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17 般若の笑顔と奴隷

花咲く笑顔のスズネさんが ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル


 俺の名はグレイ・アストラス。

 三年ほど前にアストラス子爵家に次男として生まれた。

 貴族の子である。


 もちろん爵位(しゃくい)はないが子爵家が有する屋敷で生まれ、両親や兄姉の他、執事やメイドに囲まれるという恵まれた環境で生活をさせてもらっている。


 そして俺の隣に立つ父:ホウレイ・アストラス子爵は王家よりアストラス領を賜る領主であり、領内における最高権力者であるのだ・・・が・・・



 今、父と俺は王都の別邸の前で固まっていた。



 教会での “事件?” から、屋敷に戻ることなく王宮別邸に軟禁されること6日間。


 国王陛下の面談後、軟禁状態が解除された俺達は、ついでとばかりにダンジョンの進捗の報告や、ダンジョンにあった『謎の碑文?』の解読法を追求されたり、特許申請前の水車の実験器の申請などという意味不明な書類を作成させられていたのだ。



 そうやって、ようやく“上げ(ぜん)()(ぜん)” の生活から解放された俺達は、逃げるように帰ってきた。

 

 しかし・・・


 その玄関前で姿勢よく待ち構えるメイドの姿に戦慄を憶えていた。


 時間は、まだ昼前。


 下級貴族である子爵の、本邸より遥かに狭い王都別邸は、領主が不在時は管理を任せている老夫婦が午前中に一通りの掃除や支度を済ませることができ、午後は自由に過ごしてよいことになっている。


 「え~ ただいま? スズネ?」

 先触れもなく帰ってきたので、誰も知らないはずだが・・・

 俺は恐る恐る声を掛けた。


 「おかえりなさいませ。」

 これまた姿勢よく頭を下げたメイドが、俺達を見てニッコリ微笑んだ。

 「お待ちしておりました。」


 あ・・・これアカンやつや・・・




 「あー・・・ゴホン!出迎えご苦労。変わりなかったか?」

 領主である父が、何とか取り持っている。


 《 声上ずってません?》


 「はい。問題ありません。六日前の “地揺れ” から、ここ数日ほど王都が少々ごたついていたようですが、お屋敷が直接被害を被ることも無く、至って平穏無事でございました。」


