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14 事件と悪夢と鬼スズネ(ドオシテオマエガココニイル)


 ダンジョンが発見されて2週間が過ぎた。


 父の話によると、探索は順調らしい。

 宝石の入った宝箱も発見され、大いに沸いたとか・・・


 「すぐ近くに水源が見つかったのも嬉しい誤算だな。商人どもが商店やら分店の営業許可をこぞって出して来よる。」


 ホックホクだな父上。


 近隣の領主とも話し合い、定期的に私兵の訓練場として開放したり特産品を優先的に降ろしたりして、友好関係を築いているようだ。


 サルカスはサルカスで、水車小屋の建設に夢中なようだ。

 俺が何気に出したアイデアも即時取り入れ、職人の輪に入り議論を重ねているようだ。

 学園の入学も一年遅らせる勢いらしい。

 すんごいね。


 ビートの栽培地も決定し、試験的に育てているようだ。


 より高品質で一定量のビート生産を目指すなら・・・という私案もあるが、それより先に農家さんが『ビートは金になる』ことを知ってもらうことが重要だ。


 育てるのは俺達じゃないからね。

 物事は手順を踏んで確実にねw




 《・・・と、いうワケで・・・》


 何が『というワケ』かよく解らんが・・・





 俺は今 “おもちゃ” になっている。

 正確には『姉様の着せ替え人形』なのだが・・・



 どうやら俺は三歳にして美形の類に入るらしい。

 まあ、『カワイイなら女装でもよくね?』とばかり、ごっちゃりある姉のお古を代わる代わる着せられてる。


 しかも母の目の前でだ・・・


 「姉様~ 勘弁してください~」

 「だ~め!」


 《 おい!》

 《 そこの『ワケありメイド」!!》

 《 一緒に大はしゃぎしてないで、姉上を止めろ!!!》



 《そのキラッキラのリボンをどーするつもりだ!》



 《 母上!》

 《 笑ってないで止めてください!!》

 《 俺の中の “何か” が目覚めたらどーすんですか!?》



 《 スズネ!》

 《 感動した目で見てないで!!》

 《 この惨状を何とかしてくれ!!!》



 《 た~~~す~~~け~~~て~~~!》






 「よくお似合いでしたよ?」

 「・・・うっさい・・・」


 ひとしきり(いじ)られた俺が、ぐったりして部屋に戻ると、豪華(ごうか)な馬車が玄関先に来ていた。

 「なにあれ?」


 (かしこ)まった父が出迎えてるようだ。


 《 城官かね?》


 白っぽいゴシックな服装に、ごちゃごちゃと装飾(そうしょく)を身に付けた “オーク” ?


 《 うん。》

 《 “オーク” は何着ても “オーク” だねw》


 父の歓待(かんたい)を無視し、屋敷に入ろうとしない。

 大仰に羊皮紙(ようひし)をおっぴろげ「勅命(ちょくめい)である!」ときたもんだ。


 《 “オークキング” からかな?》



 父がその場で(ひざまづ)き、(こうべ)を垂れた。

 違ったようだ。




 えっらく長々と読み上げているが・・・

 要約すると「聞きたいことあるから十日以内に王都に来てね。」ってことらしい。



 「勅命(ちょくめい)。承りました。」

 父が短く返事を返す。

 “オーク” は「ふん!」と一鳴きしてさっさと馬車に戻った。


 《 養豚場(ようとんじょう)に帰るのかな?》

 《 (さば)かれに?》

 《 美味しくはなさそうだけど?》

 《 犬も食わないオーク肉?》

 《 ・・・売れる?》





 父は俺を執務室に呼んだ。

 「要件は・・・聞いたな?」

 「はい。『十日以内に王都へ来い』と、あの『 “オーク” じゃない人』? がおっしゃってたようですが・・・。」


 《 父上? 》

 《 セバスも小鼻が膨らんでるよ?》


 「不敬なことを口にするな。思っていてもだ。」

 「すみません。気を付けます。」


 《 でも笑いは大事!》


 「まあいい。そういうことだ。準備しろ。明日には発つ。」

 「承知いたしました。」


 ♪は・じ・めて・の・王都♪ だぜい!





