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トライアングルレッスン

やきもちの形~ゆいこのトライアングルレッスンM~

作者: 夏月七葉
掲載日:2026/02/15

「あ、ゆいこねえちゃん!」

「むっくん! どうしたの?」


 放課後、廊下の窓から校門のところにむっくんが立っているのを見つけて駆けつけると、彼は嬉しそうに手を振った。

 いつもは私達の学校へは来ることがないむっくんに驚いて出てきてしまったが、ふとたくみに用があるのではないかと思い至り、私は校舎へ引き返そうとした。


「ちょっと待ってて。今、たくみを呼んでくるから」

「違う違う。用事があるのは、ゆいこねえちゃんだから」


 むっくんはそう言って、背中に隠していた手を前に出した。


「今日、バレンタインだろ。だから、これを渡したくて」


 目の前に差し出されたのは、一輪の赤い薔薇だった。

 私は目を丸くして、恐る恐るそれを受け取る。


「あ、ありがとう。……でも、なんで薔薇? バレンタインって、普通チョコレートだよね?」


 しかも、女子から男子に贈るのが一般的だろう。

 不思議に思っていると、むっくんが「ふふん」と笑う。


「イタリアでは、男性から女性に薔薇を贈るのが定番なんだ」


 きっとテレビか何かでそれを知って、少し背伸びをした気分で私に薔薇をくれたのだろう。

 そう考えたら微笑ましくなって、私は「へえ」と感心しながら弛む頬に力を入れた。別に悪い意味はないのだが、ここで笑ってしまったらむっくんが気分を悪くしてしまいそうな気がしたのだ。折角ここまで来て薔薇を渡してくれたのに、それでは申し訳ない。


「あ、でも、むっくんにもチョコレート用意してあるんだよ。学校に来ると思ってなかったから、今はないんだけど……」

「ありがとう! それなら、また後で家に貰いにいくよ」


 数時間後にまた会う約束をして、私は校舎に戻った。そして教室の扉を開けると、突然目の前に黄色が広がって目を瞬かせる。

 何事かと思ったが、よく見るとそれはミモザの花だった。その花の向こうに、やや不機嫌そうなたくみの顔があった。


「……ほら、これやる」

「え? あ、うん。ありがとう……?」


 訳が解らないままに、私はミモザを受け取る。微妙に目を合わせてくれないたくみの向こうで、やれやれと肩を竦めているひろしが見えた。


 それを見て、察する。

 校門でのむっくんとのやり取りを、二人は教室の窓から見ていたのだろう。イタリアのバレンタインの話をひろしから聞いたたくみは、慌てて教室に飾ってあったミモザの花を花瓶から抜いて私にプレゼントしようとしたのだ。

 その証拠に、教室の花瓶のミモザの嵩が減っている。


 なんだかおかしくて思わずふふっと笑うと、たくみは「何だよ」と不貞腐れたように言った。

 私は「別に」と返して、薔薇にミモザを重ねる。


 有り合わせの黄色い花。どうしても真っ赤な薔薇と比べてしまうと見劣りするけれど、私はこっちの方が好きだ。

 密かにそう思いながら、私はまた笑うのだった。

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