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そのタイトルを禁句にします。  作者: 葉方萌生
第五章 私がいなくなる前に

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31/35

◾️雪村萌香 タイトル

<コメント>


「『潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい』に感想が書かれました」


【6j5k4d_i0qdfe.】

2024/08/21/21:03


【ckbf69,】

2024/08/21/21:11


【6j5q@:f8.xue】

2024/08/21/21:23



***



 結人が亡くなったと知ったのは、8月25日のことだ。


 4日前に、何かの怪異を感じた私は、その瞬間に大きな叫び声を上げた。「うわああああ!」と叫ぶと、ふっと首元から冷たい感触がなくなり、なんとか首を動かすことができた。ゼエゼエと荒い息を繰り返し、なんとか呼吸を保っていた。


 しかしその後もずっと、何かにつけて誰かに見られているような感覚や、冷や汗、突如襲いくる頭痛が止まらなくなり、しばらく会社を休むことにした。

 青木先生からは「雪村さんも?」と心配されたが、心の中では心配よりも迷惑だと思われている可能性がある。なにせ、立花先生も同じように休職をしており、職場からどんどん人間が減っているからだ。


 休職をして4日目の朝、惰性でつけたテレビに映し出された「墨田区マンションに男性の絞殺死体」という見出しに、目が釘付けになった。


「結人……」


 ニュースキャスターが「瀬戸祐介さん」という名前を口にした瞬間、何かの間違いではないかと耳を疑った。けれど、しっかりと画面に映し出されたその名前を見て、ひどいめまいがして現実から目を逸らしたくなった。


 結人が亡くなったのは、8月20日の明け方のことらしい。ちょうど私が、8月19日の夜に「最近どう?」と彼に連絡を入れた直後のことだ。


 あのメッセージを見ることなく、彼は死んでしまったのだ。

 一体なぜ——と考える間もなく、ニュースは彼が首を絞められたと告げた。他殺の可能性が高い、と。結人は他人に恨みを買うような人間ではなかった。まして自殺をするような人でもない。仕事に対して前向きだし、学生時代も常に人気者だった。私は、そんな結人のことがまぶしくて、彼と友人であることが誇らしくて……彼に、恋をしていたんだ。


 結人を殺したのは、人間じゃない。

 どうしてか、そんなオカルト的な考えが頭を支配した。


「園子……。いや、“およね”」


 頭に浮かぶのはやっぱり、園子——に取り憑いた“およね”だった。

 確たる証拠があるわけではない。でも、結人が失踪する直前に園子の名前を呟いたこと、不可解な結人の死、園子の遺書の内容を照らし合わせると、もうそれしか考えられなくなった。


 およねという怪物が、園子に取り憑き、彼女を殺してしまった。

 死んだ園子が今度は結人まで襲って……。

 それだけじゃない。キラノベでの感想コメントは私や他のユーザーの作品にまで侵食している。もしかして、立花先生も? でもどうして。彼女はキラノベで小説を書いているわけでもないし、結人と知り合いであるわけでもない。私が知らないだけで、小説を書いていたり彼と知り合いだったりする可能性はあるが、他の可能性は考えられないか?


「そういえば立花先生も、様子が変だったな」


——ん、やからその本のタイトルは、んごぎゃぎゃぎゃがっゆん


 私が体調不良で早退した日に、お見舞いに来てくれた彼女から、去年の夏季合宿で一時的に行方不明になった生徒が読んでいた本のタイトルを聞いた時。

 彼女の口から、鶏の首を絞めたような声が漏れた。

 結局その本のタイトルを、私は理解することができなくて。

 自分の耳がおかしくなってしまったんだと錯覚していた。

 だけど、本当は結人の本のタイトルをちゃんと言っていたんじゃないだろうか。結人やキラノベとは繋がりのない彼女がおかしくなるには、それぐらいしか考えられる理由がない。

 彼女が口にした本のタイトルは、神谷結人のデビュー作『莠ャ驛ス蟄ヲ逕滓オェ貍ォ』——。


「ううっ」


 カキーン、カキーン、と痛いぐらいに高い音が耳奥で鳴り響く。まるで、これ以上その本のタイトルのことを考えるなと脳が拒否しているようだった。

 ぐらつく頭を押さえながら、XのDM一覧を開く。職場との関わりを絶ち、結人まで失ってしまった私にはもう、この一連の怪異について相談できる相手は一人しかいなかった。



-----------------------------------------------


美月さん


朝からご連絡してすみません。

どうしても、今相談したいことがあってメッセージを入れました。

美月さんにしか、話せないので……。


キラノベでずっと不快な感想を残している「69,」のことです。

この「69,」って、どういう意味か分かりますか……?