翌日。

「わたしも行く~!!」と駄々を捏ねる姉に首を絞められ奥歯をガタガタさせられるという、ちょっとしたトラブルがあったが、無事出発。


「あいつにも困ったもんだ。」と、苦笑していた。


 王都への日程は5日ほど。

 乗車メンバーは父と俺。

 そしてスズネ。


 ♪鬼スズネ~ドウシテオマエハ~ココニイル~♪


 「冒険者ギルドでも、お金を払えば無登録者も訓練場を借りれますので♡」

 にっこり。


 《 だ~から~ そのハートマーク止めてくんないかなぁ!》

 《 泣くぞ!!》




 領の堺にある検問所は、貴族優先で通ることができる。

 本来なら他領を通過する際は、領主への挨拶や手土産が通例になっているが “勅令(ちょくれい)” の場合はその限りではない。

 『こういう理由にて貴殿の領地を通過させていただきます。』という手紙を出せば、後でとやかく言われることはない。もちろん後で『ありがとう』の意味合いも込めて、ちょっとした贈り物や特産品を送ったりするようだ。



 少なくとも父はそうしている。

 出来るだけ波風を立てない。

 平穏無事な生き方。


 《 社会人だね~》





 出発して3日目。


 事件があった。



 「ゼブライド卿・・・」

 我が家に勅命の通達を届けた『オークじゃない人』が、ほぼ全裸で吊るされていた。


 周囲には20を超える警備兵らしき遺体。

 こちらは装備を()かれて息絶えていた。


 「旦那様。かろうじて息のある者の証言によりますと、飲み水に毒を入れられたようです。」

 「まだ息はあるのか?」

 「いえ、それがもう・・・」

 「・・・そうか・・・」



 《 う~ん?》

 《 この『オークじゃない人」? 相当(うら)まれてた?》


 「グレイ。どうした?」

 「裸に向かれた兵隊さん達は、ほぼ一突きで殺されたようですが、こちらの方は・・・」

 「手足の健を切り、急所を外して複数刺されてるな。拷問の手口だ。」

 「恨み(つら)みでしょうか? 情報が欲しかったんでしょうか?」


 「わからん。だが貴族に手を出すとはな。『一族郎党死罪』の覚悟があるようだ。」

 「追いますか?」

 「いや、ここは既に他領だ。おい!ゼブライド卿の遺体を下ろせ!出来るだけ綺麗にして布で包み、ドンダリデの領主の元に運ぶ。荷台の積み荷をこっちへ移せ。」


 「他の遺体はどうしますか?」

 「可哀想だが、弔ってやる時間がない。 ”勅命“ を受けているからな。一か所にまとめておけ。急ぎ途中の町の警備隊か衛兵に連絡しろ。」


 バタバタと荷物を移し、支度をする。

 気配を探ってみるが、周囲をうろつく魔物の気配しかなかった。


 《 ・・・迷宮入りかな?》


 濃厚な血の匂いが、鼻の奥に残っている。

 こればかり慣れないものだ。

 前世と違い平和な日本ではないと、改めて思い知らされる事件だった。




 その後ドンダリデ領主の屋敷に立ち寄り、事の詳細を説明した後、俺達は王都へ急いだ。


 「遺体を引き取ってくれませんでしたね。」

 ドンダリデで氷魔法を使える人を雇えば、遺体を綺麗なままで送れるのに・・・


 「派閥が違うからな。ゼブライド卿とドンダリデ卿の派閥の仲はあまりよくない。」

 「・・・そういうものですか・・・」

 「そういうものだ。あまり気にするな。」


 《 世知辛いね~》




 出発から6日目

 遺体の匂いが気になってきたころ、ようやく王都に到着した。

 父は息つく間もなく登城し、報告とともに遺体を引き渡した。


 「ドンダリテ卿から連絡が来てたらしい。すんなり引き取ってもらえたよ。」



 ようやく肩の荷が下りたという感じか。

 ご苦労様です。


 《 これが『戦時』だったり、魔物に食い荒らされて判別できなかったりすれば、こんなにアタフタすることも無かっただろうが『おろしたて』だったもんなぁ・・・》


 せめてもの礼儀として、出来ることはしたと思う。

 自己満足と言われれば、そうだと頷くしかないが・・・







 その日、久しぶりに “いやな夢” を見た。

 前世では時折見ていた夢だ。


 が、今回は少し(おもむき)が違った。



 『地獄』



 はっきりと認識できた。

 ドロドロと粘着質な広大な海に、無数の人が溺れていた。


 その中の一人が

 『オークじゃない人』ゼブライド卿だった。

 粘着質の海は、無数の手となりゼブライド卿をガッチリと掴んでいる。


 その背や腹には剣だの槍だのが、これでもかと刺さり、血まみれになっていた。

 なんとなく、ゼブライド卿の陰謀に巻き込まれた人たちの怨念が、ああいうカタチになって、奥底に引きずり込もうとしてるんだなと理解できた。


 何か必死に叫んでいるが、良く聞こえない。

 たぶん助けを求めているんだろう。


「お~い! ここは心の世界だよ? 抵抗しないでしっかり ”反省” すれば抜けられるよ?」


 《 聞こえたかな?》

 《 無理か。》


 そのとき、ゼブライド卿の目がギロリと俺を見た。


 《 おっかね~》

 《 そんな目で見られてもね~》

 《 自分の心は自分で助けるしかないんだよ?》


 俺の声が聞こえたかどうか・・・

 ゼブライド卿は決死の形相で俺を掴もうともがき始めた。


 《 いやいやいや・・・》

 《 聞いてる?》

 《 俺は “蜘蛛の糸” じゃないんだから、巻き込まないでよ!》

 《 ちゃんと ”反省” しなさいってば!!》


 ゼブライド卿は必死だ。

 俺を天国のドアノブか何かと勘違いしてんのかね?


