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23 願望と決意


 早朝訓練・・・と言えば聞こえはいいが・・・ま、シゴキだ。


 実家に帰っても花咲く笑顔のスズネさんに追われながらゴブリンやスライムを刈り、時々、交通事故のようにボアやオークと衝突する。


 俺もレベルが上がっているが、一緒にダンジョンを攻略するスズネもレベルが上がってたりするからタチが悪い。


 俺の中の “成長促進スキル” は、まだ寝てるのか?


 鬼は笑ってても鬼なのだ。




 一方、“野生児” も結構大変な目にあってる。


 剣を手にして間もないせいか、どうやら “間合い” の取り方に問題があるらしく、メイサとローラが交互にメイと対戦している。


 踏み込みが甘いとかいう問題でなく、踏み込みが深すぎて “モンク(徒手空拳)” の間合いになってしまってる様だ。


 「こういうクセは早いうちに治さないとね~」

 メイサは新しい玩具を手に入れたかのように御機嫌だ。


 ローサも木剣を手にメイサと交代で指導している。

 「ほらほら、相手が違うと間合いの取り方も違ってくるよ。踏み込みは良いけど考えなしで突っ込むと怪我じゃすまないよ。」


 《 スパルタ~w》


 気配を消して木の陰に隠れた俺は、息を切らせながら木剣を振るメイに同情していた。


 「余裕ですね♡」

 「う・・・うわあああ!」


 訂正。

 同情して欲しいのは、俺の方だった。





 朝食後


 俺の部屋でノビている “見習いメイド” を尻目に、俺はスズネに絵を書かせていた。


 「え~と、つまり馬車のように一本の軸で支えるのではなく、別々に軸を設けるということですか?」

 「正解。飲み込み早いね~」


 「ありがとうございます。・・・でもこれ。売れるんでしょうか?」

 「売れると思うよ? 井戸から水を運ぶだけでも一苦労だからね。実際ちょっと作ってみようか。」


 例によって裏庭の薪置き場に行き、()()()()()()と二つ作る。


 一つは貴族用に細かい意匠を施してある。


 冒険者ギルド経由で “盗賊” だの “人攫い” だのの懸賞金やら情報が入ってきたおかげで、外に出かけても誰も何も言われなくなった。

 おかげで、ずいぶん身軽に動けるようになったもんだ。


 テコテコ歩いてドンビシャスの商業ギルドへ行き、スズネの名で特許申請を出す。


 「 “草” って商会もやってるよね?」


 「はい。よくご存じで・・・」


 「情報集めやすいからね。飲食店や商会は命綱だろうね。で、何処で売ってもらおうか? 僕セルア商会しか知らないんだけど・・・」


 「よろしければ私の知り合いの商会で・・・」


 「任せるよ。じゃ、僕帰るから頑張ってね。」


 「お一人では危険です。」


 「大丈夫だよ。ノワールが付いてるからw セバスには僕から買い物頼まれたとか、テキトーに言い訳してね。」


 足元からにゅっと出てきた神獣が、頭に駆け上がり「にゃ!」と鳴いた。


 「はぁ・・・ありがとうございます・・・」

 丁寧に御辞儀をするスズネに手を上げ、俺は踵を返した。



 のちに『カート』と呼ばれる新製品は生産が間に合わないほど爆発的に売れ、スズネの貯金がとんでもないことになってしまうのだが、それはまた別の話である。






 気配を消して屋敷の壁をよじ登り、窓から帰宅を果たした。

 行儀悪いが(とも)も連れずに帰ってきたなんて、いらぬ心配されるからなw


 「メイ。生きてる?」

 俺のベッドで、まだノビている “見習いメイド” を揺すってみる。


 ノワールも俺の枕に突っ伏している野生児の頭をテシテシと叩いている。

 気に入ったのかね?