いま、私の周りで不可解なことが続いています。

ニュースでご覧になったかもしれませんが、私がXで居場所を探していると投稿をした瀬戸祐介——神谷結人が亡くなりました。

私は、彼は人間ではないナニカに殺されたんだと思います。

もっと直接的に言うと、「69,」が結人を襲ったんじゃないかって、思うんです。


「69,」って名前にもし何か手掛かりがあるのなら、この怪異から逃れられる術が見つかるんじゃないかって、思って……。

こんなこと聞かれても、分からないですよね><

最近、ずっと体調が芳しくなくて、これも「69,」の怪異なんじゃないかって思っています。


もし少しでも何か知っていることがあれば、教えて欲しいです。

私や美月さんにも危険が迫る前に。


-----------------------------------------------



 藁にもすがる思いで、美月にDMを送った。

 普段から何かと他人のことを気遣ってくれる彼女のことだから、私以上に気づいていることがあるかもしれない——そんな、一縷の望みにかけた行動だった。

 とはいえ、時刻は朝10時20分。普通のサラリーマンなら彼女は仕事中だろう。きっと返信は夜以降になる、と覚悟をした時だ。

 ピコン、という通知音と共に、XのDM一覧に通知マークが現れた。美月だ。そのあまりの返信の早さに驚きつつ、彼女からのメッセージを開いた。



-----------------------------------------------


萌生さん


メッセージをくださってありがとうございます。

萌生さんが先日神谷さんについて投稿をしていてからずっと気が気でなかったので、こうしてご連絡くださってほっとしています。

と同時に、神谷さんが亡くなったと知って、正直びっくりしてなんと言えばいいか……。


ニュースもたった今確認しました。

他殺の可能性が高いと。私も、神谷さんについては本についてしか知りませんが、あんな素敵な小説を書く方が自殺とは考えられません。

それに、彼のキラノベの作品にも「69,」から感想が来ていたんですよね。

萌生さんのおっしゃる通り、「69,」の怪異が迫っていると考えるのも自然だと思います。

私は正直、オカルト的な話は信じないタチなんですけど、私自身、「69,」からコメントが来てからというもの、なんだかずっと落ち着かないんです。


恋人に浮気をされたのも、あのコメントが来てからですし……。

関係ないのかもしれないですけど、身の回りで起きる不幸が、どうしても「69,」の仕業ではないかと思ってしまいます。

神谷さんにはご冥福をお祈りします。


それで、「69,」の名前の意味について、ですよね。

私もずっと考えていたんですが、分からなくて……。

お力に添えず、申し訳ありません。

今日、ちょうど仕事が休みなので私の方でも調べてみますね。

あ、言ってなかったかもですが、私サービス業なので、平日に休みになることが多いんです。


大丈夫です! きっと手掛かりを見つけてみます。

萌生さんの方も、大切な方が亡くなりお辛いでしょうから、今は心を休めてください。

休める状況ではないかもしれませんけれど、「69,」の件については私が調べます。

また何か分かれば、すぐにご連絡しますね。


-----------------------------------------------




 美月からのDMは、私への気遣いに溢れた、優しいものだった。

 社会との関わりが絶たれてしまった今、彼女からのメッセージがジンと心に沁みる。心の中で「ありがとう」と呟き、しばらく何も考えないようにして過ごした。


 仕事に行かない一日は、余計に長く感じられた。

 体調はずっと芳しくなく、時折襲ってくる頭痛により、何もやる気が起きない。食事に関しては、少しでも動けそうな時には自炊を頑張ったものの、難しければ宅配サービスを利用した。コンビニで食べられそうなものを買い込んで、消費するだけの日もあった。とにかく、結人がいなくなってからの私の生活は、荒んでしまっていた。

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