16 予想外の大物と面談
権力者こあいよ~w
翌日、早朝。
サルムンド侯爵が部屋に訪れた。
起立し、一礼する俺達を手で制し、どっかと腰掛ける。
「待たせてすまんな。一時的とは言え教会を封鎖したもんで、危うく暴動が起きるところだったのよ。」
「暴動ですか!?」
「なに、もう大分落ち着いとる。教会幹部らの不正を片端から晒して吊るし上げとるでな。権威も信用も地の底よ。しばらくは騒ぎが続くだろうが、それも止む無し。」
公爵は出された紅茶を、ぐいと一飲みすると席を立った。
「さて、行くぞ。」
「どちらへ?」
「黙って着いてまいれ。」
大股で部屋を出る。
俺達は慌てて、後を追った。
しばし歩いたのち、大きな扉の前で立ち止まった。
「ここは応接室だ。これから国王陛下との面談がある。非公式な面談ゆえ堅苦しい礼式などは気にしなくてもよい。中に入れ。」
応接室は豪華だった。
どこぞの大聖堂のような嫌味はなく、厳選された家具はどっしりと重厚感がある。
壁の色合いも落ち着いたもので、国王陛下と王妃の肖像画が掛けられていた。
職人が拘り抜いたフッカフカの椅子。
持って帰りたいw
「ここで待て。」
サルムンド侯爵は短く言うと素早く部屋を出た。
出された甘々な茶菓子と紅茶を頂くことしばし・・・
扉が開け放たれ、国王陛下が細身の男性とサルムンド侯爵を引き連れて入ってきた。
「よい。」
跪こうとする父と俺を手で制し、席に座る。
両脇には細身の男性と、サルムンド侯爵が立った。
「座れ。非公式ゆえ、楽にせよ。」
「は!」
「さて、ホウレイ・アストラス子爵と、その子グレイだったな。そなたらには、まず謝らねばならぬ。この度は迷惑を掛けた。すまぬ。」
そういうと、国王は頭を下げた。
「こ!ここ、国王陛下!?頭をお上げください!私には何のことやらさっぱり?」
慌てふためく父に、国王は顔を上げてニヒルに微笑んだ。
「そうだな。順序立てて説明した方が良いか。ノルグナー。」
細身の男が頷いて前に出た。
「はい、初めまして。私は国王陛下より宰相の責を拝するノルグナー・エイトラディスと申します。以後お見知りおきを。」
「エイトラディス公爵閣下・・・」
「非公式の場なのでお気軽に・・・さて、今回の面談ですが、いくつかお聞きしたいことがあります。まず教会での出来事についてですが、天使様の命により教会を即時封鎖。活動の制限を設けました。しかしそれを良しとせぬ輩が騒ぎ初めまして、一部暴徒と化したのです。」
「侯爵閣下からお聞きしました。暴動寸前だったと・・・」
「そうですね。ですがトップが消息不明になったため指揮系統が統一されず、暴徒の先導者もあっさりと見つかりました。現在、証拠隠滅を防ぐため内務調査班を組み、徹底調査を行っています。寄付金の横領。情報漏洩。誘拐。暗殺。人身売買。高利貸しにいたるまで、証拠の書類が山とでてきましたよ。」
《 楽しそうだな公爵。》
《 よっぽど思う所があったんかね?》
眺めていると、ふとノルグナー公爵が真面目に俺を見た。
「・・・グレイ君。ブラフェアス・オクリヌスは何処へ消えたと思いますか?」
《 ブラフェアス・オクリヌス?・・・誰?》
俺が首を捻ってると宰相が苦笑しながら付け加えた。
「教皇です。目の前に居た・・・」
「あ! 2号さ・・・んん!教皇様ですか・・・え~と、ソリアン様が『どんなクズでも殺す訳にはいかない』とおっしゃってたので・・・おそらく・・・」
「?・・・おそらく?」
「『地位』や『権力』は幻想にすぎないと思い知らされる場所に送られたのではないかと・・・例えば “魔物の森” の中心・・・とか?」
一瞬、目を見開いた宰相の口角が、嬉しそうに歪んだ。
「ほうほう・・・それは僥倖と言えますね。ちなみにグレイ君。先ほど言いかけた『ニゴウサ』とは何ですか?」
《 あっちゃ~! 耳聡いね~・・・》
俺は父の横顔を覗き込んだ。
父は真剣に頷いて見せる。
「え~と『ニゴウサ』ではなく “2号“ さんです。『”オーク“ じゃない人』を見たのは教皇様で二人目なので・・・」
《 あっれ~~~? 皆、震えてる?》
《 ウケたんかね?》
《 大声で笑ったらスッキリするよ?》
「こ・・・これは、失礼しました・・・くく・・・そうですか・・・」
《 ダイジョブ?》
「・・・すまんなグレイ。斜め上の回答だったんでな、虚を突かれてしまった。」
