第2章 猟犬-3
「……冥界?」
「『冥土』『彼岸』『黄泉の国』……国や時代によってそれぞれ呼び名は違うけど、よーするに死後の世界よ。あなたたち、現世の人間から見ればね」
裕太のベッドをソファ代わりに腰掛け、膝をブラブラさせながらカーネがいう。
「『あの世』って本当にあったんだ……大人の中には『人は死んだら骨になって終わり』っていう人もいるけど……」
自分用の学習椅子に座り、興味津々で少女の話を聞く裕太。
そこまでいってからハッとして、
「てことは……死後の世界から来た君は、その、つまり幽――」
「あーっと、誤解しないで! あたしは違うの。いってみれば、『向こう側』で生まれた冥界専属の住民だから」
「?」
「……にしても、あたしらから見れば、何で現世の人間が幽霊や亡者をそんなに怖がるのか、そっちの方がよっぽど不思議よ。元は同じ魂が、『誕生』と『死』を契機に二つの世界を往来してるだけなのに」
「それって要するに……生まれ変わりとか、転生とかいうやつ?」
「そっ。たとえば七十歳で死んだ老人がいるとするでしょ? するとその人は死んだ瞬間に老人のままの姿で冥界に『誕生』して、それから逆に若返っていくのよ」
「へえ……」
「そうやって、現世に残した未練や執着を、少しずつ時間をかけて『浄化』していくわけよね。まあ人によってかかる時間は違うけど……現世でのアカをすっかり落として、つまりまっさらな赤ん坊の状態に戻った時点で、また現世に還って行くの。新たな『命』として」
「それじゃあ、生きていた間の記憶も全部なくしちゃうんだ?」
「当然よ。もちろん、楽しかった思い出や、親しかった人たちのことを忘れたくないって望む亡者も大勢いるわ。その場合は、本人が納得するまで冥界に留まってもらうことになるわね。『人によって時間がかかる』ってのはそういう意味よ。たとえば若くして事故や病気で死んだ亡者の中には、遺された家族や恋人が寿命で亡くなるまで、何十年もの間冥界で待ち続ける人だっているわ。その場合、その人はいつまでも死んだときの年齢で過ごすことになる……ま、それは本当に人それぞれだけどね」
カーネは天井を見上げると、膝を抱え遠くを見やるような表情でいった。
「そうやって生まれて死んで、生まれて死んで……何度も転生を繰り返しながら、人の魂は徐々に霊格を高めていく。充分霊格の高まった魂は、現世でも冥界でもないさらに上層……神々のおわす『天界』へ旅だって行くと聞くわ。ああ、これもこっち側によって呼び名が違ったわよね。『天国』とか『極楽浄土』とか」
「天国があるってことは……その反対もあるのかな? その、じ、じ……」
「『地獄』のこと? あるわよ、当然」
ふいに険しい表情に変わり、カーネは裕太をまっすぐに見つめた。
「現世だって、罪を犯せば警察に捕まって牢屋に入れられるでしょ? それと同じよ。ただしこっち側の裁判と違って、冥王様の裁きに誤審や冤罪なんてあり得ない。現世で罪を犯し、何の償いもしないまま死んだ亡者は……容赦なく裁かれ、それぞれの罪に応じた地獄へ墜とされるわ。百年か千年か、あるいはそれ以上……場合によっては未来永劫、耐え難い苦痛の中でもがきながら己の罪を悔やむことになるのよ」
裕太の胸が鉛でも呑んだように重くなった。
顔から血の気が引き、額に脂汗が滲むのが、自分でもはっきり判る。
「どうしたの? 顔色が悪いじゃない」
そんな自分の心を見透かすように、少女が尋ねてきた。
「ずいぶん怯えてるようだけど……ひょっとしてあんた、何か地獄に堕ちるよーな悪いコトでもやったの?」
「そ、それは……」
「……ジュースの空き缶を道ばたにポイ捨てしたとか?」
裕太は危うく椅子からずり落ちそうになった。
「そんなことで地獄に堕とされるのかーっ!?」
「アハハ。冗談、ジョーダン。まあ安心なさいよ。殺人とか強盗とか、よほどの悪事を働かない限り地獄行きなんて滅多にないから。それに悪いことしたと思ったのなら、同じくらい善行を積んで償えばいー話じゃない?」
裕太の怯えかたを面白がるように、カーネが笑う。
少なくとも彼女の「魔力」のレパートリーに読心能力は存在していないらしい。
(償うなんて……世の中には一生かけても償えない、取り返しのつかない罪だってあるんだ……!)