 「んへへ~ 御主人様の匂いだ~」


 「3歳児の体臭に酔いしれるヘンタイさんw」


 「うっさい!ちょっと言ってみたかっただけじゃない!」


 顔赤いよw



 「キミがその手のマンガに造詣が深いことがよく判ったけど、今は別の話があんの。」


 「何ヨ・・・スズネ先輩はどしたの?」


 「所用で外。今のうちでないと出来ない話。」


 「『勇者』のこと?」


 「簡単に死なれちゃ困るからね。『魔素』とか『チャクラ』の概念って解かる?」


 ちょっと考えたメイは、思い出したように手を叩いた。


 「まぁね『〇スラ』は愛読してたし、週一のヨガ教室にも通ってた。」


 「上等。僕のバカげた魔法の威力は、毎日『魔素』で『チャクラ』を回してたからって言えば理解できる?」


 「・・・な~るねぇ、そんなことしてたんだ・・・」


 知識はある。何となく理解してくれるだけでも大助かりだ。


 「サラフィナ様にも聞いたんだけど、そのせいで僕の『魔力密度』が高くなって “初級魔法” の威力が “中級” 程度まで押し上げられてるみたい。」


 「ふ~ん。それを私にもやれってこと?」


 「ダンジョンで死にたくなければね。ちなみに『魔素』や『チャクラ』の概念は、少なくともこの国では発見されてないから気を付けてね。」


 「了解」


 「やり方わかる?変なポーズとかしなくていいんだけど?」


 「丹田呼吸法ね。あと変なポーズとか言うな!アレは血流をよくして・・・」


 「はいはい。その辺の講釈はまた今度ね。くれぐれも『チャクラ』を暴走させないように・・・いまココでやって見る?」


 「・・・そうね。経験者がいた方が安心ね。指導ヨロ。」


 俺はスズネが帰ってくる時間いっぱいを使って。メイと呼吸法の実践を繰り返した。





                 ◆◆





 白い世界


 「や、お疲れさん。順調なようだね。」

 「サラフィナ様。お久しぶりです。すみません、御神体持って行けなくて・・・」


 「構わないよ。ダンジョンからの情報も入ってくるしw」

 「あ、やっぱり。爆笑してましたね?」


 「バレたw ソリアン君の手作りだからね。彼女が忙しいときは僕が管理してるのさ。」

 「別にいいですけど、マジックバッグありがとうございました。おかげで随分助かりました。」


 「アレは古代文明の遺産なんだけど、彼女ビックリしてたよ。」

 「ソリアン様の案でしたか。あとでお礼言わないと。」


 「気にしなくていいんじゃないかな?いま別件で手が離せないし。」

 「お近くには居られないのですか?」


 「人気者だからね~ あと10年くらいはアッチコッチ飛び回ってるんじゃないかな?」

 「アイドルですか!?美人さんだから呼びたくなる気持ちも分かるけど。」


 「それ聞いたら喜ぶよw」

 「あと、夢の中で “闇の神” 様に会いました。すごく綺麗でした。」


 「聞いたよ。あの娘も喜んでた。仲良くしてやってね。」

 「神像作った方がいいですか?」