《 国王さんもタイヘンダ♪》
無言の笑いが落ち着くまで、俺は紅茶を啜るしかなかった。
「・・・こほん・・・大変失礼しました。ブラフェアス・オクリヌスについてはコチラで捜索いたしますが、生存の望みは薄い・・・でしょうね。」
「そうだな。彼奴等は聖職者という立場にあるにも関わらず、王宮の政策決定にも口出してきよったからな。二言目には “神“ が ”教え“ がと・・・何度『煮え湯』を飲まされたことか・・・」
《 ありゃま!》
《 ”神” や ”教え” のバーゲンセールだったんね?》
《 そりゃ傍迷惑なお話で・・・》
「そうですね。いずれシッポを捕まえて口出しできぬように “策” を巡らせていたのですが、逆に天使様に御迷惑をお掛けする羽目になりました。私からも謝罪を申し上げます。」
《 いや、俺に謝られてもな~》
《 父、まだ笑ってる?》
「では、次の質問ですが、『ビート』についてです。
《 お! 父フリーズした・・・ってか、『かん口令』引いてなかったか?》
《 こっわ!》
《 権力こっわ!!》
「『ビート』についてはアストラス家の製法に則り、再現させて頂きました。よくできた甘味だと周囲の者も驚いていましたね。」
《 OH!》
《 なんてこった!!》
《 ダダ漏れじゃん!!!》
「で?ホウレイ子爵。この先『ビート』をどうなさるおつもりで?」
「・・・特許を申請し。製法を他領へも広めようかと・・・」
「それがいいでしょう。独占は諍いしか生みませんしね。あわせて水車小屋の建設もなさっているとか?これもお聞きしても?」
《 うあ~ん!》
《 こあいよ~~ん!!》
《 この人達笑顔で『独り占めは良くないよ♡』って言ってるよ~~~!!!》
《 ハートマークがこあいよ~~~~!!!!》
《 おまわりさ~~~~~ん!!!!!》
「水車小屋に関しては、息子が答えるが宜しいかと存じます。」
《 あ!》
《 父投げた。》
「グレイ君。水車小屋の設計は君が?」
「その質問にお答えする前に、父上?水車小屋も特許申請する予定ですか?」
「・・・お前次第だがな・・・」
「解りました。ノルグナー公爵閣下。水車小屋の設計は僕がしました。」
「ほう。その発想は何処から?」
「書庫にある絵と庭師から説明を受けました。」
「たったそれだけで設計したと?」
「まあ・・・そうです・・・」
「・・・いいでしょう。深くは追及しません。で、何のために水車小屋を建てようと思ったのですか?」
「『ビート』を商品化するためには結晶化が必要だと気付いたからです。」
「ほう。で?」
「『ビート』はそのままでも売れないことはないでしょうが、水分が多く、カビが生えるなどして長持ちしないでしょう。で、その水分を可能な限り取り除いた『ビート粉末』なら『砂糖』と同様、長期保存にも耐えられます。そのためには “風” と “熱” が必要だと分かりました。しかし・・・」
「しかし?」
「当時の僕は魔法が使えませんでしたし、市井の者の多くもそうなので、魔法を使わない方法で『ビート』を乾かして粉にする方法を模索しました。それが水車の回転を応用した水車小屋です。」
「なるほど、『ビート』を生産させ、魔法に頼ることなく『ビート粉末』を作らせる。素晴らしい発想です。」
「しかしながら公爵閣下、僕が今まで説明したのは “机上の空論”に他なりません。」
「と。おっしゃいますと?」
「現在は僕の手を離れて、兄が中心になって水車の実験小屋を制作しています。成功すれば、より効率的な水車小屋ができるでしょう。」
「それは『手柄』を兄に譲る、ということですか?」
「違います。兄は優秀です。僕の “机上の空論” を一度の説明で理解し、さらに現場の職人さんと議論を交わし、より実用的な水車小屋を作ろうとしています。ですので実際に作られる水車小屋は僕が思い描いたモノとはかけ離れているかもしれないということです。」
「なるほど。そういうことですね。分かりました。では君の “机上の空論” をお聞かせ願えますか?」
俺は水車小屋の概要を語った。
少々、熱くなってしまったのはノルグナー公爵の質問が鋭かったためか。
「うむ。じつに興味深いですね。私も作ってみたくなりました。」
「おそらく失敗しますよ?」
「ほう?それは何故?」
