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序章 使徒と侵略者

※この話は『神信じ篇四 惑い使徒はかく語りき』『人戻し篇』のスピンオフです。本編を読む前に、そちらを御参照頂く事を推奨します。



「ここは……?」

 見覚えの無い部屋だ。身体の下には硬いベッドが一つ、窓は二つ。そして壁には銃器が何丁か。どうして私はこんな所で眠って、

「!そうだ、主の所へ行かねば……!!」

 急いで水晶宮に戻ろうと立ち上がり、背中への違和感に首を捻る。両翼が無い!力で隠したまま気を失ったのだろうか?にしては本来あるはずの感触も感じられない。それに衣服も、普段とはかけ離れた代物だ。深緑色のジャケットとパンツは体型にピッタリとフィットし、ゆったりした法衣と違って締め付けられ落ち着かない。


 ガチャッ。


 出入り口のドアを開けて入ってきた人物を見、心の臓が止まりそうな程驚いた。

「ジプリール……なのですか?」

 懐かしい青髪。失われたはずの、神の恩寵の体現が、いた。

「あら、起きたのねイスラ。良かった」微笑した彼女も私と同じような服を着、長細い銃器を背負っている。

「何故……?あなたは異教徒に殺されたはずでは……」

 大父神様が嘘を仰る理由は無い。

 すると、ジプリールは口を開けて笑った。

「異教徒?何の話?私は無宗教者よ、あなたも知っているでしょう?」

「え……」訳が分からない。別人、にしてはそっくりだ。翼が無いのを除けば。心地良い声も、口調も。

「で、では大父神様の事は?」

「ジュード?ああ、彼は無事なのかしら……?」

 心配そうにそう呟く。

「主を呼び捨てにしないで下さい!一体どうしてしまったのですかジプリール!敬虔な信仰心を持つ、あなたともあろう人が」

「ジュードが神様?イスラ、大丈夫?頭を打ってまだ混乱しているのね、可哀相に」

 しなやかな指が私の額に触れる。

「確かにクラスでは勉強の神様なんて讃えられているけど、彼はただの同級生よ?空を飛んだり天気を操ったりは出来ないわ」

 ドウキュウセイとは何だ?唯一理解出来るのは、彼女が一片たりとも主に対して敬意を払っていない事実だけ。

「それよりも良いタイミングで目覚めてくれたわ。ここもそろそろ奴等に勘付かれる頃よ。丁度移動しようとウーリーエールと相談していた所だったの」

「ウーリーエール?ではミーカールもいるのですか?」

「ええ。二人共一階で見張りをしてくれているわ。何時奴等が襲ってくるか分からないもの」

 奴等?我々の敵は異教徒のはずだが、それは先程否定された。では一体何の脅威が。


 ガタンッ!


 窓を叩く音がして振り向く。


「もー!」


 そこには奇怪な生物が張り付いていた。体長は私と同程度、但し、首の無い寸胴で体積は約二倍だ。全身茶色の皮膚?(生身と言うより陶器に近い質感だ)を剥き出し、衣服は一切纏っていない。本来目と口のある部分は丸く黒い穴が空き、「もーもー!」ひたすら鳴き声を上げながら、指に分化していない腕で硝子をバシバシ叩く。

「しまった!気付かれたわ!」

 ジプリールは素早く背中の銃を構え、躊躇い無く連射発砲した。


「もー………!」


 硝子ごと額を撃ち抜かれた生物は、断末魔らしき声を残して落ちていく。ドサッ!

「イスラ、そのデイパックにハンドガンと救急キットが入っているわ。持って行って。急いで下の二人とこの建物を脱出しましょう」

「わ、分かりました!」

 意味も分からないままベッド横のリュックサックを担ぎ、部屋を出る彼女の後に続く。

 階段を下りた瞬間、凄まじい爆発音と共に硝子の割れる音が響き渡った。


「オラオラオラ!!」


 ミーカールの長く太い銃身から散弾が発射され、茶色の生物を次々地に伏させていく。武器が違っても流石、規定された闘争本能は全く萎える事を知らない。

「あーあ、そんなにバカスカ撃っていたら弾切れになるよ?」拳大の爆弾らしき物を群れ目掛け投げながら、隣のウーリーエールが嗜めた。「今回も彼女はいないみたいだね。やっぱりいるとしたら電波塔の方かな?」