 「ん~ どうだろうね?騒がれるのを嫌う娘だから、今のままで良いんじゃない?話したくなったら呼ばれると思うよ?」

 「解りました。ところであのダンジョンって、変動は起きるんですか?」


 「起きるだろうね。ソリアン君次第だけど。周囲のダンジョンも目覚めてるでしょ?」

 「そのようですね。今まで休眠してたんですか?」


 「そういう訳じゃないけどね。ほら、彼女久しぶりに弟子が出来たからw」

 「()()()()で張り切っちゃってると・・・傍迷惑な・・・」


 「そう言いなさんな。おかげで『勇者』じゃない子達もレベル上がってるようだし、悪い事ばかりじゃないと思うよ。」

 「そりゃそうででしょうが・・・」


 「それと、メイ君。だっけ?能力開放しといたよ。」


 「え?」


 「順調に育てば、単独で『魔王』に渡り合えるようになるかもねw」

 「俺の周りって『おっかない娘』ばかりじゃありませんか?」


 「ガンバレw じゃね」


 ソリャナイヨカミサマ・・・





                   ◆◆





 翌朝


 今朝の “シバ〇隊” の面々は・・・スズネ、メイサ、ローラ、ミセアのメイド衆だ。


 《・・・増殖しとる・・・》


 俺にはスズネ、“野生児” にはメイサがメインで指導し、短槍を持つローラと、矢じりのない短弓を担いだミセアは補助をするらしい。


 要は、所々で “ちょっかい” を仕掛けるという “乱戦” 形式らしい。


 《 ダンジョンより『()()()()()』んだが・・・》


 この日は悲鳴も上げられなかった。






 朝食後


 生きる屍と化した “野生児” をベッドに放置し、上級魔導書を読みふける。


 さすがに上級と言うだけあって、魔法陣も複雑だ。


 《 魔力コントロールも難しそうだ。要練習だな。》


 しかも、初級、中級、上級を通して言えることは “空間魔法” と “闇魔法“ の記載がないということだ。


 全く無いわけではないが、ほんの数行「こういうのがあるらしい」というモノ。


 著者も解らなかったのだろう。


 《 イメージは出来る。“空間斬” も撃てたし、アイテムボックスや結界も空間魔法の派生型と推測できるんだよな。・・・同業(転生)者もいるから、話し合えば明確なイメージは持てるか。・・・それでゴリ押しは出来ると思うけど・・・》


 ちなみに俺のアイテムボックスは空間に手を伸ばせば、いつでも取り出せる。


 しかも父に献上した容量の倍以上の大きさだ。


 我ながら反則技(チート)だと思うがねw



 しかし、治癒魔法に至っては、ハイヒールやハイキュアは載っているが “それ以上” がない。


 切断された手足を戻せるような治癒魔法が載ってないのだ。


 《 ん~ オッズの足治せると思ったんだがな・・・“パーフェクトヒール” 自体が存在してないのか?・・・イメージで? いや危険すぎるな・・・王宮に “借り” を作りたくないし・・・気が進まないけど・・・》


