きっかけ・第1話
翔平は最近寝不足による疲労が溜まっていた。
バイト、勉強、遊びで家に帰る時間はいつも深夜の3時を回るほどになっていた。
友達や家族はそんな生活の翔平を心配していたが、当の本人は皆の心配を尻目に悪生活を繰り返し続けていた。
さすがに翔平の疲労はピークに達し、病院では1週間は家で安静にしてるよう言われた。翔平はやむなくそれに従わざるを得なかった。
しかし、バイトの事、いつも連るんでいる友達との事を考えていると、じっとしているのがたまらなくいられなかった。けれど、今は体調を良くするのが先で、また、早く復帰したいという思いもあり、家で安静を保つことにしていた。
それから2日間、家でテレビを見たり、インターネットをしたりと、普段とは違った生活を送っていた。
そして翔平はチャットにのめり込んでいった。
「12時です…」の時報も無視して黙々とパソコンに向かっていた。自分でも寝た方が良いということも分かっていたし、寝ないとまた具合が悪くなってしまうということも承知していた。 けれど、それ以上に翔平はチャットを楽しんでいた。忙しかった時にはチャットなんて興味が無かったし、それに時間も無かった。
自分の身の上のことや、友達や恋人のこと、くだらないような話でもチャットは盛り上がっていた。
すると、『真夜中ニート』と名乗る男がこんな文章を打っていた。
「長野県の青柳駅ってところのすぐ近くに新しいコンビニが出来たらしいよ」
翔平はハッとした。自分の家から青柳駅は歩いて数分ほどのところで、極めて近かったからである。コンビニなんて建てている気配は無かったし、建設音や工事の雑音も全く聞こえなかったから気付かなかったのだろうか。それとも全くの嘘なのであろうか。
しかし、妙な事に気が付いた。
なぜ新しいコンビニが出来たくらいで、どこの誰かも分からない人が
「コンビニが出来た」
なんて言うのだろうか? この人もこの辺に住んでいるのだろうか? 色々な疑問が生まれた。そして『真夜中ニート』に色々と尋ねてみた。
「真夜中ニートはさあ、その新しいコンビニが出来た所の近くに住んでるの? おれはその近くに住んでるんだけど、ここ2日間くらい外から出てないから分からないんだよね。どうなの?」
翔平のキーボードを打つ音が先ほどまでとは格段に違っていた。翔平は『真夜中ニート』からの返信に期待し、じっとパソコンのモニターを見つめていた。
意外に早く返事がきた。
「いや、僕は埼玉に住んでるものなんですがね…なんか、新しいコンビニが出来たって聞いて、少しでも知ってる人がいれば良いと思いましてね。かなりのサイトを回りましたよ。そうだ! 今からそのコンビニに行って感想を聞かせてくださいよ! 夜遅くでなんですが…お願いします!」
埼玉に住んでいる人がこの辺のコンビニに興味を持つということは、それだけ珍しいコンビニなのだろうと翔平は期待していた。
翔平は返事も返さずに、ブカブカのスウェットを着たまま、財布だけを持って家をでた…。
真夜中ニートは微笑を浮かべていた…。