 《 何か背筋がゾワゾワするんですが?》


 「そうか、無事で何よりだ・・・ごほん!・・・グレイよ・・・」

 父は、そう言うと俺の肩を軽く叩いた。


 「?・・・はい?」


 「外出を許可する・・・生きて帰って来い。」

 父はそう言い残すと、そそくさと別邸に入っていった。


 《・・・・・・はい?》


 「・・・坊ちゃま・・・」

 いつの間にか、俺の間合いに入って来ていたスズネが、優しく俺の顔を両手で包んだ。


 《 近い近い近い!》


 「おかわいそうに・・・こんなに(ふく)よかになられて、お辛かったでしょうに・・・」


 「ソ・・・ソンナコトハナイヨ。」

 こんな場所で、某漫画のセリフを口にする羽目になるとは・・・


 「外出の許可は得ています。参りましょう。」

 そう言うとスズネは俺の手をしっかりと握った。


 「え~と、何となく分かるけど・・・どこへ行くのか聞いていい?」

 メイドの答えは早かった。

 「もちろん冒険者ギルドです♡」


 ♪天使のよ~な~ 般若のえ~がお~♪


 《 あコリャ死んだな・・・》

 《 父上のウラギリモノ&ゴメンナサイ。》

 《 ご期待に沿()えないかもしれません・・・》


 花咲く笑顔のメイドに引きずられるように歩く俺は、(さい)の河原の向こう岸に連行される気分を味わうことになった。







 翌朝

 昨日に引き続き、朝からギルドでシバかれた俺は、帰ってくるなり父に呼び出された。


 「・・・登城する。グレイ。お前もだ・・・」


 《 うおう! スズネ!?殺気抑えて!》


 「旦那様。僭越(せんえつ)ながら坊ちゃまはまだ万全な状態ではありません。(そば)付きメイドとしては、賛成いたしかねます。」


 「分かっておる・・・だが、今回は『面会』をするだけらしい。滞在はなしだ。」


 《 父上ドッキドキだな。》

 《 俺もドッキドキだよ。》


 「・・・畏まりました。準備いたします。」

 静かに退室したメイドを見守った父が、大きく深呼吸しながら苦笑した。


 「愛されておるな・・・グレイ・・・」

 「・・・どちらかというと、お気に入りの玩具(おもちゃ)を取り上げられた子供のように感じますが?」

 「ふっ・・・子供のお前が言うセリフではないな。」


 「今回は『面会』ということですが、誰ですか?」

 「分からん。登城して面会しろとだけ言われておる。会えば分かるともな・・・」

 「不安要素しかないですね。寝込んで良いですか?」

 「笑えん冗談だ・・・」






 正装した俺達が登城して、案内された先は。ノルグナー公爵の執務室だった。

 そこには執務に追われるノルグナー公爵の他に、サルムンド侯爵が茶を啜っていたのだが・・・


 《 サルムンド侯爵?》

 《 フル装備で戦争にでも行くのかね?》


 「ホウレイ・アストラスと息子グレイ。参上仕(つかまつ)りました。」

 「少々お待ちください。」

 ノルグナー公爵は、ちらりと視線を向けると短くそう言った。


 《 お忙しそうで何よりw》


 「来たかホウレイ。まあ、ソコに座れ。簡単に説明する。」

 サルムンド侯爵は、まるで我が家のように振舞っているが・・・


 《 ここノルグナー公爵の仕事場じゃね?》


 座った俺達に紅茶が出され、俺たち以外の全ての人員が退出すると、サルムンド侯爵がゆっくりと口を開いた。


 「いま、地下牢に『勇者』が()る。ソレと面会して欲しい。」

 「地下牢に?それはまたどうして・・・」

 「少々、素行不良な所があってな、脱走した挙句、捕獲(ほかく)に向かった兵士数人を瀕死(ひんし)に追い込んだ。」

 「なんと・・・」


 「運よく生け捕りにできたが、あまり粗末に扱うと敵対することになるやもしれん。そうなると本末転倒だ。」

 「・・・で、グレイと面会させて友好関係を築けと・・・」

 「そういうことだ。」



 《 友好関係・・・ねぇ・・・》

 《 地下牢に幽閉されてる時点で、絶望的な未来しか見えないんだが・・・》



 「どうだグレイ。頼めるか?」

 「友好関係を築けるかどうかは分かりませんが、同じ『勇者』なら会ってみたいと思います。」

 「そうか。ノルグナー閣下、宜しいか?」


 忙しく執筆を続けていたノルグナー公爵が、ようやく顔を上げた。

 「解りました。ご案内しましょう。」




 執務室を出た俺達は、ノルグナー公爵の案内で地下牢に向かうことになった。

 「ところでサルムンド侯爵閣下。その装備は?」

 「これか?先の脱走騒ぎで捕獲(ほかく)に向かった兵士の中には、将来を有望視された中隊長が混じっておってな。儂ほどではないにしろ、それなりの剣の腕を持っておった。」


 「その有望株を倒したと?」

 「素手でな・・・」


 Whew!『勇者』すげぇ!


 《 あ、俺も『勇者』か・・・》



 それっきり、特に話すことも無く黙々と歩いた。





 地下牢は清潔に保たれていた。

 四方を囲む壁と鉄格子は無骨そのものだったが、ベッドのシーツは白く綺麗に保たれ、変な臭いもしていない。

 空になった食器を見る限り、腐ったパンやクズ野菜を放り込んだだけのスープ等ということはなさそうだ。

 地下牢に入るのは初めてだが、高待遇と言えるのではないか?


 両腕に嵌められたゴツイ手錠が無ければだが・・・




 平民服を着せられた少女が、部屋の隅で体育座りをしていた。

 薄茶色の髪は短く、(くし)は通してなさそうだ。

 ライトブルーの瞳は鋭く、野生の猫と思わせた。

 目鼻立ちは整っているので、装えば美少女に変わるかもしれない。



 メイ;女性:5歳

 レベル:20

 HP:272

 MP:333

 STR:884

 DEX:73

 INT:964

 SPD/AGI:1077


 その他

 スキル;剣術、体術、気配察知、生活魔法、風魔法、異言語理解、耐毒性

 特殊スキル;なし

 称号;転生者 勇者



 《 んまあ!》

 《 いましたよ!同業(転生)者さん。》

 《 しかも前衛特化型ときたもんだ!》


 MPも低くない。

 SPD/AGIが異様に高いのは、スピードを生かした短期決戦タイプか?


