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そのタイトルを禁句にします。  作者: 葉方萌生
第五章 私がいなくなる前に

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33/35

◾️おわりに

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2025/1/15 17:45

From:support.kiranove@*******

To:hakatamei@******

【当社対応の不備に関しましてお詫びと謝罪】


葉方萌生様


いつもお世話になっております。

キラノベ編集部の鈴木啓太です。


夏にご連絡をいただいてから、随分と時間が経ってしまいました。

その間、私共の方でも例のコメントの件について尽力してまいりましたが、コメントを削除する以外に、手段がない状況が続いております。

これ以上被害が広まれば、サイトの存続自体危ういものになる可能性もあるという話も出ております。


葉方様はその後、いかがお過ごしでしょうか。

ここだけの話、前任の吉岡の身に不幸があり、私共も今後のサイト運営について協議している最中でございます。

葉方様にはご相談いただいていたこともあるので、嘘偽りなく、現状をお伝えいたした次第です。

お力に添えず、申し訳ございません。

どうか、お身体にはお気をつけください。


キラノベ編集部

鈴木啓太

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


【小説サイトキラノベ】https://kiranove******【コモレビ出版文庫 byキラノベ】https://kiranove******


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 夏の騒動から事態は好転しないまま、冬を迎えた。

 年が明け、お正月ムードも過ぎ去った今、新しい1年の始まりに、誰もが忙しなく働いている。

 私はもう、ダメだった。

 仕事は去年の11月に辞めた。きっかけは立花先生の訃報だった。彼女は部屋で首を吊っていたという。自殺だと結論づけられたようだが、私は彼女が自殺などしないということを知っている。立花先生はおよねの怪異に襲われたのだ。


 そして私もたぶん、もうすぐ——。

 すぐそこまで、死神は迫っている。

 仕事を辞めて家の中で引きこもり、一日中布団の中に潜り込んでいても、寒気が止まらないのだ。時々布団から這い上がり、パソコンを開いて小説を書こうとするも、手が動かない。まるで、誰かが私の手を、腕を、肩を、全身を、押さえつけて動けなくしているようだった。


 このまま死ぬのは嫌だ。

 私は、小説家になるという夢を叶えられていない。夢はコモレビ出版でデビューをすることだった。それなのに、こんな、こんなことで……志半ばで筆を折るなんて、できない。


 木枯らしが吹き荒ぶ季節に、部屋の中でカチカチと歯をならしながら、絶望感にうちひしがれていた時、キラノベのサイト上に新しいコンテスト情報が上げられていた。


「モキュメンタリーホラー小説コンテスト……」


 青春小説を得意とするコモレビ出版のコンテストにしては斬新すぎるそのコンテストのタイトルに、釘付けになった。Xでもコンテストについて公式アカウントがポストをしていた。反響も大きく、「応募してみたい」とコメントをしている作家も多い。私は、自分の身体の脈動がドクドクと次第に大きくなるのを感じていた。


 これだ。

 これしか、ない。


 ドキュメンタリー風のフィクションを意味する「モキュメンタリー」の形式で書かれるホラー小説は、近年人気爆発中のジャンルだ。私も有名なものを何冊か読んだことがある。書いたことはないが、大変興味はあった。

 私が今、経験しているこの怪異について書いて、コンテストで受賞できれば——。

 たとえこの命が尽きてしまったとしても、最後の最後にコモレビ出版でデビューを果たすという夢が叶えられるのではないか。そして、多くの読者に自分が書いた小説を届けることができる。大切な人も、仕事もすべて失ってしまった私にとって、「モキュメンタリーホラー小説コンテスト」が最後の希望の光だった。


 コンテスト情報が解禁されてから、一心不乱に机に齧り付いた。

 不思議なことに、あれだけ動かなかった身体も、コンテストのことだけに集中していれば、なんとか動かすことができた。それでもやっぱり、誰かに上からのしかかられているような感覚は拭えない。プロットをつくり、第一章を書き始めたあたりから、頭に鋭い痛みが走るのを感じた。

 ひどい頭痛やめまいと戦いながら、一日3,000字ずつ書き進めた。

 書きながら、キラノベに作品を少しずつ投稿していく。

 普段ならば、原稿がすべて完成してから推敲をし、投稿を開始する主義なのだが、今回ばかりはそうも言っていられなかった。

 私はいつ、命を攫われるか分からない。

 だから、少しでも早く原稿をサイト上にアップしなければならなかった。

 少し書き進めて投稿してはXで宣伝をし、また書き始める……というのを繰り返す。不思議なことに、当該作品に対しては「69,」からの感想コメントはつかなかった。

 どうやら「69,」のコメントは、青春・恋愛系の小説にばかり書かれるらしい。

 園子は——いや、およねは不倫をされた女の怨念であるから、この現象には納得がいった。


 そして、私はなんとか年内に約8万字程度のホラー小説の原稿を書き上げた。

 初稿を書き終えた時、私の右腕はもう、再起不能なほど動かなくなっていた。


  キラノベ上に投稿した自分の作品を確認すると、一部文字化けが起きていることに気づいた。すべて、結人の小説のタイトルを書いた部分だ。何度修正しようとしても文字化けはなおらない。しかし途中で、タイトルは文字化けのままの方が良いというふうに考え直す。


「あのタイトルを口にしたら……」


 私や、結人や、立花先生のように、消されてしまうかもしれないから——。

 だから、これを読んでくださった読者の方におよねの怪異が近づかないように、文字化けはそのままにしておく。

 どうか、間違っても文字化け解析ツールは使わないでください。もし解析したとしても、絶対に口には出さないで。

 神谷結人のデビュー作のタイトルは、禁句にします。



 1月15日の今日、久しぶりにキラノベ編集部の鈴木さんよりメールが届いた。

 これまで「69,」に対して対策を練ってきたけれど、感想コメントの怪異を解決できないことへの謝罪だった。行方不明だった吉岡さんにも不幸があったということを知り、本当に申し訳ない気持ちになった。それから私の身を案じてくれていることも分かり、胸がぎゅっと締め付けられるように苦しかった。


 ごめんなさい、編集部の皆さん、吉岡さん。

 ごめんなさい、キラノベユーザーの皆さん。読者のみなさん。

 私のせいで、キラノベがなくなってしまったらと思うと、息ができそうにありません。


 せめて、コンテスト締切の1月27日までに、完璧な原稿を仕上げておきます。

 私がいなくなったあと、「69,」の怪異が終わりますように。

 キラノベがこの先もずっと存続しますように。

 創作仲間たちの今後のご活躍を願いつつ、私はここで、一度筆を置きます。












 





 首筋に、ひんやりとした感触が伝う。

 バチン、と部屋の電気が消えて、私は一人、暗闇に放り込まれた。

 激しい悪寒が止まらない。

 身体が金縛りにあったかのように硬直し、身動きが取れない。

 それでも、身の危険を感じた私は、思い切って後ろを振り返った。


 帯締めのないはだけた着物を引きずるナニカ。

 黒目のない瞳、暗闇でも分かるほど振り乱された長い髪の毛、私の首に向かって伸ばされる白い手。


 そこにいたのは、私を今まさに冥界へと連れて行こうとしている怪物だった。

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