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そのタイトルを禁句にします。  作者: 葉方萌生
第四章 人気作家を取り巻く一連の事件

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◾️雪村萌香 探しています

 朝日のまぶしさに目を覚まし、無意識のうちにスマホを開いた。時刻は午前7時半。開いた画面に映し出された結人とのトーク画面に果たして返信は——なかった。


「うわ、もしかして朝まで仕事してんのかな」


 これだけの時間返信も既読もつかないということは、結人もかなり追い込まれている証拠だ。私は、諦めて自分の仕事へと向かう支度を始める。

 その日も立花先生はお休みだった。

 昨日とは違い、空きコマの先生がいたので、合同授業をせずに済んだ。でも、このまま立花先生が休み続けるとさすがに何か策を考えなければいけない。青木先生曰く、彼女から連絡がないそうで、困っているとのこと。


「雪村さんからも連絡とってみてくれへん?」


 青木先生は苦い表情で私にそう告げた。


「はい、連絡してみます。それにしても立花先生が無断で欠席なんて……何かあったんでしょうか」


「俺もちょっと気になっててん。立花先生のことやから、何の連絡もせずに休むなんてことないと思ってんけどな。もしかしたらすごい熱が高くて連絡すら取れへん状態とか、入院しててスマホ見れないとか。まあそれやったらまだいいけど、事故に巻き込まれたりしてへんかって心配やねん」


「そうですね。ただの体調不良ならいいですけど……」


 青木先生は青木先生なりに、立花先生のことをかなり心配している様子だった。立花先生受け持ちの授業をどう回すかを一番気にしているかと思っていたので、意外だ。


「男の俺が連絡するより、雪村さんみたいな歳の近い女の子が連絡する方が何か返信してくれるかもしれへんし、よろしく頼んだよ」


「分かりました」


 青木先生に言われたとおり、私は早速立花先生に連絡を入れてみた。案の定「既読」はすぐにはつかない。夏季合宿から——つまり四日前から休んでいる彼女は、一体今どうしてるのだろうか。


 日を追うごとに心配な気持ちは高まっていく。

 それは、昨日から返信がない結人に対しても同じだった。



***


 今日は残業をせずに帰ってくることができた。

 結局あれから立花先生からも、結人からも返信はない。どちらも未読状態のままだ。余計に不安は募るばかり。

 昨日の疲れが溜まっていることもあり、自宅に着くとすぐに食事を作ることはせず、コーヒーで一服した。最近、肩の力が入りすぎていることもあり、ひと息つく暇もなかった。コーヒーを飲み干したあと、久しぶりにキラノベを開く。


 予定調和のように、そこには「『潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい』に感想が6件書かれました」の赤文字が浮かび上がっていた。

 久しぶりに、その赤文字をタップする。ほとんど無意識で行っていた。



【k_eb_pq】


【k_eb_pq】


【k_eb_pq】


【k_eb_pq】


【k_eb_pq】


【k_eb_pq】




 同じ感想コメントが、10分おきに6つも届いていた。

 送り主は言わずもがな「69,」だ。


「どういう意味?」


 アルファベットと記号を組み合わせたその文字は、何かのパスワード、暗号のようにしか見えない。今までは日本語で全て入力されていたのでコメントを見た瞬間にゾッとしたけれど、今日ばかりは事情が違っていた。

 ぱっと見て何を伝えたいのか分からない文字列のせいで、恐怖心よりも疑問が膨らんでいく。


「何がしたいのよ」


 暗号なら何かの法則にしたがって文字が並んでいるはずだ。だが、何のヒントもなしに解けるはずがない。それにこのコメントだって、明日には運営が削除してくれる。暗号を解くことに何か意味があるとは思えなかった。

 なのに。

 それなのに……。

 さっきから、ずっと、耳元で誰かが囁いているような気がするのは、気のせいだろうか。

——のろいころせた


——のろいころせた


——のろいころせた


「もう、うっさいわね!」


 誰もいない虚空に向かって私は叫ぶ。耳鳴りのような囁き声はすぐになくなった。けれど、しばらくの間動悸がおさまらない。私は目を瞑り、耳を塞ぎ、暴れる心臓が鎮まるのを待った。


 やがてドクドクと流れる血流が静かになったのを感じて目を開く。もちろん誰もいない。囁き声も聞こえない。私は何に怯えていたのか——何も分からないまま、けれど全身はまだカタカタと震えていた。


 スマホを開く。結人から返事がない。既読がつかない。立花先生も。そんなこと、あるだろうか? 二人同時に、これまでは連絡をすればすぐに返信をしてくれていたような人たちが、どちらも未読スルーを決め込むなんて。そんな偶然が、あるのだろうか。


 特に結人の方は、昨日から連絡を入れている。

 いくら忙しくても、たとえば食事をする時とか、寝る前とか、一回ぐらいはスマホを見るだろう。それでも返信がないということは——彼の身に何か不測の事態が起きたとしか思えなかった。


「結人……」


 連絡が取れない以上、私から何をすることもできない。電話もかけてみたが、案の定出てはくれない。

 私は呼吸をするのも忘れて、Xを開いた。

 もうほとんど無意識のうちに、新規ポストを入力していく。



------------------------------


葉方萌生@HakataMei 1m


【拡散希望】

昨日から、私の友人でもあり作家の神谷結人と連絡が取れなくなっており、彼を探しています。

彼は小説投稿サイト「キラノベ」で榊しのぶ名義でも活動している者です。

彼と最後に電話をしたのが8月9日のこと。

その後、昨日8月19日の夜に連絡を入れてから今まで返事がない状態です。


------------------------------




------------------------------


@HakataMei


まだ連絡が取れなくなってから1日しか経っていないといえばそうですが、

普段から連絡はマメな人なので、心配です。

彼もキラノベで問題になっている例の感想コメントの被害に遭っていました。

もし何かご存じの方がいらっしゃれば、

私までご連絡ください。

よろしくお願いします。


------------------------------




 文章が長くなったので、リプ欄にツリー状態で現状を書き綴った。

 実際はまだ彼のことを「探している」というところまでは至っていないのだが、少々大袈裟に書いた方が反応があるかもしれない。そんな目論見だった。


【拡散希望】と入れたことで、私のポストは1分、また1分と時が過ぎるごとに、どんどん拡散されていく。私のXのフォロワーはせいぜい300人程度なので、フォロワー以外の人にもこのポストを届ける必要があった。

 リプ欄には、普段キラノベで仲良くしている創作仲間たちから、心配の声が寄せられた。


「萌生さん、それは心配ですね。拡散協力します」

「神谷結人さんとお知り合いだったなんて。しかも、キラノベでも活動されていたんですね」

「早く見つかりますように」


 どのコメントも私や結人のことを案じてくれるものばかりでほっとする。SNSで呼びかけることで、もしかしたら結人本人の目に留まり、彼から連絡が来るかもしれない。普段あまりこういったSNSをしない彼のことだから、望みは薄いけれど。ネットニュースにでも取り上げられれば、さすがに本人も黙ってはいられないだろう。


 私は、祈るような気持ちで自分のポストが広がっていくのを見つめた。

 早く、早く、届いて。

 何事もなく、無事であると言って。

 何か事件が起きたと決まったわけでもないのに、結人の身が無事であることを願っている自分がいた。

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