 《 その気になれば万能型も目指せそう・・・》

 《 てか、5歳でレベル20って・・・高くネ?》


 「・・・なんだ?・・・お前ら・・・」

 部屋の隅にうずくまる『勇者』の子が、低く声を出した。


 「おはようございます。メイ。あなたに面会です。」

 ノルグナー公爵の冷たい声が、地下牢に響いた。


 「は・・・面会だと?・・・何の冗談だ・・・」


 《 うん。テンプレだね~ 無理もないけど・・・》


 「初めまして。僕はグレイ。グレイ・アストラスと言います。貴方のお名前を聞いてもいいですか?」

 「・・・ふん!」

 「!きさま!!」

 サルムンド侯爵がいきり立つが、無視して、ノルグナー公爵に顔を向けた。

 ここで名を出す悪手だと思ったからだ。


 「この子の名と経緯と教えていただけますか?」


 ノルグナー公爵も俺の意を汲んだようだ。

 「名はメイ。5歳。スラム街で見つけましたが、どうやら王都の外から来たようです。生まれた場所は特定できませんでしたが、見つけた時点でかなり高い戦闘力を有していたようです。未確認ですが、近隣の森でアルケニーが討伐され、これとよく似た特徴の子供が、その近くで魔物の足を焼いて食べていたとの情報があります。」


 《 うん。野生児だね。》

 《 そうとう過酷な環境を生き抜いて来たんだろうな。》


 5歳でレベル20も頷けるかもしれない。

 俺は部屋の隅から凝視し続ける女の子に向かって言った。


 「メイさん。王宮は君を逃がすつもりはないらしい。君は『保護される環境』から脱走し、兵士を傷付けたようだしね。今後の君の処遇は『打ち首』か『飼い殺し』か『犯罪奴隷』になると思うけどけど、どれにする?」


 《 おほ~~! すんげ~殺気!!》


 「皆さん落ち着いて下さい。僕は今メイさんと話してるんです。」


 《 心臓バックバクだけどな!》


 「僕のオススメは『奴隷』ですね。少なくともココから出られるし、場合によっては『自由』を手に入れることができるかもしれません。」


 「・・・犯罪奴隷に自由がないことぐらい、知っている・・・」


 《 お!(みゃく)あり♪》


 「普通はですね。ですが『恩赦(おんしゃ)』を期待することはできますよ?僕も『勇者』ですし・・・」


 《 (みゃく)アリアリ~》


 「この子、僕の “奴隷” にしてもいいですか?」

 俺の申し出にノルグナー公爵は躊躇(ちゅうちょ)なく頷いた。

 「さっそく手続きを済ませましょう。」


 《 公爵、読んでたな・・・》


 「父上、すみません。勝手に決めてしまいました。ご容赦ください。」

 「・・・構わぬ。」




 手続きはすんなり終り、メイの襟足(えりあし)に奴隷の刻印が刻まれた。

 「この魔法刻印は、特殊な儀礼でない限り消えることはありません。また、主の命に背けば容赦ない激痛に襲われますし、主が死ねば、あなたも殉死します。お忘れなきように・・・」

 ノルグナー公爵の説明は簡単明瞭だった。





 俺達はメイを連れ立って別邸に戻った。



 「おかえりなさいませ。・・・その子は?」

 スズネが首を(かし)げた。

 「うん。説明するけど、お茶入れてくれない?父上、これからのことについて、相談があります。」

 「・・・わかった。応接室でいいか?」

 「ありがとうございます。メイもおいで?」


 応接室で一息ついた俺は、スズネに今日の出来事を簡単に説明した。


「・・・ということで、メイは僕の奴隷になったよ。ところで父上、僕達はしばらく王宮の監視対象になると思いますが、いかがでしょう?」


 「・・・だろうな・・・成り行きとはいえ下級貴族が二人も『勇者』を抱え込むからな、当然だろう。」


 「どうせなら、コソコソせずに、堂々と見張ってもらった方がやり易いんですが、ノルグナー公爵かサルムンド侯爵に進言できませんか? ついでにパーティ組んでダンジョン攻略というのも僕としては(やぶさ)かではありませんが?」


