モノマネのまにまに
『もういい加減にして!!』
そんな声出すなよ。
『私ももう31なのよ?!あんたの夢を応援するのだって……もう、限界よ!!天職?だったら家賃払えるくらい稼いできてよ!!』
わかってる……次のショーでは流行りの――。
『人気のアニメだか漫画だか知らないけど資料だとか言って無駄に特装版DVDィ買うぅ?!どぉして雑に開封して放ったらかしができる?!どうかしてるわ!!価値が、わからないとか、どうかしてるぅぅ!!!はぁ……はぁ……もう……限界よ……私のことを大事に思うなら……ものまねでもなんでも……理想の彼氏として隣にいて欲しかったわ……出ていって!!今すぐ!!』
気づくのが遅すぎた……本当に。
だから、あんなふうに無様に死んで……死に際に真理に気づくなんてなぁ……。
「もし〜……?」
そんな俺なのに、天国に連れてきてくれたんだなぁ。
「聞こえております〜〜?」
目を閉じてるのに眩しいし、気持ちいい風も吹いて……。
「へいへいへいへーい??」
「んなっ?!そのニュアンスのへいへいは!!」
聞き覚えのあるセリフ、勢いよく体を起こして目をかっぴらいた。
「起きましたわぁ〜〜〜〜!!」
「え?なに?は?」
目の前には手のひらサイズくらいの女の子……?おっぱいあるから女性かもしれない。
「……なんだ?」
広い草原、だが、見たことのない花が咲いてる。
遠くに見える動物?それも、見たことがない。
「ようこそユウジン!わたくしの世界へ!!」
満面の笑みで、俺の周りを飛び回りながら、今俺が目覚めた世界について説明してくれた。
まず、この小さい女性はこの世界『アルピニア』を見守り、管理するらしい女神『ロゥズマリィ』。
現代日本で死んだ俺を導き、新たに生を与えてくれたらしい……ちょうど、DVDで見たアニメの展開とまぁまぁ酷似している……界隈で、ちまたで、有名な異世界転生ってやつ。
本当にある出来事なんだなぁと、あまり実感がないのに納得してしまった……直近の情報がなきゃもう少し困惑するか、驚きながらも興奮を覚えてたんだろうなぁ。
「で?……俺は女神様に選ばれるほど、期待されてるっての?」
「もちろん!もちろんですわ!!わたくしの目に狂いはありません!!」
真剣な顔で語ってくれていた女神の顔つきが変わっ――顔とか言ってる場合じゃない、なんだその手作りうちわは……「ユウジンこっちむいて」「がち!本物!!」
「ちょっとまて、それ、見たことあるぞ」
「あらあらあらぁぁぁ!!!認知されていましたの?!四畳半ひとり暮らしで日々徳を積んできた甲斐がありましてよぉぉ!!」
そこからは、ものすごい早口だった。
女神として独り立ちをするため、最高神から課せられた試練を現代日本で行っていたらしい。
その厳しい環境の中で、唯一の癒しになったのがものまね劇場でみた、俺。
「おま……女神様のクセにブラック企業勤めてたのかよ」
「マジで地獄でしたわ、ここに来る前に最高神様に潰してもらったくらいですもの、そりゃもう苦しみましたわ……現代日本の闇ですわね」
「いいの、それ」
試練の内容からしてその最高神ってのも、俺らが想像するような、仏とは違う存在なんだろうな。
「毎月のお給料日……お札を握りしめて通いましたわ……それ以外は女神パワーを使って、自宅のテレビでウォチパしておりましたのよ」
「犯罪じゃないか?」
「め、女神の特権ですわ!!」
その後、無事試練を終え、ひとつの世界を任されることになったのはいいものの、ここには娯楽がなく、こころにポッカリと空いた穴を埋められずにいたとある日……これも犯罪なんだけどな、俺を女神パワーでウォチパしてたら通り魔に俺が刺される瞬間を目撃。
「この世の終わりかと思いましたの……わたくしの推しがわたくしの目の前で命を消そうとしている……」
「女神様……そんなに――」
「キマシタワァァァァ!!!!」
「?!」
突然の大声。
むしろ咆哮だろう。
鼻息荒くして、発光しながら、ガッツポーズ。
「本来であれば推しに対し、本人へ直接的、個人的アクションを起こすことはタブー!グッズやチケット購入、投げ銭等で支えるのが道理!!ですけれど、わたくしは……女神、力を持っておりますの」
