13 王都と修行とワケありメイドと・・・
ヨーデル王国
王城・執務室
ベルトナラキウス・フォン・ヨーデル国王はサルムンド・ドアトリス侯爵が持参した手紙を読み返していた。
45歳。白金色の頭髪に髭を蓄えているが、その眼光に衰えは見えない。
金糸をふんだんに使った衣服に包まれているが、日頃の鍛錬を思わせる肉体は豪華な衣服の下からも自己主張を隠せずにいる。
常に身近に置いてある大剣は無骨ともいえるが、そのグリップには薄っすらと手形が浸み込んでいた。
「この手紙に書かれているのは、全て事実か?」
向かいのテーブルに座るサルムンド侯爵は軽く頭を下げた。
「・・・相違ないかと。」
「ドアトリス侯、ソレを証明するものがあるのか?」
国王の隣に立つ細身の男は、寄り親のノルグナー・エイトラディス公爵。
黒い衣服に包まれた細身姿は神父を思わせるが、宰相という立場にありながら毎日の鍛錬を絶やさない国王に付き合わされるため、そこらの兵士をモノともしない実力を持つ。
「は!我が姪のミレイの子であるグレイ・アストラスは、三歳にして魔族を単独撃破。さらに全属性魔法を駆使しアストラス領にある “不毛の地” に巨大なオアシスを作りました。」
「「・・・は?・・・」」
「さらに付け加えるならば、彼の地に突如出現したとされるダンジョンの門に彫られていた呪文を一瞬で解読し、見事。門を開放。アストラス領に更なる繁栄のきっかけを作ったとも言えます。」
沈黙が、流れた。
サルムンド侯爵は咳払いを一つすると、申し訳なさげに付け加えた。
「実は、魔族とダンジョンの件に関しては、ノルグナー公爵閣下に伝令を走らせたのですが、途中で儂が追い抜いてしまったようで・・・儂の紋章の入った鎧とハンカチを持った若造が、後ほど御迷惑をお掛けするやもしれませぬが・・・」
「いや良い。事実確認として、その者からも話を聞こう。それにしても・・・」
「・・・まことか・・・」
ベルトナラキウス王が、ようやく乾いた声を出した。
「事実です。全てこのサルムンド・ドアトリスの目前で起きた事。我が名に懸けて嘘偽りは申しません。」
サルムンド侯爵は姿勢を正し、再び宣言した。
ノルグナー宰相は国王に目を向ける。
「陛下、『役割の違う勇者』と言うのは・・・」
「うむ。昨日、教皇から連絡があった。アストラス領の教会に来ていたグレイ・アストラスが祈りを捧げた途端、身体が光り出し『地揺れ』が起きたらしい。」
「なんと!!」
サルムンド侯爵が喜色満面に驚いた。
「なんとも規格外な・・・」
国王は続けた。
「被害は大したことなかったようだが、その場に居合わせた神父の話では、 “サラフィナ神” と密約を交わした証拠だとか、登城すれば “証” を見せるとも言っていたそうだ。」
「密約とは、どのような・・・」
ノルグナー・エイトラディス公爵が乾いた声で聞いた・
「不明だ。 “密約” を明かすことはできぬと・・・」
「不敬な。」
「教会の報告が事実であるならば、相手は “神” だ。我らより遥か上の存在。その “密約” を無理に聞き出す方が “神に対する冒涜” であろう。」
「では不問のままで?」
「それがよかろう。もしくはグレイ・アストラス本人が明かすまでは・・・」
「では登城させますか?」
「待て。教皇は教会本堂に呼ぶべきだと主張しておる。“サラフィナ神の証” を確認するには大聖堂が相応しいともな・・・」
「教会の偉功を示すためですか。発言力がいや増しますね。」
「面倒なコトこの上ない。だが無下にもできん。」
「陛下。“サラフィナ神” 絡みでもう一つご報告が・・・」
サルムンド侯爵が思い出したように申し出た。
「・・・聞こう・・・」
「実は、先の戦闘後、どのような魔法で魔族を撃退したのかを直接本人に聞いたところ “ヒール” の魔法であったことが判明いたしました。」
「「・・・ひーる?」」
「はい。“ヒール” です。」
《 まあ、そういう顔にもなろうて・・・》
この顔が見たくて何頭かの馬を乗り潰してきたのだ。