 「・・・まだ早いのではないか?」


 「ダンジョンの浅層限定です。メイは強いですよ?父の御許可があれば、スズネも連れて行きたいですし、監視者もそれなりに戦闘くらいは出来るでしょう。」

 「王宮の監視者もお前の護衛にするのか・・・大胆だな。」


 「こういう時くらい『勇者』の称号に役立ってもらわないと、宝の持ち腐れと言われてしまいます。」

 「!・・・そうだな・・・サルムンド侯爵にお願いしてみよう。」


 「ありがとうございます。・・・ということでスズネ。明日の訓練はメイも参加するよ。実力を見て訓練メニューを見直してくれる?」

 「畏まりました。」

 「んで、メイは当分の間、見習いメイドとして、スズネに仕事を教えてもらってね?」

 「見習いメイド・・・わかった。」


 《 素直だね~ メイド喫茶経験者かな?》





 翌朝。

 「・・・バケモノかキサマ・・・」

 「いえ?メイドですが、何か?」


 当然のように、ニッコニコなスズネさんにシバかれ(まく)ったメイは、俺同様、ギルドの訓練場でノビていた。


 古着屋で買ったメイド服が汗と土塗れだ。

 当初「こんな格好で戦うのか!?」と拒絶反応を起こしていたが、襲い来る敵は着替えを待っちゃくれないってことで、着の身着のまま訓練することになったんだが・・・


 洗練された足さばきで華麗に避け、正確な打撃を見舞う『くノ一』と、おそらくは “今日を生き抜く” ことに全振りした野性味溢れる身体能力と、王宮で仕込まれたであろう荒々しい剣技は十分に見応えがあった。



 大小美少女メイドの戦闘訓練で外野も大騒ぎだ。


 「メイ、身体が冷えないうちに()()()()()しとけよ?」

 荒い息とともに大の字に寝そべるメイが、ぎょっとした目で俺を見た。


 「後で話があるからさ。」

 にっこりちゃんのキューティスマイル。


「坊ちゃま、()()()()()とは何ですか?」

「身体の節々の筋や筋肉を伸ばしたりするのさ。怪我や捻挫の防止になるって。」

「なるほど、参考になります。」

「もう一本いけそう?」

「勿論です♡」


 レベルは上がってないが、少し疲れにくくなったようだ。

 俺はさっきの メイVS スズネ 戦を思い浮かべながら、無謀な戦いに挑んだ。





 気が付いたらスズネさんの膝枕でした。

 イイ感じで体力が尽きたらしい。

 腹の虫が盆踊りを開催していた。


 《・・・(うれ)し恥ずい・・・》


 「串焼き買ってきた。」

 メイが足を軽く引き摺りながら。人数分の串焼きを持って来た。


 《 (くじ)いたのかね?》


 「スズネ。ありがとう。」

 起き上がって、謎肉を頬張る。

 タレが良く浸み込んでいる。

 空腹時は、肉の正体が何であっても旨いもんだ。


 「・・・毎日こんな訓練してるのか?」

 メイも一緒になって肉を頬張りながら聞いてきた。

 「時間の許す限りね。しばらくできなかったけど。」


 《 お陰で現在進行形でヒドい目にあってます・・・》


 「ダンジョン踏破の為か?」

 「当面の目標はそうだね。」

 「他に目的があるのか?」


 《 その言葉遣い・・・ムリなくね?》


 「まあね。できればメイにも参加して欲しいけど?」

 「私も?・・・何のために?」

 「レベルが上がれば解かるんじゃないかな?ま、当面はダンジョン攻略だね。」

 「・・・ふーん・・・」


 「メイ。貴方はもはや『メイド見習い』です。まずはその言葉遣いを直していきましょう。」


 《 “本場のメイドさん”からのアドバイスだよんw》


 「おっと・・・失礼いたしました。スズネ先輩。以後気を付けますので、どうぞお許しください。」

 「ははは。やっぱり経験者か。」


 《 “なんちゃってメイド”爆誕w》


 「お判りになりましたか?グレイ坊ちゃま。」

 「『メイド見習い』に対して抵抗感がないように見えたからね。」

 「御高察。感服仕(つかまつ)りました。」

 「やりすぎ。」

 「てへぺろ♡」


 《 渋〇界隈でブイブイいわせてた人かな?》


 「?・・・どういうことでしょう?」


 《 おっと、気にせんでエエよ? キミが本職なんだからw》


 「僕達には共通点があるんだ。内緒だけどね。その辺も含めて話し合った方がいいかな?もしかしたらこの街に居る “草” にも協力してもらうことになるかもしれないし?」

 「ご存じでしたか・・・」

 「一人で出来ることって限られてくるからね、そう考えるのが普通でしょ?」


 楽し気に俺をシバくメイドが、6日間も屋敷に待機するって考える方が難しいよ?

 暴動一歩手前の王都なら尚更ね・・・

 少なくとも近くに “仲間” がいて “情報” を共有してたんじゃないかね?


 「恐れ入りました。」

 スズネを素直に頭を下げた。


 《 串焼き咥えたまま? 腹話術かな?》


 「いいの?話して・・・」


 《 心配か? ここは表面上でも仲間が欲しいからねぇ。》


 「相手が相手(王宮)だしね。できる手は打っておかないと。」



なんちゃって見習いメイド 爆誕w

次回3月4日更新予定です。

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