「現場の声がないからです。職人は弟子入りの時から失敗を重ねて一人前になるそうです。兄もベテランの職人さんも初めての試みですから、失敗に失敗を重ね、試行錯誤を繰り返す覚悟のはずです。より効率よく水車小屋を作りたいのなら、完成品を真似ることをお勧めします。あ、特許料は支払ってくださいね。僕のお小遣いにもなりますので。」
「っくく・・・ははは・・・解りました。完成を心待ちにしましょう。期待してますよ?」
「兄も喜びます。」
ここでようやく、国王が口を開いた。
「良い議論であった。ちなみにホウレイ子爵。『ビート』を鑑定したことはあったか?」
「いえ。商品化が目的であったので・・・」
「そうか。王宮の鑑定士に調べさせたところ『甘味』のほかに『疲労回復』や『美容効果』もあるとのことだ。王妃がこの情報に飛び付いておったわ。」
「なんと!」
「検証はまだ済んでおらんがな。商品化した暁には・・・解っておるな。」
「はは!極上の『ビート粉末』を献上させていただきます!」
「うむ。そうなれば “茶会”にも呼ばれるやもしれんな。勿論 “社交界” へも。」
《 おっとぅ~?》
《 となると、母上の軟禁解除の可能性が~?》
《 王宮がバックに付くよ~ンのお知らせ~?》
《 タ~ナボ~タや~ん♪》
「さて、時間も押し迫ってきたが、最後にもう一つ聞きたい。サルムンド。」
「は・・・グレイよ。お主が倒した魔族の首を魔法省に持って行って検証してみた。結果、魔導士が三人掛かりで、魔力枯渇するまで “ヒール” を掛けたが変化なく、四人目でようやく、ひび割れしよった。何故じゃ?」
《 あ~ そうきたか・・・》
「実際に立ち会ったワケではないので断言できませんが、おそらく死後の時間経過による “瘴気” の減少と、僕自身の “魔力密度” の違いによるものだと推測できます。」
「“魔力密度” ?聞きなれぬ言葉だが?」
「“密度” とは、言い換えれば “濃さ” 。つまり僕の魔力は人より濃いそうです。」
「濃い魔力か・・・それは誰から聞いた。」
「“サラフィナ神”様です。」
「直接聞いたのか!?」
「はい。“魔力密度” が人より高いと言われました。」
「・・・では、どうすればその “魔力密度“ を高めることができるか解るか?」
「“魔力循環” が良いと思われます。」
「“魔力循環” ? 基本訓練だな。」
《 詐欺師発動~》
《 小周天法ぶっちゃけてもいいんじゃがね。》
《 魔素の概念からだと説明長くなるし、勝手にやらかして魔力暴走なんて洒落んならんし・・・なにより引き留められそうだしね~》
《 さっさと帰りたいんじゃよ!アタシャ!!》
「侯爵閣下は、僕の初級魔法の威力が尋常ではないことはご存じのはずです。」
「うむ。」
「魔力の流れは川の流れに例えることができます。つまり小さい川だと周囲に与える影響も小さく、大きな川だと影響も大きい。」
「それで?」
「魔力循環の訓練は、人体に宿る魔力を目覚めさせるだけでなく、魔力の流れをスムーズにし、魔法効率を上げることができます。これは小さい川を大きくする作業に似ています。また剣の修行も同じではないでしょうか?基本ができてない剣士が “型“ を演じてもヘタな踊りにしか見えないでしょうし・・・」
「む!・・・がははは!基本が大事か!屁理屈捏ねるしか能のない魔法省の連中に聞かせてやりたい言葉じゃ!合点がいったわい!」
国王が大きく頷いた。
「三歳ながら幅広い知識と、弛まぬ研鑽。そして実行力。何か褒美をやらねばならんな。」
「上級魔導書下さい!」
「ふふ。やはりそう来るかよ。アストラス家を陞爵させるという手もあるが?」
国王の言葉に。父が反応した。
「国王陛下それはご勘弁いただきたく・・・」
「ほう?どうして?」
「グレイはアストラスの名を捨てるつもりですので・・・」
「アストラスの名を捨てるだと!?どういうことじゃ!?」
サルムンド侯爵の声が響く。
「兄弟間の話し合いにより、アストラス家は長男のサルカスが引き継ぐことになっております。」
「跡目争いをせずに、家を出ていくということか」
国王の声は、あくまで静かだった。
「左様です。」
「グレイ。それで良いのか?」
「はい。僕は冒険者になるつもりです。」
俺の単純明快な答えに、サルムンド侯爵が激高した。