対策済みだなどと言われた日には、この場で暴れる自信があった。
「“ヒール” とは、初級治癒魔法の “ヒール” か?」
「はい、その “ヒール”です。とどめは “エリア・ヒール”でしたが・・・」
「・・・詳しく話せ。」
いつにない威圧にも似た声色に侯爵は歓喜した。
「は!グレイは “サラフィナ神” の神託によりますと種族に関わらず『邪な念』を持つ者は “瘴気” とか “邪気” と呼ばれるものを身に纏うようです。いわゆる『禍々しい雰囲気』とも言っておりましたな。この “瘴気” は生まれつき強い魔力を持つ魔族や魔物に顕著に表れるそうです。」
「・・・その “瘴気” に “ヒール” が効果的だと・・・」
「はい。我々全ての生物は本来 “神“ に祝福されるべき存在であり、”瘴気“ や ”邪気“ などの『邪な念」は『心の怪我』と変わらないという教えを受けたようです。』
「それで “ヒール” か・・・俄かには信じられん・・・」
「詳細を話すならば、剣を構えた儂とアストラス子爵と魔族の間に割って入り、魔族に頭を鷲掴みされたため、痛さのあまりに “ヒール” を唱え、彼奴の腕を吹き飛ばしました。それで “サラフィナ神の啓示” に確信を得たグレイが止めの “エリア・ヒール” で首から下を吹き飛ばしました。」
「 戦いに割って入ったと!?」
「当時、戦闘になることなど思いもしなかった儂は魔道鎧を外して馬車に放り込んでおったのでな。いやはや命拾いしましたわ!」
ガハハと笑う侯爵に、何とも言えぬ表情を浮かべるしかなかった。
「・・・ともかく、いまのは極めて有用な情報だ。僥倖とも言える。早速検証したいところだが・・・」
「そう思い。打ち取った彼の首は儂の部下が魔法省に届けてあるはず。部下も戦いを目にしておるのでな。詳細を話せば今頃検証に取り掛かっておりましょうや。」
「そうか!ノルグナー公!検証の報告を急ぐように伝えろ!」
「直ちに!」
「ところで他の勇者は、今何を?」
二人きりになったサルムンド侯爵の言葉に、国王は頭を抱えた。
「一人は・・・逃げた・・・」
「・・・は?・・・」
「もう一人はダンジョンに放り込んでいる・・・素行が悪くてな・・・」
「・・・素行が?・・・いったい何を・・・」
「ことあるごとに色街に繰り出してな・・・気に入らないと騒ぎを起こし、全ての請求は城に負担させておった・・・流石に見過ごすわけにもいかず、ダンジョンで賠償金を稼ぐように言い渡した。」
「では、逃げたもう一人の勇者は・・・」
「いま全力で捜査中だ。そう遠くへは逃げてないと思うが・・・」
「なんと・・・」
「教会は、この不祥事には知らぬ存ぜぬを通している。全ての責はこちらにあるとな・・・頭の痛い事よ・・・」
重い沈黙が流れた。
「最悪、グレイ・アストラスに全てを任せるしかない・・・か・・・」
「いくら何でもそれは荷が勝ちすぎる!まだ三歳の幼児ですぞ!」
「わかっておる!!しかし “サラフィナ神” の覚えもよく、”神託“ を預かり実行できる三歳児がどこにおる!『役割り』があるとは言え期待せずにはおられぬというもの!間違っておるか!?」
「ぬう!」
「この件に関しては内密に事を進める。サルムンド侯も迂闊に他言せぬように。」
「・・・御意に。」
◆◆
「チカレタ・・・ハラヘッタ・・・」
体力を極限まで搾り取る『幼児退行インターバル』は、語彙力も奪っていくようだ。
『幼児退行インターバル』・・・誤字でもなければ脱字でもない。
文字通り動けなくなるので、帰りは大体 ”だっこ” なのだ。
徐々に蒸発しつつある “ため池” の周りをグルグルと “鬼ごっこ” しながら、時には枝から枝へ、時には森の奥へと隠れ、あっさり見つかっては模擬戦闘。ゴブリンを狩り、スライムを投擲で潰し、また逃げるを繰り返す。
「今日もいい感じでした。お疲れ様です。」
花のような笑顔のスズナが覗き込んでいる。
《 鬼ハラスメントなハニートラップ・・・恐ろしい・・・》
飯食ったら復活すんだけどね・・・
〇イア人か!