同意を求める目で見るな、わからん。
「ファンの方には大変申し訳ないと思いましたけれど、ユウジン、あなたをわたくしの世界へ連れてきてしまいましたわ」
「この世の終わりってなんだったんだよ、終わったのは俺だろ」
完全に私欲じゃないか。
「……本来連れてくるはずの方をほったらかしたせいで大半の力を失ってしまいましたけれど……それでも、わたくしはあなたに生きていてほしかったんですの」
「女神様……」
「今はお供としてご一緒する関係、女神様なんて他人行儀ですわ!マリィとお呼びくださいな」
それでも生きて欲しかった……ね……俺以外の誰かが選ばれていたにも関わらず、だ。
どんな理由であれ、個人的な理由であれ、そう思ってくれたことは、素直に嬉しい。
それなら、そいつの分までこの世界で生きて行かなきゃ、だれも報われないだろう。
「それで、俺はここでなにをしたらいいんだ?」
「ユウジン……」
「ぉわ?!」
「よくぞ聞いてくださいました!!助けてくださいまし!!」
この世界で生きることを伝えた途端、マリィは泣きわめきながら俺の頭にしがみついてきた。
「この世界の均衡が崩れてしまっていますの……わたくしが女神としての力を失ったせいで……あ!そもそもなのですけれど、現代でも、弱肉強食というものはありますでしょう?日本で学んだ創造の知識を元に同等の環境になるようにバランスをとっていたのですが、進化というものはすごいですわねぇ……わたくしの知らない間に魔物の上位互換の魔族?とか言うものが生まれちゃいまして、この世界の住人を襲いまくり、建物壊しまくり、暴れ回りまくり」
おぉ、ファンタジーだなぁ。
でも、知らない間ってのはウォチパしてたからじゃないのか?
「それを勇者を呼んで止める手筈を最高神様と話し合ったのですけれどわたくしやっちまいましたでしょ?そしたら魔界とか深淵とかもできちゃってもうやりたい放題なんですの」
均衡どころじゃない気がするのだが。
「力を合わせて……一緒にこの世界を、平和にいたしましょうね!」
「重すぎるっ!!!」
「大丈夫ですわ!!ユウジン!あなたの力を使えばおちゃのこさいさいですわよ!!」
「俺の、力?」
ドヤ顔のマリィは、異世界転生の特権である、転生者に与えられるスキル、俺に与えられた力の名を叫んだ。
「『モノマネ』ですわぁ〜〜〜〜〜!!」
全然、新鮮さもなにも感じないが……聞き慣れた言葉に安心感を覚えた。
「一応聞くが……その選ばれてたって勇者より強いの?」
「…………ユウジンなら余裕ですわぁ〜〜〜」
「なんだその間わぁぁぁ!!!」
普段からしていること。
この世界ではそれが特別で、生きるために、戦うために必要な、力。
初めての戦闘は、散々だった。
それはそうだろう、俺はただのものまね芸人なんだ、この世界に五万といる猛者たちとは体の作りが違う、普通の一般人だ。
「さぁ!やっちまってくださいまし!!」
「どうやるんだよ!!!」
『モノマネ』はものまねであるだろうことはわかるんだが……ヤケクソで、現代での有名人のものまねをした……なにもならなかった。
「へ、へいへいへいへーーい!」
「きゃーー!!!」
喜んでるのはマリィだけ。
こん棒をもった小さい緑色の鬼の大群に追いかけられている現実は変わらない。
どれだけ走ったのだろう、なんとか群れをまいて隠れる事ができた。
「もっと見たかったですのに……ゴブリンの『モノマネ』で圧倒してほしかったですわ」
「ゴブリン……アレが、ゴブリン……」
知らん。
知らんのよ。
「あ」
「なんだよ」
「怒りません?」
「……怒らない」
「わ、わたくしとしたことがうっかりしておりまして……その……『アナライズ』というものも備えておりましたの……ぉほほ……」
ほんと早く言ってほしかった。
誰かを、なにかを真似るためには、相手の特徴、体の動き方や声色、全てをよく見て、何度も繰り返し見て、とことん見て……研究することが前提だ。
「マリィさん、ホントに俺を見てたのか?」
「もちろんですわ!!推し、キターーーッ!!とどんだけ喜んだことか!!だから、その……嬉しい気持ちが先行して、一番だいじなことをお伝えしていなかったこと……お詫びします、申し訳ありません」