 暴れる卿の腕がいきなり伸びて、俺を掴んだ。

 「いでえええええ!」

 次いで無数の腕が俺を掴む。


 《 逃げられない。》




 痛い。

 苦しい。

 逃げたい。

 助けて。

 お前のせいだ。

 死ね。

 一緒に堕ちよう。

 どうしてこんな目に。

 ・・・・


 あらゆる想念が入ってきた。

 吐き気がする。





 《・・・・・》





 んが! と目が覚めた。


 汗をびっしょりと掻いていた。

 ひっさびさの痛烈な悪夢だ。


 だが、ゼブライド卿の “行き先” が、なんとなく判った気がする。


 《 せめて親族が心から安寧(あんねい)を祈れば、卿の苦しみも少しは楽になるかもしれないが・・・どうだろうな。》


 《 他人の俺をドアノブと勘違いするほどだったし、苦し紛れに誰かに憑依しなきゃいいがね・・・詮無い事か。》




 俺は無力だ。




 のそのそとベッドからおり、“ウオッシュ” と “ドライ” で身綺麗にする。


 初級魔導書の魔法陣の文字が ”ルーン文字” であることが判明したので、水と火の魔法陣を分解し、うろ覚えの知識で再編成しては、集めた枝や薪で実験。

 不発だったり、暴発したり、水浸しになったり、狂ったように燃え出したり・・・

 見守るスズネさんの目が何かを訴えてたねw


 「新しい何かを作り出すためには、”失敗” を恐れちゃダメなんだよ?」と諭す三歳児。

 たった十数回のトライ&エラーで洗濯物がキレイなったのは、奇跡だとしか思えなかったネ。


 んでようやく、自分で人体実験。


 最初の何回かは “ウオッシュ“ で溺れそうになったり、”ドライ“ でカピカピになったりと ”一人漫才” をしていたが、さすがに大分慣れた。


 【ステータスボード】のスキル欄に ”クリーン” の文字を見つけた時は小躍りしたよw






 父は改めて登城し、王都に着いた旨を知らせに行くという。


 俺はその間、冒険者ギルトで訓練と街の散策を申し出た。


 「大丈夫か?」

 心配する父に、スズネが答えた。


 「問題ないと思います。今の坊ちゃまは “魔物の森” の浅層なら単独で脱出できる程度の実力はありますし、私もお傍を離れませんので。」


 「・・・そうか・・・頼む・・・」




 「懐かしいですね。」

 テケテケと歩く俺に歩調を合わせながら、スズネが呟いた。

 ここぞとばかりに “鑑定眼” を連打する俺は、“並列思考” も駆使する。


 「スズネは王都にも居たの?」

 「そうですね。ここの依頼を受けていた時もありました。セバス様にスカウトされたのもその頃でしたね。」

 「へ~ セバスも王都に居たんだ。」

 「当時は王都の別邸を任されていましたからね。今は後継者探しに忙しくしているようですが・・・」

 「セバスの後継者ね~」


 《・・・無理じゃね?》






 《 お!?》

 《 スリ発見!》

 《 的を絞って~ “エアボール(小)” 連続ブッパ!!》

 《・・・ありゃ!?》

 《 強すぎた?》

 《 脳震盪かね?》


 「どうしました?」

 「スリ()()()たんだけど・・・強すぎたみたい?」

 「・・・あ~ お任せください。・・・もし?コレ落としませんでした?」


 演技派スズネのおかげで、無事戻ったようだ。


 「スリの方は()()()()()()()に曲がってましたけど、狙いました?」

 「あ・・・いや、当たったんだね。よかった・・・」

 「帰ったら “コントロール” の練習もしましょう。」


 《 課題が増えた・・・》