 「何悩んでんの?」


 枕から顔を上げた “野生児” が、俺を見ていた。


 「あ、ゾンビ起きた?」


 「誰がゾンビじゃ! まだ動けないけど。」


 「そう? サラフィナ様がメイの能力開放したって言ってたけど?」


 「兆しすら見えないけど? 白昼夢?」


 「えらい言われようだな。天罰くらうよ?」


 「南無南無・・・あ、少し動けそう。」

 よっこいしょとベッドから上半身を起こす。


 「昨日より回復早いね。さすが現役『勇者』w」


 「御主人様も現役じゃない。いやよ、一人で『魔王』に特攻かますのって。」


 「うまく育てば『魔王』とタイマン張れるって言ってたよ。ガンバレw」


 「いや御主人様はとうすんのよ!後ろでお茶でも飲んでるワケ?」


 「いいねそれ、もう一人の『勇者』の陰に隠れて応援してあげる。」


 「人でなし・・・」


 「怒りに任せて特攻かますと援護もできないよ。フレンドリーファイヤ―が恐くてね。」


 「分かったわよ。気を付けるから協力してよね。」


 「鋭意努力します。」


 「ホントかしら。」


 「僕はウソはつかないよ・・・たぶんねw」


 「うそつき~」





 「失礼します・・・メイ?もう大丈夫なの?」

 わちゃわちゃと軽口を叩きあってると、スズネが部屋に入ってきた。


 「あ、センパイ。まだ少しダルいけど大丈夫です。」


 「呆れた、半日は寝てるかもって思ってたけど・・・まあいいわ。」


 「スズネ。新商品は売ってくれそう?」 


 「はい。画期的だって張り切ってました。セルア会長が知ったら地団太踏むかもしれませんね。」


 「“知らぬ存ぜぬ” でシラを切り通そう。スズネの特許だしね。」


 そこは詐欺師の得意分野さw




 「あの・・・本当にソレでいいんでしょうか?」

 心配性だね。スズネ君w


 「僕がいいと言ったんだから、いいんだよ。スズネには世話になってるしw」


 「ありがとうございます。」

 スズネは深々と頭を下げた。


 「何の話?」

 メイは首を傾げている。


 「『カート』。便利だし流行らせようと思ってね。」


 「あー!それ私も一枚噛みたかったな~」


 「メイは『オセロ』ガンバレw この世界は娯楽が少ないみたいだから “当たれ” ば勝ち組の仲間入りだよ?」


 「しゃ~ないか。あ、今日セルア会長と会う約束してたんだ。外出許可下さい。」


 「僕も行くよ。って、居場所知ってたの?」


 「商業ギルド傍の倉庫借りたんだって、そこで寝泊まりしてるらしいよ?」


 「逞しいね~。お茶飲んだら行こうか。ベッド綺麗にしといてね。」





 俺達はテクテクと屋敷のロビーに向かった。


 「なんだ、また “盗賊狩り”にでも出るのか?」


 教本を抱えたサルカス兄が揶揄(からか)ってくる。


 「今日はセルア商会長に会いに行ってきます。午後から水車小屋の視察でしたね。それまでには帰って来ます。」


 「遅れるなよ。」


 「はい。兄様も頑張ってください。」


 良い関係だ。



 俺は足取りも軽く、ドンビシャスへと向かう。


 「どっかに “盗賊” 落ちてないかな~」


 「何物騒なコト考えてんのよ。」


 「『勇者』廃業して『盗賊狩り』に鞍替えできないかな~」


 「アホなこと言ってないで、シャキシャキ歩きなさい!」


 「仲いいですね、お二人とも・・・」

 スズネは少し呆れているようだ。



 『鬼のシバ〇隊』の被害者仲間だ。


 仲も良くなるさw


 戦国時代で言うところの『同じ釜の飯を食う』仲間だしなww




 「そうそう、王宮の方はどうなってるの?」

 俺は話題を変えた。


 「まだゴタゴタが続いているようですね。情報が錯綜して正確な状況が把握しきれてませんが、過激派と裏家業を生業としている大きな組織が大打撃を受けているようです・・・」