勢い余ってビックボアを死角から刺し殺してしまった日もあった。
「あこれ、即死ですね。」
《・・・すまぬ。》
《 幼児は急に止まれないノダ・・・》
翌日の夕食は豪華だった。
◆◆
ある日
『ワケありメイド団』の食堂での会話
メイサ「お疲れ~お腹すいた~」
スズネ「お疲れ様です。」
メイサ「いただきま~す!あ!このシチューおいし~お肉やわらか~い!」
マーサ「この間、グレイ坊ちゃまが仕留めたビッグボアの肉ね。」
ローザ「市場の肉に比べたら、全くと言っていいほど傷んでないからマークが張り切ってたわ。」
メイサ「あ、それ聞いた~すごいよね~」
スズネ「急に飛び出してきた方が悪いのよ。でも・・・」
メイサ「ん~?」
スズネ「一概に事故で片付けられないわね。激突する直前の ”居合抜き” は見事だったわ・・・」
メイサ「イアイヌキって?」
スズネ「納刀から刀を抜いて敵を切る技術って言えば分かるかしら?」
ミセア「聞いたことあるかな?ほとんど不意打ちなんだけど、その技術に特化した流派があるとか?」
メイサ「へ~・・・偶然?」
スズネ「偶然・・・考えにくいわね。”居合い” だと必然的に切ることが主体になるけど・・・」
ローザ「ボアの傷跡見たわ。刺突だったわね。しかも急所を正確に・・・」
メイサ「どっかで習ってた?ってのはないね~。一人で外出できないもんね~」
マーサ「そういうものだと諦めなさい。グレイ坊ちゃまは “神童” なのですから。」
メイサ「ん~。だよね!わかんない事いくら考えても答えなんか出ないし。冷める前に食べちゃおう?」
スズネ「そうね。あ、メイサ。明日は “槍” でお願いできる?」
メイサ「 “槍” ? 使えないこともないけど苦手なんだよね~ローラの方が適任じゃない?」
スズネ「そうだけど、ローラのは鋭すぎて危険なのよ。まずは慣れてもらわないと・・・」
メイサ「そっか、い~よ~」
スズネ「お願いね。」
ローラ「あたしの出番はまだ先か。裏の森いつまで使うつもり?そろそろ “狩り” がしたいんだけど?」
スズネ「ごめんねローラ。ゴブリンは処理せず放置してるから、そろそろ寄ってくると思うんだど・・・」
ローラ「撒き餌か、楽しみね」
ミセア「そういえば、セバス様が巡回してた時にオークジェネラルと遭遇したって、おっしゃってたわ。坊ちゃまにはまだ早いから早々に処理したって・・・」
メイサ「え~ずる~い! 私も参加したかったな~」
ローラ「ホントね。私も今度、巡回に応募しようかしら。」
メイサ「さんせ~。私もする~」
スズネ「ほどほどにね。坊ちゃまにも残しておいてもわらないと・・・」
「「「了解」」」
マーサ「・・・グレイ坊ちゃま・・・」
「ワケありメイド団」唯一の ”良心” は ”マーサ” だった説