そんな裕太の心中にはお構いなく、カーネがうんざりといった表情で肩をすくめた。
「でも、中にはいるのよねぇ。死んでも懲りない悪党ってのが……あんたもゆうべ見たでしょ? あれは罪鬼……地獄から逃亡した罪人どもよ。単なる亡者ならまだしも、逆に地獄の魔瘴気を吸収して怪物化してるから始末に負えないわ」
裕太の脳裏を、あのゾンビのような怪物どもの群れが過ぎった。
要するに、奴らの正体は地獄から逃げ出してきた罪人の亡霊ということらしい。
「それじゃ、君が冥界から来た目的は……」
「ウフフ、お察しのとーり。そこで、あたしら『ヴェルトロ』の出番ってわけ♪」
ようやく自らのことを紹介できるのがよほど嬉しいのか、平均的なローティーンの少女と同程度に膨らんだブラウスの胸に手を当て、さも誇らしげにカーネが告白した。
「自らの罪を悔い改めず、性懲りもなく現世へ逃げ出してきた連中を、地獄に連れ戻すのがあたしらの役目。ま、こっち側の世界でいう刑事や捜査官ってとこかしら?」
「連れ戻すって……問答無用で斬り殺してたじゃないか」
「あー、人間の目にはそう見えたかもね。でもあれは『再殺』っていって、物質化した罪鬼の肉体を破壊して魂だけを地獄へ送り返す、いわば儀式みたいなものよ」
「それであいつらの死骸が煙になって消えてたのか……ん? そういや『ヴェルトロ』って……どこかで聞いた言葉だな」
わずかに考え込み、
「思い出した! ダンテの『神曲』に出てくる、地獄から逃げた罪人を狩りたてる猟犬の名前だ」
「へぇ……案外物知りなんだ、ユウタって」
「中学の授業で教わって、ちょっと興味があったから図書室で読んだんだよ……分厚いうえに難しい本だから、途中で投げだしちゃったけど」
「ま、その本にどう書かれてるかは知らないけど……タダの猟犬じゃないわよ。あたしらは冥王様から直々に命を授かった、つまり生者でも亡者でもない不死の存在。そのうえ厄介な罪鬼どもを狩るため、生まれながらにして数々の魔力も与えられてるんだから!」
「そういや、他にも仲間がいるっていってたけど?」
「ん……まあね。今回の『狩り』は、あたしを含めて五人派遣されてる」
それまでの自信たっぷりの態度がなぜか急にトーンダウンし、何となく面白くなさげな顔つきで答えるカーネ。
「あたしと同じ戦士のイザハド、魔導師のオウマとテレーズ。それに今回のリーダーで、あたしの教官でもあるラミア隊長……」
「教官?」
「見かけはこうだけどね、実はあたし、現世の時間にしてつい一年くらい前に向こうで『創られた』ばっかりで……その一年間に戦闘技術や魔力の使い方を教えてくれたのが、そのラミア教官。ヴェルトロとしては冥界でもトップクラスの実力って評判の彼女からみっちり仕込まれて……ようやく今回、初の実戦に参加できたってワケ」
「なーんだ。ずいぶん偉そうにいってたけど、要するにまだ新人研修の最中じゃないか。それに生まれて一年ってことは……人間にすれば、まだ一歳の赤ん坊?」
思わずぷっと吹き出す裕太。
「るさいわね!」
ヴェルトロの少女は、やや頬を赤らめムキになって言い返した。
「そりゃ、今はまだ新米だけどさ……いずれはガンガン戦果を挙げて、ラミアみたいに十二使徒まで出世してみせるんだから!」
「十二使徒?」
「そ。正しくは『冥王十二使徒』っていって、ヴェルトロの中でも魔力と戦技を極めた超エリートの十二人。全てのヴェルトロの憧れなのよ~」
