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そのタイトルを禁句にします。  作者: 葉方萌生
第一章 『キラノベ』に現れる不可解なコメント

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8/35

◾️雪村萌香 侵食

「はー今日も疲れた!」


 結局あの後、他の先生たちはバタバタと小学生の授業から帰ってきてかき込むようにして食事をとっていたので、私の定時の時間までに一人も捕まえられなかった。


 私は17時に定時を迎えるのだが、先生たちは21時まで仕事がある。私が退社した後は、アルバイトの学生たちが代わりに事務を担ってくれる。そのおかげで、夕方には帰宅することができるので、働きやすいと言えばそうだった。


 ただその分、今回みたいに、先生たちに聞きたいことを聞けない、とう場面は多々あった。出勤時間がずれているので、昼間、会議が始まる前後の時間に、色々と尋ねるしかない。まあ、急ぎの用件でもないし、またの機会で大丈夫かな。



 自宅に帰り着くと早速パソコンの画面を開く。今日もアフター5の楽しみの始まりだ。昨日はコメントのことが気になって執筆も途中でやめてしまったが、今日は思う存分、書くことができた。


「宣伝投稿っと」


 昨日と同じく、Xで「今日も更新しました!」と宣伝ポストをする。創作仲間たちからすぐに「いいね!」が来てほっこりする。せっかく書いた自分の作品は、できるだけ多くの人に読んでほしい——そう思うのは当たり前のことだろう。


 しばらくXを眺めていると、他のキラノベユーザーたちも自作の宣伝ポストをしていた。私は迷わず「いいね!」を押す。気になった作品は本棚に登録して、時間がある時に読みにいくのが至高の楽しみだった。

 そんな中で、ふとある投稿が目にとまる。同じくキラノベで活動している作家仲間の「結城(ゆうき)かりん」の投稿だ。彼女とも時々交流をしていて、お互いの作品を読み合う仲でもあった。



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結城かりん@Yuki_Karin 2m


自作に変なコメントが来てた(汗)

削除してみたけど、なんかやだな……。

みなさんも気をつけてください。


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「変なコメント……まさか」


 背筋に寒気が走る。昨日のこともあり、嫌な予感しかなかった。結城さんといえば、最近新しく長編小説を投稿しているはずだ。確か、他人の余命を見ることができるヒロインと、余命一年と宣告された少年が出会う、切ない青春小説。私も本棚登録をしていて、後で読もうと思っていたものだ。

 その作品にコメントが来ているのだろうか。

 キラノベのユーザーページから「本棚」というボタンを押した。


「あった」


『きみの余命が見えなくなるまで』/結城かりん著


 結城さんの最新作。作品ページに飛ぶと、公開されている感想を見ることができる。恐る恐るページを下へとスクロールすると、確かに一件、感想コメントが来ていた。


【このはなしはきらい】


 ぶるりと、全身の毛が総毛立つのを感じた。たった一言だけの感想なのに、どうしてこんなにも胸に差し迫って見えるのか。考えるまでもない。投稿者のユーザーネームには予定調和のように「69,」と刻まれていた。


「どうして……? 運営の方で利用を制限されてるんじゃなかったの?」


 感想の投稿時刻を見ると、2024/07/02/21:03と書かれている。つい15分前のことだ。さすがに、こんなに早く運営が利用制限を解除したとは思えない。だとしたらシステムの制限を掻い潜って感想を残したことになる。それか、アカウントを作り直したか。後者の方が現実的ではあるが、果たしてそこまでする必要があるのだろうか。ただのいたずらにしては手が込んでいる……。


 結城さんのSNSのポストには、みるみるうちに「いいね!」がついていった。リポストまでされている。リプを送ろうかと迷っていると、私よりも先にリプを送っている人がいた。私のフォロワーではない、知らないアカウントだった。結城さんとは仲が良いのか、「それは大変だね」と同情のコメントを寄せている。


 リプは一つでは終わらなかった。その後、二、三人が同じように結城さんを心配する声を上げていたが、その中に一人、「天野千秋(あまのちあき)」というアカウントが、「私もおかしなコメントが来ました(泣)」とコメントを残していた。