 「それだけ?」


 「いえ、未確認情報ですが、死因不明の死体や麻薬患者が増えてきているようです。」


 「激増してる?」


 「言うほどでは・・・ですが、スラム街などでは噂が絶えないようです。」


 「どんな噂?」


 「人が消えるとか・・・」


 「騎士団は動いてる?」


 「調査は行っているようですが、詳しいことは・・・」


 「解った。ありがとう。」



 「 “麻薬” と “人攫い” ねえ。“あるある” なら『人体実験』とか『悪魔召喚』とかありそうだけど?」


 隣を歩くメイが、両手を頭の後ろで組みながら呟いた。


 「・・・否定できないね。」



 「“あるある” とは何でしょう?」

 スズネが聞いてきた。


 前世の記憶が鮮明な俺とメイの会話は、スズネの理解力を越えた単語がいくつも出てくる。

 俺は『とにかく何でも聞いてくれ』とお願いしてあった。


 「前世の世界でも似たような事件はあったし、そういう陰謀論や物語も普通に出回ってたよ。」


 「世界は違えど・・・って所ね。」


 「・・・そうなのですね。」


 「ま、騎士団の働きに期待するしかないか。」

 俺がそう結論付けると、メイが(のぞ)き込んできた。


 「しないの? “正義の味方” 」


 何言ってるのかな? この野生児はw


 「おしめが取れて間もない幼児に何をさせるつもりかな?」


 「おしめが取れて間もない幼児は、ダンジョンで無双したりしないよ?」


 「マスクつけても体形で身バレするハンデ背負ってまで王都に向かうつもりはありません。」


 ここは断言しとかないと連れて行かれそうだ。


 「面白いと思うけどな~ 王都の屋根を走り抜ける正体不明の幼児w」


 「しないよ? 何が悲しくて裏世界暗躍せにゃならんのサ。」


 「中身66歳が何か言ってるw」


 「引退していい? もう年金貰えるお年頃なんだけど?」


 「だ~め!まだ何もしてないじゃん。」


 「めざせ “三食昼寝付き” 生活!」


 「坊っちゃん詐欺師に休みなしw」


 「メイがイジメる~」


 「あの・・・年金とは何でしょう?」


 《 そうきたかw》





 物騒な会話をしてるうちにドンビシャスの町に着いた。


 町は今日も賑わっている。



 《 人口増えてないか?》



 俺はメイの案内で、倉庫に向かった。


 「おはようございます。セルア会長。先日はメイがお世話になりました。」


 「おはようございます。グレイ様。てっきりメイさん御一人で来るものと思っておりましたが・・・」


 すまんねw


 「進捗状況が気になりまして。何かアドバイスできればと・・・」


 「ありがたいです。こちらへどうぞ。」


 俺達は急ごしらえの応接室らしい場所へと案内された。


 広い倉庫の片隅に面戸板が立てられ、テーブルと椅子が置かれただけの簡素な作りである。


 「すみません。事務所も借りたかったのですが場所がなく・・・」


 「お気になさらず。」


 小さい商会の新事業の立ち上げなんて、そんなもんだ。


 「で、材料は手に入りましたか?」


 俺は、差し出されたお茶を一口飲むと切り出した。


 目下、最大の懸念事項でもある。


 「難しいですね。ダンジョン周辺の土地開発が進んでるせいもあって、木材が不足気味です。」


 「貴族向けなら石板でもいいと思いますよ。そうそう長旅はしないでしょうし。」


 「それも考えております。意匠を施した石板なら受けも良いのではないかと。」


 俺ならテーブルと ”一体型” を作るがね。

 前世でブームかましたからといって、コッチでもそうだと言えないのがもどかしい。


 ま『捕らぬ狸の皮算用』ってやつだ。


 「いいですね。現状どれくらい確保できそうです?」


 「200台くらいでしょうか。見目のいい女性冒険者に、町のあちこちでデモンストレーションをしてもらう予定です。」


 「それでいいと思います。何か懸念事項はありますか?」


 「やはり真似されることでしょうか。特許商品とは言え廃材があれば誰でも作れますし・・・」


 「仕方ないと思いますよ? ただ、だからと言って手抜きの商品を売らない方がいいですよ? せっかくの売れ筋ですから、」


 「それは心得ております。腕のいい木工職人と契約を交わし、一つ一つの商品を私達で確認していますから。」


 「結構、箱詰めしますか?」


 「箱詰め・・・ですか?」


 案の定、袋に放り込んで売るつもりだったか。

 木工職人さんが泣くぞw


 「色付きの駒は傷が目立つので、箱詰めを考えた方が良いのでは?」


 「そうですね・・・気が付きませんでした。庶民向けに考えてたものですから。」


 「袋詰めと並行して売ってみてはいかがでしょう。袋詰めは少し安くして・・・あと、説明書は付けますか?」


 デモンストレーションだけで終わらせるつもりだったか?


 俺はメイを見た。

 そっぽ向いてやがる・・・


 「説明書?必要ですか?」


 「必要ですよ?ルールは簡単ですが、だからこそ厳格にルールを守るようにしてもらわないと面白味も半減します。ついでに大会予定日も記載してはいかがでしょう?」


 「大会ですか?」


 「そうです。例えばドンビシャスの1位を決める大会です。セルア商会のロゴ入りオセロを入手した人限定とか、セルア会長のサイン入り説明書を持った人のみに参加資格を与えるとか・・・」


 「ほう・・・面白そうですね。」

 セルア会長が少し前のめりになった。


 金の匂いを嗅ぎつけたかなw


 「競争心を煽るやり方ですね。町一番の肩書きが付きますから、優勝賞金は僅かでも優勝者にはトロフィーとか表彰盾とか、ちょっとした記念品とかでもいいんじゃないですか?」