「ま、まあそれは構わないけど……何だってわざわざうちの隣をアジトにするんだ? ぼくは君らの正体を知ってるわけだし、色々まずいんじゃない?」
「それなのよねぇ……」
眉を八の字に寄せ、憂鬱そうにため息をもらすカーネ。
「ホラ、ゆうべあんたを助けたあと、記憶を消さなかったのがバレちゃって……仲間たちからはボロカスにいわれるし、散々だったわよぉ。で、ペナルティとしてあんたが秘密を漏らさないようしっかり見張って、ついでに協力者として現世の情報も色々と聞いておけって……」
「失礼だなぁ。ぼくは内緒にするって約束したじゃないか」
「ごめ~ん! 別にユウタを疑ってるわけじゃないのよ? でもラミア隊長直々の命令じゃ、あたしも逆らえないし~。ね? ね? ここは、あたしの顔を立てると思って……」
大袈裟に手を合わせ、拝むように頭を下げてくる。
昨夜の毅然とした少女戦士の姿など影もない。
おねだりする子どものようにチラチラ見上げてくる緑の瞳を見ると、何だか腹を立てるのもバカらしくなってきた。
「ところで……さっき『今回の狩りは特別』っていってたよね? それってどういう意味? それと、近頃この町の近辺で起きてる連続殺人事件……何か関係あるのかい?」
「本来なら、いったん地獄に堕ちた亡者が現世に逃亡するなんてそうそうあることじゃないんだけど……今回、ある亡者が地獄と現世を直接結ぶ『抜け道』を見つけ出して……他の亡者たちも誘って集団脱獄されちゃったのよねえ」
「抜け道って……地獄と現世って、そんなに簡単に行き来できるものだったの?」
「もちろん、そんなことが起きないよう普段から厳重に警備されてるんだけど……何でも、あたしが生まれる少し前に冥界そのものを揺るがすような大災害があって、そのときに互いの世界を隔てる『境界』のあちこちにガタがきたらしいって話だけど」
「じゃあ、やっぱり連続殺人の犯人は、地獄から蘇ってきた罪鬼たち……」
昨夜見た生ける屍たちの姿を思い起こし、裕太はブルっと身を震わせた。
「もちろん抜け道じたいはもう閉鎖したし、脱走した亡者や罪鬼たちも大半はザコだから、いずれは一匹残らず再殺するわ。ただ問題は、今回の集団脱獄をしかけた主犯格……こいつを仕留めない限り、いつまた新たな抜け道を開かれて、大量の罪鬼どもを現世に野放しにされるか分かったもんじゃないからね」
「要するに、そっちの世界の管理ミスじゃないか……迷惑だなあ」
「あたしにいわれたってしょーがないでしょ? 生まれる前の話だもの……それに、現世の警察や軍隊の武器じゃ、罪鬼の肉体に傷ひとつつけることもできないのよ? 奴らを再殺できるのはあたしらヴェルトロだけ。といって、冥界の住人があんまりおおっぴらに現世で行動するわけにもいかないし……そこで、あんたの協力が必要ってわけ」
「そういうことなら……別に構わないよ。ぼくに手伝えることがあるっていうなら」
「え? ホントに、いーの?」
あっさり承諾した裕太の言葉に、話をもちかけた当のカーネが却って驚いたようだった。
「てっきり断られるかと思ってた……『厄介事に関わるのはごめんだ』っていってたし」
「そりゃあ、ぼくだってあんなバケモノと関わりたくはないさ……けど奴らのせいで、父さんや母さん、それに町のみんなが迷惑してるんだ。ぼくが協力して、一日も早く奴らを退治できるっていうなら……喜んで手伝うよ」
「ふ~ん……ちょっと見直しちゃった。初めて会ったときは、もっと臆病な人間かと思ってたけど……けっこー勇敢なんだ、ユウタって」