 初めての冒険者ギルドは、わちゃわちゃしていた。

 「朝の早い時間帯はもっと混雑してますよ?」

 ということらしい。


 スズネがカウンターで手続きを済ませている間に、ざっと鑑定してみる。


 《・・・低いな・・・》


 ちらほらとレベル20に達っしておる者もいるが、ほとんどが10台後半。

 もしかしてウチの「ワケありメイド団」って・・・強い?


 《 いやな現実を見た気がする・・・》


 「お待たせしました。行きましょう。」

 ニッコニコなスズネさんに手を引かれ、訓練場へと足を運ぶ。


 断頭台に連れてかれる気分だった・・・




 訓練場は広いが、互いがぶつからないように木の柵で区切られていた。

 一面がバレーボールコートくらいの広さが6面ある。


 「今日は杖術(じょうじゅつ)?」

 「はい。時間もあまり取れませんでしたし、走らなくていいので軽く汗を流す程度にしましょう。」

 「了解」


 とはいっても、スズネの(じょう)は凶悪だ。

 伸縮。受け。払い。流し。絡め。突き。横打。当身。

 気を抜けば肘撃や膝撃、投げ技まで飛んでくる。

 寸止め主体だが、背筋が凍る。


 「ほー、あのメイドのネーちゃん。やるね~ 」

 「坊主、がんばれよ~」


 《 外野うるさし!》

 《 なんなら変わってやろうか?》

 《 前世の師範だってこんな凶悪な技使ってなかったぞ!!》


 「集中しましょうね♡」


 《 こんニャロぉ!》




 あっという間に1時間が過ぎた。

 中身の濃い訓練だった・・・

 「幼児退行インターバル」より疲れた気がする。


 《 アッチは隠れて休めたもんな~》


 「お疲れさまでした♡」

 「お・・・おつかれ・・・」


 《 いや、まだマシか。》

 《 言語中枢がかろうじて生きてるもんな・・・》


 その後、ギルドを出るまでに何組かのチームに声を掛けられていたが、スズネは氷の表情で華麗に無視していた。


 《 すまんな・・・構ってやれなくて・・・》


 ギルドを出ると、すぐ脇道に入り、人気のないところで “クリーン”


 「・・・便利ですね。」

 「生活魔法使えないの?」

 「できますが、水の確保とか、火起こしくらいでしょうか。」

 「合格。今度教えるよ。」

 「お願いします。」


 帰りは屋台で “謎肉の串焼き“ に齧り付き、いくつかの店を回った。


 「かわいいアクセサリーばかりですね。」

 「姉様に “お土産” 約束したからね~」

 「・・・てっきり御自分で使うのかと・・・」


 《 スズネさん?》




 屋敷に戻ると、すぐに父の書斎に呼ばれた。


 「三日後。教会の大聖堂で “証” を見せることになった。国王陛下や教皇も出席なされるそうだ。大丈夫か?」

 「大丈夫だと思います。」


 《 って、答えるしかないんだよな~》

 《 サラフィナ神が「なんとかする」って言ってたからな~》

 《 丸投げなんだよな~》



 ドッキドキの三日間だぜい!




 その後は “神獣の黒卵” 片手に瞑想したり、書庫を覗いてみたり、ギルドでシバかれたり、ウオッシュ&ドライを教えたり、露店を冷やかしてみたり、礼服を新調したり、父と外食を楽しんだりと、なかなか充実した三日間だった。




・・・ “ドッキドキ”はとこ行った?



「丸投げサイコ~!」って叫んだら、シバかれたことがあるww


次回 2月24日更新予定です。

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