 「・・・そのアイデア頂いても?」


 「もちろんお好きになさってください。僕はお茶を頂きに来ただけですからw」


 俺は言うだけ言うと「あとヨロシク」と席を立った。





 俺はメイを置いて商会を出た。


 ノワールは最近メイの頭の上が気に入ったようで、護衛を頼むと頭の上に駆け上がり、てしてしと前足で叩いている。


 少し羨ましいw


 まあ・・・

 大まかなアイデアを出しておけば、前世知識のあるメイと商魂たくましい商会長が細々と決めていくだろう。


 「お優しいですね。」

 町の様子を見ながらのんびり歩いていると、スズネが話しかけてきた。


 「そう?」


 「はい。見返りは求めないのですか?」


 「捨て子で野党に襲われて、王宮で監禁される人生なんで笑えないからね。」


 「似たような子は沢山いますが・・・」


 「それは政治の仕事だよ。僕は僕の出来ることしか出来ないよ。」


 「坊ちゃまが陞爵(しょうしゃく)していただければ・・・と思うのは間違っていますか?」


 「『勇者』だからね。いずれは『魔族』からも狙われるかもね。極力他人を巻き込まないように『力』を身に付ける方が先決だよ。」


 (・・・おいたわしい・・・)


 小さな体の後を追いながら、スズネは涙を堪えるしかなかった。





 昼食後


 父、サルカス兄、スズネと共に、水車小屋の実験機の視察に出た。


 「メイはまた出てるいのか?」


 「すみません父上。セルア商会を盛り立たてるために、メイを貸しています。」


 「大丈夫なのか?」


 「頭いい娘ですよ?メイは。」


 「・・・そうか・・・」

 父はそれ以上追及しなかった。


 「あまり甘やかすなよ。お前は妙に優しいからな。」


 「はい。サルカス兄様。肝に銘じておきます。」


 老後の資金は貯めさせるがねw


 「今日は実験機の初稼働の日だ。報告によれば、川の水量によって水車の回転率が変わるらしい。今後の課題でもあるな。」

 父は手にした書類を見ながらそう言った。


 本来なら俺やスズネの前で聞かせるべき話題ではないのだろうが、発案&設計は俺だし、スズネは ”鬼の傍付きメイド” だ。


 信頼されてるねスズネさんw



 「サルカス兄様。分岐の小川は出来てますか?」


 「ああ、大工連中に相談したら、大喜びで掘ってたぞ。」


 「? どういう事だ?」

 父は初耳らしい。


 「グレイのアイデアで、水量を一定に保つようにしてみたのです。」


 「ほう。楽しみだな。」


 《 わざわざ俺の名を出さなくてもいいのに・・・嬉し泣くぞw》





 現地に到着し、馬車から下りると “むくつけき漢ども” が勢揃いしていた。


 《 おわぁ・・・俺一人なら秒で帰るわ・・・》


 そう思わせるような迫力と威圧感がある。


 「領主様。よくぞお出で下さいました。」


 先頭の髭面が恭しく頭を下げる。

 後ろに控えていた男達も一斉に倣った。


 たぶんこの人が親方だろう。


 「うむ。」

 父の威圧も負けてない。


 《 兄貴は こんな連中に混ざってたんだ・・・すげぇなw》


 「小屋はあちらになります。どうぞ。」

 親方が手を差し伸べた。


 その先に想像より小さめの水車小屋が見える。


 「川の本流とは離れているようだが?」


 「へい。サルカス坊ちゃんのご提案により川の上流に(せき)を作り、水量を一定に保つようにしています。」


 「・・・ほう・・・」


 サルカス兄は補足するように口を開いた。

 「堰といっても全てを止めるようなことはしていません。川下には農地もありますから。半分程度だけ水車に回し、動力に利用した水は川の本流に戻すようにしています。」


 「なるほどな。」


 「こちらへ・・・小屋の中へご案内します。」


 俺達は案内されるまま中へと足を運んだ。


 見事なものだった。

 ほぼ俺が図面で描いた通りの構造であり、しかも細々とした修正が施してある。


 《 ちゃんと摩擦係数が軽減された構造になってやんの。現場で大分苦労したね~。こりゃ見る価値あるワ。》


 「ごらんのとおりです。では実際に動かしてみます。オイ!」

 親方の合図で、ガコンっと軸が回り始めた。


 おお!


