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第1話 スクープ!

鳥居聡子、28歳。

身長164センチ、体重●●キロ。

さらさらの黒髪と少し目尻の上がった瞳が、その聡明さと潔さを表している。


そんな鳥居の職業は、誰もが納得の婦人警官だ。しかも鳥居はノルマ達成のために違反切符を切りまくるような婦人警官ではなく、まさに「市民の味方」の名に恥じない婦人警官である。


警視庁捜査一課2年目の武上刑事にとっても良き先輩であり、公私共にお世話になっている。


が。そんな鳥居にも欠点、というか弱点がある。

それも武上に言わせれば、致命的とも言える弱点が。



「鳥居さん、どうしたんですか?」


警視庁内の食堂で昼食を取っていた武上は、扉から入ってきた鳥居を見て思わず声をかけた。


「ああ・・・武上君・・・こんばんは」

「・・・」


一応説明しておくと、今は夜ではなく昼の12時である。鳥居がここまで元気がないのは珍しい。何かよほどのことがあったのだろう。


「落ち込んでますねー。鳥居さんが落ち込むなんて、原因はさてはKAZU関係ですね?」


武上の横でいつも通りサンドイッチを上品に食べている1年目のお坊ちゃま刑事・和田が鳥居にそう言うと、鳥居の顔つきが変わった、かと思ったら。


「と、鳥居さん!泣かないで下さいよ!」


武上は慌てて箸を置き、テーブルの下で和田の足を踏みつけてから鳥居に駆け寄った。鳥居が泣くなど、初めてのことだ。これは本当にただ事ではないらしい。



和彦の奴!鳥居さんに何かしたのか!?



「和彦」とは、和田が先ほど言っていた人気アイドル・KAZUのことである。

KAZUは世の女性達の心をわし掴みにしているだけでなく、武上が密かに(?)思いを寄せている女子高生・白木しらき寿々すずなの心も思いっきりわし掴んでおり、武上にとっては全くもって面白くない人物なのである。


しかしどういう運命の悪戯か、武上は知り合いたくもないのに和彦と知り合いで、和彦の女癖の悪さはよく分かっている。だから鳥居に何かしたのではと心配したのだが、冷静に考えてみれば、人気アイドルと一般女性(しかも婦人警官)の間に何かあるわけもなく。



いや、和彦ならやりかねない!



武上は鳥居の両肩を掴んだ。


「鳥居さん!何があったんですか!?場合によっちゃ和彦を、」

「・・・これ見て」


鳥居は鼻をすすりながら、肩に掛けていたショルダーバックから雑誌を取り出した。ファッション雑誌ではなく、毎週発行されているペラペラの「○×セブン」である。ということはやはり和彦関係なのだろうか。


武上は鳥居から雑誌を受け取り、その表紙を見た。案の定、そこにはデカデカと和彦・・・いや、営業スマイルで武装したKAZUの顔のアップが載っていた。こんなもんを見てキャーキャー言う女心は武上には一ミクロンたりとも分からないのだが、まあ今はいい。一体この雑誌に何が書かれているというのか。


武上が和彦の顔の下に書かれた文字に目を移したその時、食堂の一角から「キャー」「イヤー」という悲鳴が上がり、続いて「おー!」という歓声が上がった。見ると、テレビが置かれている周辺でその騒ぎが起こっているようである。


武上は雑誌を見るのを一時中断し、和田と顔を見合わせた後、動こうとしない鳥居を置いてテレビの方に向かった。既にそこには人垣ができており、みんな壁に掛けられたテレビを見上げている。


「どうしたんですか?何か大きな事件でもあったんですか?」


テレビの前の席にずっと座って食事をしていたベテラン刑事に武上が訊ねると、ベテラン刑事は苦笑いをした。


「まあ、大きな事件と言えば大きな事件だな。ただし俺達の出る幕はない」

「え?」

「ほら、見てみ」


指を差されてテレビを見ると、武上の手の中にある雑誌の表紙と同じ笑顔がそこにあった。本性を知らなければ確かに爽やかな笑顔に見えるが、武上にはもう悪魔の微笑みにしか見えない。


その悪魔の微笑みに大きなテロップが重なる。


「え?結婚?」


和田が武上より早く、そのテロップの意味を認識し、文字をそのまま声に出した。

武上も一歩遅れて、ようやくその意味を理解する。


「・・・結婚?え、結婚、って結婚?和彦が!?」


またテレビの周辺から「ヤダー」と女性達の悲鳴が上がる。しかしもう武上の耳にその悲鳴は届かない。

いや、和彦が結婚しようとしまいと、武上には関係ない。だが、問題は和彦の結婚相手だ。



まさか、寿々菜さん!?

ま、待て。寿々菜さんはまだ高校生だ。でも、和彦はそんなこと気にする奴じゃないし・・・

もしかして「できちゃった婚」とか・・・



「まさか!!!寿々菜さんに限ってそんなこと!!!」


和田がため息をつく。


「武上さんて面白いですよね。何を考えてるかすぐ分かります。あ、ほら、容疑者の情報が出ましたよ」

「寿々菜さんを容疑者って言うな!」

「まだスゥが容疑者と決まったわけじゃないでしょう」


完全な職業病だが今はそれどころではないのでスルーしておこう。

とにかく容疑者(結婚相手のことだ)の情報収集が最優先だ。


武上と和田は穴が開くほどテレビを見つめた。

そこには新たなテロップでこう書かれていた。


『ホテルマンが暴露、KAZUが結婚式の予約に来た!お相手は一般女性!!!』


「・・・」


武上は判断に困った。寿々菜は一応和彦と同じ事務所に所属している「スゥ」という芸名の芸能人だ。しかし「一応」も「一応」で、ほとんど一般人と言ってもいいくらいである。この「一般女性」が寿々菜かどうかは微妙なところだ。


「あ、でも、スゥじゃないみたいですよ。ほら、モザイクの写真が出てます」


なるほど、確かに和田の言う通り、堂々と腕を組んで高級ホテルの正面玄関から出てくるカップルの写真がテレビに映されている。男の方はサングラス姿とは言え間違いなく和彦だ。女性の顔にはモザイクがかかっているのだが・・・


「スゥはあんなにスタイル良くないですからねー」

「・・・」


寿々菜の為に反論してやりたいところだが、悲しいかな武上といえども反論の余地はない。

和彦の横に映っている女性は抜群のスタイルだ。顔は見えないがおそらく美人に違いない。

一方、寿々菜は・・・。・・・。・・・。


「でも僕はスゥの方がタイプですね。顔も体型も愛嬌があるって言うか」

「和田!」


と、武上は口で怒りながらも、心の中では和田に激しく同意していた。



そうだ。寿々菜さんには寿々菜さんの良さがあるんだ。

あんな女、目じゃないぞ。



世の男性の何割が武上と和田に同調してくれるかは怪しいところだが、取り敢えず和彦の結婚相手が寿々菜ではないことが分かったので、武上は胸を撫で下ろした。

と同時に、改めて驚きが込み上げてくる。


「和彦が結婚か・・・。本当か?何かの間違いじゃないのか?」

「でもホテルマンが、KAZUが結婚式の予約に来たって言ってるんですよ?他の人の結婚式の予約なんかしないだろうし、間違いないでしょう」

「でもあいつまだ21歳だぞ」

「しかもこの人気絶頂期に結婚だなんて、よく事務所が許しましたよね」

「・・・あ」


武上はここに来てようやくある2人の顔を思い出した。


三十路男ながらに和彦に恋するマネージャー・山崎と・・・どこまでも金にうるさい事務所の所長・門野の顔である。





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