第十話 ともだち
「待ってたのよぉ!!」
「ただいま。マーティー」
「あらっ! まあ!! もう、ラヴィちゃんったらぁ」
ラヴィリオラにマーティーと呼ばれた人物はそう言うと、ラヴィリオラに小声で続けたのだ。
「彼ピかしら?」
マーティーにそう尋ねられたラヴィリオラは、全身を真っ赤にさせて小声で答える。
「まだ……」
「ふ~ん」
そんな二人のやり取りに、完全に蚊帳の外になっていたノエルは、面白くないと感じてしまう。
不満そうな表情のノエルに、いち早く気が付いたマーティーは、朗らかに笑って手を差し出すのだ。
「うふふ。あたしはマーティーよ。ラヴィちゃんのお友達よ」
「ノエルです……」
差し出された手を戸惑いつつも握ったノエルは、思いのほか強い力で引き寄せられて目を丸くさせた。
「大丈夫よ。あたしにはちゃんと愛する彼ピがいるから安心して。ラヴィちゃんとは、仲のいいお友達よ」
そう言われたノエルは、無言でマーティーを見つめてから無言で頷くのだ。
ノエルの反応にマーティーの方が、目を丸くさせていた。
「あら……。あなたっていい人ね?」
そう言われたノエルは、何でもないことのように返す。
「そういうのって人それぞれだと思いますよ」
「もうっ! いい子なんだから!!」
感激したようにそう叫んだマーティーは、ラヴィリオラ以外で初めての反応に感激していた。
マーティーは、人よりも大きな体、褐色の肌、スキンヘッドで、極めつけに趣味で布面積の少ない衣服を着ていた。その外見のせいで初めて会う人には、変な視線を向けられることが多かったが、自分の主義主張を他人によって変えることには抵抗があったのだ。
その上、恋愛対象が同性ということで、大抵の人間に白い目で見られがちだった。
それなりの時間を共に過ごせば、その人となりが善人のそれだとわかるが、初見では難しかった。
ノエルとしては、ラヴィリオラに惚れていなければなんてことはなかったのだ。ただそれだけの話だったのだ。
「ノエル。改めて紹介するよ。この人はマーティー。わたしの友達で、ギルド嬢だ。マーティー、彼はノエル・ゾーシモス令息だ。わたしのパーティー仲間だ。長期休暇を一緒に過ごすってことで連れて来た」
ノエルはマーティーの紹介について一部おかしな部分があったが、それを受け流して改めて挨拶をしていた。
「俺のことはノエルでいいですよ」
ノエルの見事なスルーっぷりに、明るく野太い笑い声をあげたマーティーは、愛嬌のあるウインク顔で答える。
「おっけーよ。あたしのこともマーティーでいいわ。よろしくね」