「ええい!なに世迷言を!これほどの才能を世に埋もれさせるつもりか!?グレイ!儂の子になれ!ヨーデル王国の英雄と呼ばれる儂の子であれば、たとえ養子といえど誰にも文句は言わせん!我が姪の子でもあるしな!」
《・・・っか~~!》
《 嬉しいねぇ。》
《 俺みたいなのを養子に迎えるってよ!》
《 有難すぎて涙が出ちゃうでしょうがw》
「侯爵閣下。お申し出はありがたいのですが、辞退させていただきたく存じます。」
「何故じゃ!」
「国王陛下。アストラス領のダンジョンは僕のために作られました、」
「報告は読んだ」
国王の目は、俺の一挙手一投足を捉えて離さない。
「ダンジョンを作ったのは英霊ソリアン様であり、教会に降臨された方です。」
「!・・・あの方が英霊ソリアン・・・」
全員が驚愕した。
《 まあ、そうなるわな?》
「英霊ソリアン様は現在 “サラフィナ神” 様の側近をしており、ダンジョン作成の申請をして、許可を頂いてから、あの場所にダンジョンを作られたそうです。」
「申請・・・許可・・・」
《王様? 引っ掛かかるのソッチ?》
《 そういや父上も同じトコで引っかかってたな・・・天国にも役所はあるよ?多分・・・》
「ソリアン様は『指導を受けたくば、まずダンジョンを踏破せよ』とおっしゃいました。全てはそこからです。」
「それと養子と何の関係がある!?」
「邪魔なのです。」
「なにぃ!!」
《 わわわ! 言葉のチョイス間違えた!?》
《 んでも、他に言いようがないしな~ ごめんね~》
「過去全ての『勇者』が最後まで思い悩んだのが『執着』でした。」
「執着・・・か」
国王の声は平坦だ。
「『欲』と言い換えても構いません。金銭欲、名誉欲、出世欲、色欲、権力欲・・・欲にはキリがなく、消し去ることは出来ませんが、少なくすることは出来ます。」
「『欲』や『執着』が強さの妨げになるというのか?」
国王の問いはあくまで静かだ。
「今回の闘いは『魔王』のみならず『魔神』も復活するとのこと、鍛え方か甘ければ玉砕。良くて相打ち。しかしそれでは『もう一方』が残り、ヨーデル王国の黄昏に繋がります。それだけは避けねばなりません。」
「そのために冒険者になるというのか」
「ソリアン様はこうおっしゃってました『権能は我が物にあらず、天つ地を貫き生くる祖神の力』と・・・」
「その意味は?」
「意味としては『鍛え抜いた私の力は神から与えられたものであり、天上から大地を貫く一本の光であり、神の御力である』という意味です。裏を返せば『魔神や魔王を倒したくば執着を捨てて一心不乱に鍛えろ』ということでしょうか。」
「・・・それで勝てるのか」
「戦争ですからね。絶対はあり得ません。しかし『勝つために生きる。生きる為に勝つ』というのが僕の最大の『欲』でしょうか。そのためにはダンジョン踏破を果たし、ソリアン様の指導を受けるのが絶対必要条件だと思っています。」
「・・・そうか。」
長い沈黙が下りた。
《 おーい!》
《 誰か何とか言って~》
《 沈黙が重い~~~》
「あの、私からももう一つ宜しいでっすか?前から気になっていたのですが。」
「この際だ。許す。」
「ありがとうございます。グレイ君。英霊ソリアン様が帰り際に『称号は肩書でしかない』とおっしゃってましたが、その意味は?」
「あ~ あれは宗教の話になりますが・・・」
「構わぬ。話せ。」
「はい。その前に質問ですが『エルフ』は存在しますか?僕はまだであったことがないのですが・・・」
「ええ、居ますね。私の知り合いにもエルフはいます。」
「へ~、会ってみたいですね。ちなみにその方は長寿種ですか?」
「そうですね。もう300年以上生きているようです。」
「すごいですね。でも長寿種でも老いて死ぬんですよね。」
「そうでしょうね。人族より遥かに長生きですが・・・」
「それが宗教の始まりです。」
「・・・詳しく話せ。」
「この世の全ての生物は等しく死にます。その後の行く先が “天国” か “地獄” かという話になりますが・・・天国に招かれる魂には特典が与えられます。」
「・・・ほう。」
国王の姿勢が、心持ち前屈みになった。
《 興味あんのね♪》
「その特典は『生まれ変わる』先が選べる。ということです。」
「それは初耳ですね。」
《 ノルグナー公爵も食いつきました~♪》