低い声で責めてしまった。
察して、心から謝ってくれた……これ以上、彼女を責めるなんてことはできなかった。
もう一度、俺の生きがいで、命であったものまねを、『モノマネ』という特別な力として生をくれたんだ。
ウォチパのし過ぎで、世界の異変をほったらかしというあり得ない怠慢な行動をするマヌケな女神だとしても、俺の事を推してくれる、最大のファンだ。
応えてやらないわけには、いかないな。
「しょぼくれた顔するなって、もう、怒ってないから……どこまでやれるか分からないけどさ、俺の『モノマネ』、しっかり見ててくれよマリィ。君は、俺の大切な観客なんだから」
「さすがユウジンですわ!!間近でバリバリに応援いたしますわよ!!あぁ!!投げ銭せざるを得ませんわぁぁ!!」
「いたっいたたっ……ちょ……その硬貨どんだけの価値か分からないけど直接投げるのはやめてくれ……絶対それ投げ銭違いだから……あたた……」
『アナライズ』を知ったことで、そこからの俺はどんどん『モノマネ』の能力を理解し、精度を上げていった。
声、動きを真似る、これが基本になる。
それぞれ精度ランクがあり、D〜SSSまでを『モノマネ』の能力が判断する。
マリィのように、聞いた者が「似てる!」と感覚的に判断した評価ではなく、動きは数ミリ単位、声はカラオケの採点に近いと感じた、機械的な精密さを求められている……ゆえに、今のところ最高評価精度ランクはS止まりだ。
魔物、魔族、人間の能力……全てを完璧に真似る事が出来れば、勇者じゃなくても、なんとかなるんじゃないかと、思うほどに。
「毎日幸せですわ……ところでユウジン、この世界になれてきまして?」
さすがに、数ヶ月も能力を駆使して旅をすれば、世界の現状やらなにやらも、大体把握してきたし……マリィがホントにガチファンだってのも……分かってきた。
「そこそこね……『モノマネ』にも大分慣れてきたけどさ、この『アナライズ』、レパートリーが増えていくのが目に見えてわかるし、やりがいがあるっていうか」
「そうでございましょう?!そうでございましょう〜〜〜??間近でユウジンの成長を感じられる……わたくしの支援で喜びを感じてくれるように……ぁぁぁ!!!」
「…………寝よ」
毎晩うるさいのはいつものこと……悪い気はしないけどな。
でも、今日だけは静かに過ごしておきたかった。翌日から、全土を巻き込んだ、深淵の魔族討伐作戦が始まるからだ。
「おはようございます、ユウジンさん」
「おはよう、フェンネル」
総大将を務める騎士団長のフェンネル。
魔物はびこる【月影の森】ってところで、『アナライズ』のデータ集めをしていた俺は、この森の魔物討伐をしていた彼に出会ったんだ。
負傷していた彼を、妖精ピクシーの『モノマネ』ヒールで傷を癒し、介抱したことがきっかけで仲良くなった。
もちろんこの時、俺が女神付きの転生者であることも説明してる。だからこそ、彼から今回の作戦に参加してほしいと、誘いが来た。
危険な作戦だってことは、重々理解した上で了承した。
この世界で初めてできた同性の友人、その願い、断れないよな。
「深淵は人間にとって未開の地、見たことのない魔物、魔族が多く存在しているでしょう……初動、我々が時間を稼ぎます、その間に分析を」
「ありがとう、フェンネル……死ぬなよ」
「ユウジンさんこそ、無理しないでくださいよ?」
拳を合わせ、戦地へ。
何万という戦士たちが、整列する様は、圧巻だった。
簡易的に作られた物見やぐらから、俺は迫りくる魔物の群を広範囲に目を向けて『アナライズ』。
この戦いに有益な力を持っている魔物の『モノマネ』を実践していく。
初撃はランクB、前線に出ていた敵が少し怯んだ程度。
2撃目、3撃目と徐々に精度を上げ、前線を押し上げる。
「進めーー!!!」
フェンネルの号令がこだました。
俺の『モノマネ』能力のわずらわしさは、待ちの時間が必ず発生することだ。地上では中級程度の魔物の中で、精度の高い『モノマネ』を何度も行使すればなんてことなかった。
それが通じない、それが深淵。
本当に、悔しい。
「終わったよ、フェンネル」
