッグスの腹に蹴りを入れる。ドッグスは倉庫のシャッターに激突し、地に伏した。


「な、何なんだよ…お前ぇ!」


「何だと思う?」


「はあああっ‼」


「おっと、ぬん!」


「あっ、ああああっ!くあぁ…」


苛立つを隠せないドッグスは鋭利な爪で宗矩を引き裂こうとするが、宗矩はドッグスの右腕を掴み、何と背負い投げの容量で投げ飛ばしてしまう。おかしい。普通の人間ならばさっきので死んでるハズなのに、目の前の男は死ぬどころか反撃して来た上に自分よりも強いのだ。しかも、まだ余裕といった雰囲気も出している。


「そうだ、犬なら犬らしくご主人の所へ帰ればよかろう?飼い犬でないなら尻尾巻いて何処かへ去ればいい。ふっ、冗談だ」


「はぁ…はぁ…黙れよぉ!」


「ふん!」


「うわあっ!な、何だアレ…」


宗矩の挑発に乗ってしまったドッグスは性懲りもなく宗矩に飛びかかる。その時、宗矩の瞳が禍々しく赤く光り、ドッグスは大きく弾き飛ばされてしまう。宗矩の目の前には禍々しい紋章が描かれた赤い魔法陣が出現しており、宗矩は魔法陣の前で右手を前に出して手首を1回転して右腕を素早く振り下ろす。すると魔法陣からバラバラの鎧が出現し、それが宗矩の身体に装着されていく。


「な、何なんだよぉ…お前ぇ!」


「魔神、再臨せり…!」


彼の名はヴォルケニックス・グランドバアル。柳生但馬守宗矩の正体にして悪魔、それも魔神と称される程の力を有した天下無双の悪魔である。漆黒に金のラインが入った鎧を身に纏いしその姿は誰もが畏怖する圧倒的な存在感を醸し出していた。因みに首から上には鎧が纏われていないが、瞳が赤くなり、耳は鋭く尖り、肌の色が灰色に変色し、髪も金髪に変化し、頭から4本も角が生え、背中から漆黒の翼が生えていた。これで怖くないわけがないだろう。絶対夜中に会いたくない。


「ば、化け物‼」


「卿がそれを言うのか?皮肉だな」


さて、『魔神、再臨せり』という彼の決め台詞には一応の意味があり、最初は人間として接触し、本来の姿に変身すると魔神として接触する事になるので、所謂挨拶みたいな感じになるのだろうか。そう考えると何とも律儀な魔神だが、相手がそんな事を考えられる余裕があるハズがない。その言葉だけでも震えてしまうようだ。


「う、わあああああっ‼」


「………………」


恐怖に駆られたドッグスはヴォルケニックスに襲いかかる。怖いけど今は目の前の悪魔に死の制裁を下すのが最優先だ。さしずめラスボスに挑む心境なのだろうか。対するヴォルケニックスは右腕を振るい、何もない空間を叩きつけてまるでガラスみたいに叩き割る。するとヴォルケニックスは叩き割った空間から禍々しい装飾が施された魔剣『禍太刀命(マガタチノミコト)』を引き抜き、ドッグスに妖しく煌めくその刃先を向けると走り出し、翼を広げて地面を滑空する。


「やああああっ‼」


「消えてしまえ。ぬわあああああっ‼」


一閃、お互いの立ち位置が入れ替わると勝負はもう決していた。ドッグスは禍太刀命に腹を切り裂かれて大量に出血しており、対するヴォルケニックスは理不尽な事に無傷であった。たった一太刀、しかも必殺技の類も使わずに勝負は決していたのだ。ドッグスの最期がすぐそこまで来ていた。


「そ、そんな…僕は…僕はぁ!」


「……………」


「これで、天国に逝けるんだね…?」


「…安心しろ。これから卿は地獄に墜ちるのだ」


「い、嫌だぁ!じ、地獄なんて…地獄なんてぇ‼あっ、ああっ、うわああああああっ‼」


ドッグスの身体は禍太刀命で切り裂かれた際に禍太刀命の命を蝕み喰らう闇に侵食されており、次第に身体全体を呑み込み絶望して消滅する。こうして世からひとつ、怪物が消えた。戦いを終えてヴォルケニックスは夜空を見上げる。綺麗な月がヴォルケニックスを照らしていた。祝福の光といっていいだろう。


「……………………」


しかし、ヴォルケニックスの表情は浮かない。敵は倒せたとはいえ、結局誰も救えなかったのだ。犠牲になった6人、ドッグスという怪物に堕ちてしまった人間。もしかしたら救えたかもしれない、守れたかもしれない命をヴォルケニックスは守れなかったのだ。悪魔にしては随分お人好しすぎるが、それが魔神ヴォルケニックス・グランドバアルなのだ。これは魔神がこの世を守る1つの日常。そして、これから先起こる戦いのプロローグなのである。

こんにちわ、エンジェビルです(^-^)/


いよいよ久し振りの連載となりました(^^)その主人公は景綱ではなく、不死鳥シリーズ屈指の人気キャラらしい柳生但馬守宗矩ことヴォルケニックス・グランドバアルとなりました(^-^)/


今までの作品と比べてだいぶ恋愛要素が薄くなりましたが、バトルやシリアスな展開で進めて行こうかなと思います(^^)バトル、あっという間…それも変身したら一撃で終わっちゃいましたけどf^_^;)



○柳生但馬守宗矩/ヴォルケニックス・グランドバアル(ICV:森川智之)

今回めでたく主人公に抜擢された最強の魔神です(^^)登場させるに辺り、実はかなり設定が変わってると思います。二人称が卿とか、武器の名前とか、人間関係とか。美咲とか景綱とかが周囲にいませんからねf^_^;)変身したらすぐに決着が着いてしまうのはなんか深夜特撮っぽいですよね。まぁ、ただ単にそれは宗矩が強すぎるからで…f^_^;)これからは親としての宗矩、魔神としてのヴォルケニックスの活躍をお楽しみいただければと思います(^^)


○柳生花梨(ICV:大久保瑠美)

お馴染み宗矩の愛娘です(^^)実はかつての不死鳥シリーズでキャラがブレてたので、今回からはクールな優等生で行こうかとf^_^;)そして、不死鳥シリーズでは珍しい貧乳ちゃんです(T_T)かつてはまさかの変身して戦う展開が待ってましたが、今回はどうなるのか…


○桐生拓海(ICV:岡本信彦)

貴重なボケかと思いきやツッコミ。かつては変身してましたが、今作では変身しませんね、今のところはですが…f^_^;とは言え、個人的にはあんまり戦わせないようにしたいと思ってます。そして、相変わらず文乃に振り回されてます(T_T)それは変わりません。今後はバカなので、そっちで頑張って貰いましょうo(^▽^)o


○高槻文乃(ICV:伊藤かな恵)

相変わらず拓海の彼女です(^^)他のキャラと比べると彼女はあんまり変わんないと思います(^-^)/拓海とイチャイチャさせとけば大体文乃です。これからは残念な一面を見せて、貴重なエロキャラとして頑張っていきますよo(^▽^)o


○ドッグス(ICV:白鳥哲)

今回のゲスト怪人です。犬の怪人って殆どいないのでチョイスしました(^-^)/イメージキャストが白鳥さんなのは何となく気弱そうなキャラが似合うかな?と思ってです。ガンダムで言えばシャギアvsアンドレイorサイですねf^_^;)残念ながらもう出て来ませんm(_ _)m



次回はそうですね、巨大戦やりましょうか(^-^)/


ではではm(_ _)m

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