「もちろん天国での順番や次の人生の目的によって多少の変動はあるようですが、天国に上ることができる魂は秩序を重んじるので、諍いが起きることもありません。皆、順序よく並んで待っているようですね。」
「それも “サラフィナ神” に聞いたのか。」
「はい。ちなみに “サラフィナ神” 様も生まれ変わりますよ?」
「なに!?」
「それは本当ですか!?」
《お~♪ 父もビックリな反応。》
《 目ぇ覚めた?》
「本当です。ご自身の修行の為だったり新たな宗教を立ち上げて時代背景にあわせた教えを説いてみたりするようですが・・・」
「“神”も修行するのか」
《 だよね~》
《 俺は死んだら “のんべんだらり” したい派なんだけどね~》
《 真面目にしないと “馬車馬” の刑が待ってそうでさ・・・》
「しますよ? 最も、お忙しい方ですし。下々の『生まれ変わり』の邪魔をするわけにもいかないので、数百年単位でしか降りて来られないようですが?」
「・・・“神”は何を目指しているのだ。」
《 ごもっともw》
「それは秘密です、もしかしたら “原初の経典” に書かれているかもしれませんが、僕の口から軽々しく言うわけにはいきませんので、ご容赦を。」
「・・・そうか・・・そうだな・・・解った。」
《 ショックが強すぎたかな?》
《 まあいいや、遅かれ早かれ知ることにはなるだろうし・・・》
「それを踏まえたうえで。最初の話になるのですが、『勇者』の称号は前世においてその称号が与えられるにふさわしい働きをした者と考えられます。しかし・・・」
「しかし?」
「『昔は昔、今は今』です。『勇者』という称号に振り回されて現世で自堕落な人生を送るなと、ソリアン様は叱咤鼓舞してくれたんだと思います。」
「自堕落な人生・・・か・・・」
「・・・とは言っても、まだ母上が恋しい三歳児なんですけどね。ナハハハ。」
がっくりと肩を落とした面々。
上げて落とすは笑いの基本だよ?
「お主の言いたいことは、よく解った。母上が恋しいこともな・・・」
《 王様?》
《 皮肉?》
《 だが、知らんな!》
《 幼児の我儘はセイギだぜい!!》
アストラス親子が、応接室を退出すると、国王は背もたれに寄りかかり、大きく溜息をついた。
「・・・あれが、神童というものか・・・」
「しかし本当でしょうか? “神” も『生まれ変わる』などとは・・・」
「嘘をついているようには見えなんだが・・・そもそも、聖職者でもない幼児がそんな嘘をついて何の得がある・・・」
「そうですね・・・『原初の経典』に何か書かれているかもしれません。解読を急がせましょう。」
「頼む。」
ノルグナー公爵は、サラサラとメモを書きながら呟いた。
「それにしても・・・広い知識と深い造詣、行動力、物怖じしない胆力。とても三歳とは思えません。サルムンド候、よもや『勇者』ではなく『賢者』ではないでしょうね。」
「儂の目にはハッキリ『勇者』と出ておる。悔しいのう。」
「他の二人の『勇者』も、あの子のように目覚めてくれれば良いのだが・・・」
国王の呟きにサルムンド侯爵が反応した。
「そう言えば他の『勇者』はどうなりました?」
「逃げた一人は捕まえた。重傷者が何人か出たが・・・今は地下牢に居る。もう一人は・・・愚図っておるようだ・・・」
「愚図ってる・・・とは?」
「北のザブズクルのダンジョンに放り込んだんだが、中間層辺りから進まなくなったそうだ。それどころか、向こうでも他の冒険者相手に酒や博打や女にと忙しくしているらしい。目付け役から退職願いが出された・・・」
「『堕落した勇者』ですか・・・」
ノルグナー公爵がポツリと呟いた。
三歳児の言葉が頭をよぎる。
「儂がザブズクルまで行って。性根を叩き直して来ましょうや!」
サルムンド侯爵がフンス!と腕を捲った。
「いや、無理をして敵に回すのは得策ではない。下手すれば『魔族側』についてしまう恐れもある・・・」
国王は天井を見上げて腕を組んだ。
魔神・魔王に加えて勇者が敵に回るなど、何の冗談かと笑いたくなる。
「地下牢の『勇者』はどうしてる?」
「今は大人しいですね。出された食事も残さず食べているようです。」
「グレイと会わせてみるか・・・」
「グレイと?危険ではないですかな?」
「大人しくしているのなら、問題なかろう。心配ならサルムンドが付いてやればいい。」
「では、手配します。」