腹に穴を空け、ギリギリで息をしている友に、深淵が消えたことを告げる。
「ユウジン……さん……僕はもう……ダメなんですね」
「ごめん……ごめんな……ピクシーのヒール程度じゃ……どうしようも……」
「はは……覚悟は……してましたから……でも……母に……最後に母に……伝えて――」
深淵のヌシも、フェンネルと同じ姿で、事切れた。
俺が、『モノマネ』を、したからだ。
「ユウジン……」
「なぁマリィ……『モノマネ』は……俺の『モノマネ』は無力だ……」
「そ…………っ」
数多の戦士たちの葬列が、世界を渡った。
故郷に送り届けられていく……遺品だけの者もいた。
フェンネルの故郷は、とても暖かくて、優しい場所だった。
葬列から離れた俺は、フェンネルの葬儀に参列するため、村に滞在することにした。
「帰ってきたのね……あぁ……よく頑張ったわね……疲れたでしょう?ゆっくり、おやすみなさい」
この世界も、亡くなった人たちは火葬するらしい。
日本育ちの女神だからだろうな、翌朝納骨されるんだそうだ。
フェンネルの実家に泊まることになった俺は……俺にはだいじな役目が残されてる。
「聞いていただけますか?」
リビングのテーブルで、骨壺を見つめている、フェンネルの母親に声をかけ、ゆっくりと声を出した。
『僕のわがままで、騎士にしてもらえたこと、感謝してもしきれない……こんな形の帰還になってしまって、ごめんね母さん……ご…………――』
ダメだ、違うはずだ、フェンネル。
『大好きだよ、母さん』
『モノマネ』で人を泣かせたのは、これでふたりめになってしまった。
最後のひと言……本当はそう言いたかったんだって思って勝手を言ってしまったこと……これだけは謝るよ、フェンネル。
でも、このわずか一瞬でも、俺の『モノマネ』が、本物になって欲しかったんだ。
「やっぱりリアリティか……」
「ユウジン?」
「いや……マリィ、ありがとうな」
「え?え?え?」
魔界へ向かう道中、ふと思い立った。
「『モノマネ』の在り方っていうか……真似ることがどういうことかっていうか……本当は、無力じゃない、ごめんな」
「ユウジン……そんな、謝らないでくださいまし……元々わたくしが勝手な力を与えてしまった結果で……」
「うん、それはそう」
「まぁ!!??」
泣いていたけど、笑って……フェンネルの母親は言った。
「あの子がいたわ……声を聞けるなんて……ありがとう」って。
だから俺は、あの時感じた悲しみを、悲しみだけで終わらせてはダメだって、考え直したんだ。
「ほら、さっさと行って力を取り戻さないとだろ?」
「それはそうなのですけれど……」
「俺、思ったんだ。平和になったら『モノマネ』じゃなくて『ものまね』で皆を笑顔にできたらなって……いい考えだろ?」
今はまだ、世界がそれを許していない。
「わたくしのものではなくなってしまいますのねぇ……」
「今も昔も未来も、俺の『ものまね』はみんなのものだぞ?……あ、拗らせて世界を混沌に落とす女神とかになるなよな」
「しませんわよ!!わたくしは……ユウジンが心から自分の力を信じて努力している姿が好きなのですわ!それを妨げることなんて、いたしません!」
「なら良かった、持つべきものはファンクラブ1号、女神ロォズマリィ様だな」
「ファンクラブなんてありましたの?!いつから?!それなら0号をいただけますこと?!あとわたくしの名前はロォズマリィではなくてロゥズマリィですわよ?!」
力を取り戻したらさらにやかましくなりそうだが……世界平和のが優先だな。
「いつまでブツブツ言ってんだ?おいてくぞ〜?」
「はっ!!待ってくださいまし!!」
あぁ、そうだ、初めてSSS取れたんだよな。
魔界入り前に眺めて、気合い入れるとするかね。
「(『アナライズ』……ふふ)」
『種族:人間 聖騎士フェンネル 精度:SSS』
ほかは大体、頑張ってもSだけど、ま、なんとかなるだろ?
END
かなり勢いで書きました。
『モノマネ』であり、『コピー』ではないのでそこだけは!
このアホ女神的なのを書きたかったってのはあります。あくまで推しなので、恋愛に発展することはありません。ガチ恋に関してはマリィさん自身もNG判定してます。




