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そのタイトルを禁句にします。  作者: 葉方萌生
第五章 私がいなくなる前に

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◾️2025.11.2「福岡市女児変死事件:学校関係者聞き取り記録」

※この記録は、先月14日に死亡した福岡市立水端小学校二年三組の石川愛美ちゃんの担任であるY先生に行った聞き取り調査記録である。なお、ボイスレコーダーに一部ノイズが混じり、はっきりと記録に残せない箇所が存在した。その部分は「◾️」で記載する。



<水端小学校二年三組担任Y先生の証言>



 えっと、こういうの初めてなので、何から話せばいいか……。

 ちょっと私の方も事件直後は気が動転していたこともあって、冷静になれていなくて、インタビューに答えるのが遅くなり、申し訳ございません。

 保護者の方からも多数問い合わせをいただいているのですが、実のところ私も愛美ちゃんが亡くなった原因を、はっきりと把握できていなくて。

 一部の保護者の方から「いじめがあったんじゃないか」「担任が見て見ぬふりをしているんじゃないか」「都合が悪いから黙秘しているのではないか」と、いろんな憶測の声が飛び交っておりまして。もちろん、すべて違うと言いたいのですが、だからじゃあどうして亡くなってしまったのか、と理由を突っ込まれると何も答えられないんですよ。


 

 いじめ? いや、さすがになかったと思います。

 まだ小学二年生ということもそうですし、陰湿ないじめのようなものより、友達同士の取っ組み合いとか、女子同士の口喧嘩とか、そういう類のトラブルは多々ありましたよ。でもこのクラスは特別というわけではなく、低学年のクラスなんて、どこもそんな感じです。教師を始めて10年目になりますけど、小さなトラブルはどのクラスにもつきものなので、それほど心を乱されることもないです。も

ちろん、新人の頃はどうしたらいいかわからなくて、よく塞ぎ込んでいましたけれど。今は多少のトラブルは何とも思わないですね。



 そもそも愛美ちゃん自体、いじめられるようなタイプの子ではありませんでした。

 大人しくて、成績も良く、どちらかと言えばうちのクラスでは慕われている存在でした。だから、彼女がいじめられるような所以はどこにもなかったと思います。もちろん、だからと言って絶対にいじめが起きないわけじゃないですけれど。今回の件で彼女と仲の良かった子に何人かいじめがなかったか尋ねてみましたが、全員首を横に振っていました。



 だから私が彼女が亡くなった件について話せることは本当に何もないんですけど……せめて、当日のことだけでもお伝えしておきます。

 その日は朝の会で読書を行なっていました。

 朝の会での読書は、毎週火曜日と木曜日の週2回で行なっています。時間は15分で、みんなそれぞれに好きな本を読んでいます。図書館で借りてきた本を読む子が大半ですが、愛美ちゃんはいつも本を持参していたような気がします。読書好きな子だったので、きっと自宅にもたくさん本があったんでしょう。隣の席だった男の子に聞いたら、なんだか難しそうな本を読んでいて、タイトルは漢字だけだったので読めなかったと言っていました。その時、その男の子は愛美ちゃんに聞いたそうなんです。「何の本読んでるの?」って。そしたら愛美ちゃんは快く答えてくれたみたいなんですけど、やっぱり難しくてタイトルは覚えられなかったそうです。

 私、こう見えて本好きなので、ちょっと気になって。彼女がどんな難しい本を読んでいたのか知りたくて、保護者の方にそれとなく聞いてみたんです。そしたらあれでした。ご存知かどうか分かりませんけど、神谷結人さんの小説『◾️◾️◾️◾️◾️◾️』です。ええ、あのベストセラー小説です。ご存知なんですね。私も読んだことのある本でした。それにしても、驚きますよね。小学二年生の子が、大人向けの青春? 恋愛小説? を読んでるんですから。



 とにかく愛美ちゃんがその日の朝の読書タイムで読んでいたのは『◾️◾️◾️◾️◾️◾️』だったみたいです。……それで、その後一時間目が始まる前に泡を吹いて亡くなったのは報道されている通りです。ちょうど私が、職員室に授業で使うプリントを取りに行っている間でした。教室に戻った途端、生徒たちの悲鳴が聞こえて。何事かと思って慌てて教室の中を見渡したら、愛美ちゃんが倒れていたんです。必死で呼びかけましたが、反応もなく……。すぐに救急車を呼びましたが残念ながら……。首を絞められたような跡があったというのは本当にどうしてか分からなくて……すみません。

 あの瞬間のことは私の中でもトラウマになっていて、目で見たことをこうしてお話しすることしかできません。職員室に戻っていた時間はせいぜい5分程度でした。その間に部外者が侵入したという証言も、子供たちからはなかったです。

「突然愛美ちゃんが叫び声をあげて泡を吹いて倒れた」——隣の席の男の子はそう言っていました。

 私は、何が何だか分からなくて、今もこうして混乱しています。

 はい、はい……すみません、こんなことしか話せなくて。



 え、さっきから私の表情がおかしい、ですって?

 なんででしょう。ふつうに話してるだけなんですけど。

 ずっと笑ってる? いやいや、私、すごく辛いんですよ。可愛い教え子が亡くなって。しかもそれを私のせいだなんて言う保護者もいて。確かに監督不足だったのは否めません。でも私は……私は、何もしていないのに。



 ふふっ、ああ、へっへっ、あれ、おかしいなあ。

 なんだか笑いが込み上げてくるみたいです。

 あれえ、なんででしょう?

 ねえあなた、さっきの本のタイトル、なんだったか覚えてますか?

 私、頭がぼーっとして忘れちゃいました。

 もし覚えてたら教えてくださいよ。

 ほら、もう一回読みたくなっちゃいました。


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