「べ、別に勇敢なんてほどじゃ……ただ、今は家にいても暇なだけだし」
「? そーいえば、ユウタくらいの年頃の人間て、昼間はガッコウとかいう場所に通ってるって聞いたけど……そっちの方はいいの?」
「見ての通りさ。中学までは卒業したけど……そのあと受験に失敗して、いまじゃ高校にも行かず、仕事もせずにブラブラしてる。こういうの、世間じゃ『ニート』とか『ひきこもり』っていうらしいけど」
床に視線を落とし、裕太は自嘲気味に笑った。
が、カーネの方はきょとんとした顔で目をしばたたいている。
「へえ、そうなの」
「……意外だな。思いっきりバカにされるかと思ってた」
「いやあたし、現世のことよく分かんないし。別に他の人間に迷惑かけてないなら、あとはユウタの好きなように生きればいーんじゃない?」
(迷惑はかけっぱなしなんだけどね……特に父さんや母さんには)
ふと、目の前にちょこんと腰掛けた快活な少女の姿が、かつての笠倉麻美と重なる。
仮に今ここにいるのが麻美なら、いったいどう言っただろう?
(『もーっ、なっさけないわねー! 一度入試に落ちたくらいで、いつまでウジウジしてんのよ? また来年受けるか、でなきゃ大検って手もあるじゃない。シャンとなさいよ、シャンと!』)
そんな風に、母親以上に厳しく叱ってくれたに違いない。
(本当に、無関係の別人なのか……?)
「どーかしたの? 急に黙り込んじゃって」
「あの……話は変わるけど、カーネって本当に麻美のこと知らないのか? いや、もちろん別人だってのは理解してるんだけど……そうやって昔の麻美の服を着てると、あんまりそっくりなもんで……何か関係がありそうな気がして」
「またその話? うーん、せっかく罪鬼狩りの件で協力してもらえるんだし、そっちの方でも何か力になりたいのは山々なんだけど……何しろ、あたし一年前に生まれたばっかりだから、それ以前の記憶がさっぱりないわけだし」
それからひどくいいにくそうに、
「……ひょっとして、こう思ってない? そのアサミって子が実はもう亡くなってて……あたしがその生まれ変わりだとか」
「あまり想像したくないけど……その可能性は、あるんじゃないかと思う。さっきの話を信じる限り、仮に麻美が失踪したすぐ後に死んだのなら……冥界に転生して、中学生そのままの姿でいたって不思議はないだろう?」
「むー。そこまでいうなら、その子の写真か何か見せてよ? あたしも何だか気になってきたから」
「残念だけど、麻美の写真はない……三年前に失踪したとき、警察に捜査の資料として全部渡しちゃったから……今残ってるのは、これくらいかなぁ」
本棚の一番片隅に目をやり、中学時代の卒業アルバムを引っ張り出してきた。
裕太にとっては開くのも忌まわしいアルバムだが、この中には麻美の写った写真も何枚かあるはずだ。
「なに、それ?」
「中学のアルバムだよ……要するに、三年間学校に通った記録ってやつかな?」
「へえ~?」
まずは後ろの方にある、クラスごとに撮影された集合写真のページを開く。
結局三年生として卒業できなかった麻美のポートレートは、最後のページに別枠で掲載されていた。何のコメントもないので、事情を知らない者が見たら「病気か何かで卒業式に出席できなかった生徒の写真」くらいにしか思わないだろう。
「うーん……確かによく似てるけど……でも、あたしこの写真見ても、別に何にも思い出さないし……」