 苛立たしい舌打ちと共に、爆殺が加速する。

「二人共!イスラが目を覚ましたわ!急いでここを離れましょう!」

「だな!おいイスラ、手前は鈍臭え、俺から絶対離れるなよ!」

 そう叫ぶと、ミーカールは無遠慮に私のデイパックに手を入れ、一丁の拳銃を取り出した。

「おいジプル!こんな豆鉄砲で戦えってのか!?」舌打ち。「もっとマシな武器があっただろ!」

「安心してミーカール。それはあくまで護身用。ショットガンやマシンガンを持たせたら同士撃ちが怖いもの。何せイスラの不器用さは筋金入りだから」

「全くだ!」ゲラゲラ笑いながら銃を私の手に押し付ける。「いいか、使うのは本気でヤバくなった時だけだぞ。間違って俺達を撃ったら手前、囮として奴等の群れに蹴り込んでやる」

「わ、分かりました」元より気迫と戦闘能力でミーカールに勝てるはずがない。

 民家らしき建物を脱出した私達は、短足でドタドタ追い掛けてくる生物を射撃しつつ路地を駆け抜ける。勿論私は一発も撃たなかったが。

「あれは?」行く手に聳え立つ、周りの建物とは比べ物にならない高さの鉄塔を指差す。

「寝過ぎてまだボンヤリしているのかい?テレビの電波塔に決まってるじゃないか。こいつ等の本拠地だって、避難勧告しに来た自衛官が言っていた。本当なら彼と街を脱出するはずだったんだけど……」首を横に振る。「今はすっかり任務放棄して、その辺をほっつき歩いている。君のデイパックは彼の物だ」

 ウーリーエールの銃はミーカールの物と似ているが、着弾すると爆発して半径一メートル程が瞬時に凍り付いた。足と地面が接着し、生物が若干悔しげにもーもー叫んでいる。動きを封じた間に私達は素早く横を走り抜けた。



「ここよ」

 ジプリールが路地裏のマンホールを指差し、壁に立て掛けられた鉄棒を手にした。鉤状の先端を素早く取っ手に引っ掛け、力任せに開ける。

「皆、早く降りて」

 彼女の指示に従い、ミーカール、ウーリーエール、私の順に梯子を降りた。

 地下道は意外にも清潔で、白い石床には多少埃が落ちている程度だ。

「よく見つけられたねジプル。ここ、テレビ局の別館制作室だろ?平時なら関係者以外立入禁止の」

 器用に重い蓋を閉めて降りてきたジプリールは「ええ、そうよ。この廊下を抜けて、エレベーターか階段を使えば電波塔に入れるわ」記憶と寸分違わぬ笑顔で応えた。

「おっしゃ!さっさと奴等を皆殺して、ついでにあいつを取り返すぞ!」

「ついではないでしょうミーカール。血の繋がりは無くても、大事な大事な娘さんなのだから」

 娘……?もしかして「人形ですか?」

「そんな言い方良くないわイスラ。確かに、彼にとって可愛いお人形さんには違いないでしょうけど。ふふ」

 笑われた途端、頬を赤くしてショットガンを振り回した。

「からかうんじゃねえ!こいつで脳味噌噴き出させるぞ!」

「まあ怖い」

「止めなってミーカール!大人気な……何だ!?」


 どどどどどどどど!!!


「しまった!奴等に気付かれた!」

 後方から迫る茶色の雪崩にウーリーエールが叫ぶ。

「くそっ!あの数を相手するだけの弾は無いぞ!全員、散れ!!」

「イスラ、こっちへ!」「はい!」

 ジプリールに手を引かれ、二人とは逆方向へ走り出す。背後から鳴き声が段々近くなって聞こえてくる。

「駄目だわ、このままだと二人共追い付かれてしまう!イスラ!」

 手を放した彼女は背中の銃を降ろし、背後へ向けて構えた。

「どうするつもりです!?」

「ウーリーエールから手榴弾を幾つか貰っているわ。ここで奴等を食い止める。あなたは先に行ってジュードを探して!」

 齎された新たな情報に、私は吃驚仰天した。「大父神様がこの先にいらっしゃるのですか!?」

「彼からの最後の連絡があったのが、電波塔内の撮影スタジオなの。奴等に見つからない所に隠れているなら、まだ無事かもしれないわ」

「わ、分かりました!しかしあなたを残して行くのは」

 現実に死んだ彼女を思えば、とても置いては行けない。

 私の憂いを知らず、ジプリールは長い髪を優雅に揺らした。

「気持ちは嬉しいわ。だけどイスラ。ミーカールの言う通り、あなたがいても足手纏いになるだけよ」ニッコリ笑って宣言されてしまった。「行って」

「はい……必ず無事でいて下さいね」




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