 私は思わず、その天野さんのリプを二度見してしまった。確か、彼女の名前はキラノベで何度か目にしたことがある。SNSで繋がってこそいないが、同じコンテストに投稿していた作品を読んだこともあった。私と作風が似ていて、切ない青春小説を得意とする作家さんだ。文章も綺麗でファンも多い。いつも、ランキング上位に載っているので、キラノベでは有名な方だ。


 天野さんのリプに対して、結城さんがたった今、返信を送っていた。ストーカーのようだと自覚しつつ、二人のやりとりを目で追ってしまう。



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結城かりん@Yuki_Karin 1m


わ、千秋さんもですか?(汗)

同じ人なのかな……。

ちょっと気分悪いですよね><


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天野千秋@Chiaki_Amano 1m


本当に気持ち悪くて……。

「69,」って人なんですけど、同じ人ですか?


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結城かりん@Yuki_Karin 1m


はい、その人です、同じですね……。

「削除」するか迷ってます。


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天野千秋@Chiaki_Amano 1m


私は「削除」しようかなって。

作品を穢されてる気分になりますし、

他の読者の方に見られたら都合悪いですしね(泣)


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結城かりん@Yuki_Karin 1m


そうですよね。

「削除」してみますっ。

ありがとうございます。


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 二人のやりとりはそこで終わっていた。私は慌てて千秋さんの作品を確認しに行く。彼女が感想を「削除」する前に、どんなコメントが来たのか確認しておきたい。


 感想はまだ消されていなかった。けれど、見なければ良かったと後悔することになる。


【おまえもどうるいか】


“お前も同類か”


 私や結城さんの作品についたコメントと同じように、一文だけのシンプルなコメント。その一文のインパクトは計り知れない。文字の裏から呪いのオーラでも出ているんじゃないかというくらい、どす黒く滲んで見える。じっと見つめていると、心なしかこめかみのあたりがズキンと痛くなった。

 これ以上、この感想コメントを見ていちゃいけない。

 本能がそう告げていた。咄嗟にキラノベのアプリを閉じる。頭痛はまだ少し続いていたが、10分もすると良くなっていた。


「なんだったんだろう……」


 誰かにこの現象のことを話して、話を聞いてほしいけれど、生憎私は一人暮らしで、誰とも共有することができない。

 もう一度Xを覗くと、天野さんが自身のXで「おかしな感想が来ていたので削除しました」と報告をしているのが分かった。



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天野千秋@Chiaki_Amano 5m


キラノベに投稿している作品で、不愉快なコメントを残している人がいるそうです。

私だけじゃなくて、私のFFさんの中でも被害に遭った方が多数いらっしゃいます。

皆さんもお気をつけください。


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 彼女の投稿を見てぞっとする。


 特に、「私のFFさんの中でも被害に遭った方が多数いらっしゃいます」という部分だ。文脈から、結城さんだけじゃなくて、天野さんの他の知り合いの中にも「69,」から感想コメントが来た人がいるのだと分かった。自分だけじゃなかったんだ——と安心することはもちろんできない。今日、編集部の方からいただいたメールには「69,」のアカウント利用を制限したと書いてあったのに、やっぱりどうして? という疑問が拭えなかった。



 「69,」からの不可解なコメントが来る現象はじわじわとキラノベを侵食していた。


 私が知らないだけで、きっと他にも被害者は多数いるのだろう。ふと、キラノベ友達で一番仲良くしている美月は大丈夫だろうかと気になった。美月も青春小説が得意で、よく二人で読み合いをしていた。彼女のXを覗きに行ったが、特に新しい投稿はしていない。彼女の作品を確認してはいないけれど、どうやら被害には遭っていないようでほっとした。


 この騒動はいつまで続くのだろう。

 編集部の人たちは把握しているのだろうか。

 もう一度「問い合わせ」を入れてみようかと迷ったものの、昨日も問い合わせをしていたのでさすがにちょっと憚られた。それに、一度然るべき対応はしていただいている。他のユーザーからも同じような問い合わせが来ている可能性もある。もう少し様子を見るべきだ——と、この時はまだそんなふうに軽く考えてしまっていた。


 これから自分の身に起こる、恐ろしい怪異がすぐそこまで忍び寄っていることに気づかずに。

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