裕太から借りた手鏡に映る自分の顔と比べつつ、カーネがしきりに首をかしげる。
「何なら、前の方にある学校行事の写真も見れば? 麻美が最後にいたクラスは2Cだから……」
「どれどれ……ふーん、体育祭に文化祭、修学旅行かぁ……学校って勉強だけする場所だと思ってたけど、他にも色んなイベントがあるのねえ」
姿形は中学生くらいの少女といえ、冥界で闘うためだけの生を受け、しかも誕生してから実質一歳というカーネにとって、学園生活などそれこそ別世界の出来事に違いない。
写っているもの全てが珍しいのだろう。もはや麻美の件など忘れて、卒業アルバムの内容そのものに興味をそそられているようだ。
「まあ、ゆっくり見てなよ。喉乾いたろ? お茶でも入れてくるから」
そういって裕太は階段を下り、一階のキッチンへと足を運んだ。
食器棚を開き、まず手前にある自分用のマグカップを、次いで一瞬ためらったあと、棚の奥の方に仕舞われたもう一つのカップを取り出した。
可愛い仔犬のキャラクターがプリントされた、ピンク色のマグカップ。
まだ麻美がこの家によく遊びに来ていた子どもの頃、一番のお気に入りとしてまるでマイカップのように愛用していた品。
『いつか麻美ちゃんが戻って来たとき、いつでも使えるように』――そういって、母親が大事にしまい込んでいたのだ。
もしカーネが麻美の生まれ変わり、もしくは何らかの形で麻美の「魂」を受け継いだ存在ならば、このカップを目にして何らかの反応を示すかもしれない。
(でも……もしそうだとしたら、ぼくは……)
ゴクっと生唾を呑み、数秒間その場に立ちつくす。
が、すぐに意を決し、インスタントコーヒーと角砂糖、それにクリープを出して二つのカップにコーヒーを入れ始めた。
お盆に載せ、努めて冷静さを装いつつ、再び自室へと引き返す。
カーネは相変わらず卒業アルバムに見入っていた。
いつの間にやらベッドの上で、男のようにどっかりあぐらをかいている。
(おいおい……ラミアって人は、女の子のマナーまで教えてくれなかったのか?)
うっかりするとスカートの下まで見えてしまいそうで、何とも目のやり場に困った。
「ほら……熱いから気をつけて」
「あ、サンキュ……あれ?」
アルバムから目を離し、カーネが不審そうな声を上げた。
(……!)
「これ、ゆうべ公園で飲んだコーヒーって飲み物よね? ……それにしちゃ、ちょっと苦くない?」
「し、市販の缶コーヒーが甘すぎるんだよ……糖分が多いから、あんまり飲み過ぎると身体によくないぞ」
「いーのよ、あたしら現世の人間とはカラダの作りが違うもーん。仲間のイザハドなんか、牛みたいに食ってもお腹壊したことないし。ま、あいつはオツムの中身も牛並みだけど~」
何やらひどいことをいいながら、お盆に載せてきた角砂糖の容器を取り上げ、手づかみで五、六個まとめて放り込む。
「ウン。美味し~い♪ 罪鬼どもをぶった斬った後なら、もっと美味しいんだけどね~」
結局、カップ自体には何の反応も示さなかった。
(やっぱり……別人か)
失望と安堵がないまぜになったような複雑な心境で、裕太は自分の椅子に腰を下ろした。
学習机に置かれたカップから立ち上る湯気の向こうに、あぐらをかいて座り込んだ制服姿の少女が揺らいで見える。
もし「彼女」が麻美の生まれ変わりなら。
ほんのわずかであれ、彼女の中に麻美の記憶が在ったならば――。
たぶん、自分は最初に出会ったその時に殺されていたに違いない。