 軸に取り付けられた大きな歯車が回り、連なる一回り小さな歯車が逆回転する。


 その先の大きな風車が回り始め、風が小屋の中を旋回し始めた。


「この風はあの通気口で上下に分けられ、『ビート』の水分を飛ばす風と、木炭の火を絶やさない(ふいご)の風になります。」


 「うむ。あそこの歯車は何処に繋がっている?」

 父が部屋の奥で回転する歯車に目を向けた。


 「隣の部屋で石臼(いしうす)を回しています。」


 「ほう。」


 親方は隣の小さな部屋のドアを開けた。


 「後付けで作ったのですが、水車の動力が強いので『ビート』を乾かすだけでは勿体ないと石臼(いしうす)が回るように細工をしてみました。こちらもサルカス坊ちゃんのご提案です。」


 《 こりゃ魂消(たまげ)た! コッチにも石臼(いしうす)あったのか!?完全に見縊(みくび)ってたわ!》


 俺の記憶とは、だいぶ形態が異なるが確かに石臼だ。


 「コレにも風を当ててるんですね?」

 俺は通気口から送られてくる風を手の平で確認しながら聞いた。


 「へい。よく気が付かれましたね。最初は砕いた『ビート』の塊を手っ取り早く粉末にするために設置してみたんですがね。どうやらずっと回転させると石臼が熱を持って、せっかく乾かした『ビート』が溶けてくっ付いてしまうようで・・・アレコレ考えて、通気口を伸ばしたんでさぁ。そしたらコレが上手くいったようで・・・」


 創意工夫の勝利だな。

 さすが職人!


 親方は嬉しそうだ。



 「うむ。見事だ。」


 父の言葉にサルカス兄が再び口を開いた。

 「いま、近くの寄り合い所で『ビート泥』を作っています。実際にこの実験機を使って『ビート粉末』を作り、屋敷に届けさせます。」


 「解った。皆ご苦労だった。ささやかだが後で酒を送らせる。楽しんでくれ。」

 父の一声で漢達が湧きたった。


 心得てるね~w




 「父上 これでノルグナー・エイトラディス公爵閣下に顔向けできますね。」

 俺は帰りの馬車の中で、ワザと公爵の名を出してみた。


 「うむ。まだ早い気もするがな。」

 父も俺の意図に気付いたようだ。


 「待てグレイ。なぜそこでエイトラディス公爵閣下の名が出てくる。」

 お? 兄は初耳?


 「あれ? 聞いてませんでした? ノルグナー公爵閣下は水車小屋に興味を持たれておいでで『特許料払うから完成したら、我が領にも欲しい』とおっしゃってましたよ?」

 じゃじゃ~ん! どっきりw


 「・・・は?・・・」

 兄フリーズw 初めて見たww


 「良かったですね兄様。公爵閣下に自慢できますよw」

 ニッコリにこチャン。悪魔の笑顔www


 「ま・・・まてまてまて! 父上! どういう事ですか!?」

 おお! 再起動はやw

  わっかいね~ww


 「どうもこうもない。グレイが設計し、お前が組み立てた。事実を報告しただけだ。」

 父ニヒルw

 楽しんでるねww



 それからしばらく、ワタワタする兄を揶揄(からか)いながら、馬車に揺られた。





 「風車小屋も作ってみても良いかもしれなせんね。」

 一通り弄ったあと、俺は以前から考えていた事を口にしてみた。


 「風車小屋?」

 サルカス兄が興味を持ったようだ。

 少し疲れた?


 「近くに川のない場所で、年中風が吹いている村があると聞きました。そこでは川の流れの代わりに、風の力を動力に使っているようです。」


 「・・・ほう・・・」

 父も興味ある?


 「サルカス兄様。設計してみます? 考えるだけならタダですよ?」

 俺は少しだけ挑発的に聞いてみた。


 「生意気な口を利くな! だが面白い。やってやろうじゃないか。」


 「兄様さすがです。」

 俺は父を見た。口元が弛んでる。


 せっかく学園入学を引き伸ばしたんだ。

 ここは一つ、がっちり手柄を立ててもらっても誰も文句は言うまい。



次回更新 3月24日予定です

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