レンタル☆魔法少女
「レンタル魔法少女……?なんだこれ?」
自宅にあるパソコンの画面には『レンタル☆魔法少女』と書かれたサイト。
こんなサイトを開いた記憶はないし、俺は一人暮らしなので他にパソコンを触る人もいない。
疑問に思いながらページをスクロールしていく。
「このサイトに辿り着いた人限定!魔法少女をレンタル出来ます!って書いてあるけど、嘘くさいなぁ」
完全に詐欺に誘導する作りじゃん。とは思ったが、平日は仕事漬けで休日の趣味もない俺。
昨日の夜飯に何を食べたかを覚えてないぐらいには虚無な生活を送っている。
魔法少女をレンタルしたら、何か新鮮な刺激を得られるかもしれない。
俺は何かに背を押されるように依頼することを決めた。
「なになに……?魔法少女のランクを決める?」
どうやら、まずは魔法少女のランクを決めるようだ。
若葉:魔法少女になりたてだけど、やる気はあります!
紅葉:魔法少女として中堅レベル!
神:世界も救ったことがある!?数名しか在籍していません!
ランクの名称に若干の癖があるのは置いといて、三段階のランクに分かれているようだ。
「いやそもそも、漫画とかアニメで魔法ってよく見るけど、現実には存在しないでしょ」
魔法の存在に対して疑心暗鬼になりながらもランク『神』を選択する。
レンタル魔法少女に限らない話だが、折角頼むのなら最上ランクを選びたい心理はなんなのだろうか。
「次は『依頼内容』か。特になければ飛ばしてもいいみたいだな」
折角『神』を選択したからと、依頼内容を考えてみる。
──ご飯を作ってほしい。
──家を掃除してほしい。
いや、家政婦か。
心の中で自分にツッコミを入れつつも、ろくな依頼内容が思いつかない。
画面の前で腕を組んで深く考える。
「そういえば、迷い猫を探してる紙がパソコンの後ろにあったな」
依頼内容には『迷い猫探し』と書いておいた。
そして、日程や場所を指定して決定ボタンを押す。
「日程は今日で、場所は俺の家にしたけど、魔法少女……ホントに来るのか?」
ピンポーン。
インターホンが鳴る。
「え、もう来たのか?」
インターホンを覗いてみるが誰もいない。
扉を開けて周囲を見渡してみても誰一人いない。
「いたずら……?」
扉を閉めようとしたその時、どこかからか声が聞こえる。
「どうもどうもー!ご指名ありがとうございますー!!」
ハッキリとした滑舌の中にどこか幼さが残る柔らかい声質。
俺は反射的にレンタル魔法少女の声だと確信した。
声の主を探すようにしてマンションの柵を覗き込むと、箒にまたがった女性がふわふわと浮かんでいた。
「え、ここ九階だよな……貴女は一体……?」
「レンタル☆魔法少女だよ!!」
数刻後、自宅のリビングで俺とレンタル魔法少女は向かい合うようにして座っていた。
俺は不思議と警戒心はなく、むしろ何故か安心感さえ覚えていた。
魔法少女の放つ安らぎのオーラか何かの影響だろうか。
「改めましてご指名ありがとうございます!レンタル☆魔法少女の"ムーン・キャロル"ですー!」
「俺は田中です……それより、気になる事を聞いても良いですか?」
「はい!いいですよー!」
紫色の魔女帽子。
紫と黄色を基調にしたローブ。
先ほどまで乗っていた箒はどこかに消えている。
魔法少女というよりかは魔女の見た目なイメージが近いが、一旦それはいい。
「魔法って……現実に存在するんですか?」
「…………魔法はありますよー!」
「あ、あるんだ」
キャロルの返答までに不思議な間があったが、彼女なりに俺の質問の意図を汲んでから答えてくれたのだろう。
「魔法少女によって得意な魔法の系統はあったりするんだけど、私は何でも得意!」
キャロルが手を叩くと、どこからともなく一匹の三毛猫が現れた。
「はい、この猫ちゃんを探してたんだよね?」
「え、どこから……?てか、なんで猫……?」
「あれ、依頼内容は『迷い猫探し』だったよね?見つけてきたよー!」
「あ、そうだった……」
キャロルの存在に圧倒されて、俺が依頼していた内容を完全に忘れていた。
「探し物ぐらいだったら『若葉』ランクの魔法少女でも出来るんだよねー」
「……そういえば、世界を救ったことがあるって本当ですか?」
「まーね。話してあげるけど、この猫ちゃんを飼い主さんに返してからにしよう!」
キャロルが何かを呟くと、空間に裂け目が開いた。
俺の部屋からどこか別の場所が見えているのはとても奇妙な光景だ。
「ほら、靴持って付いてきてー!」
三毛猫を抱えて裂け目へと入っていく。
信じられない。
本当に別の場所に移動してる。
振り返ると裂け目から自分の部屋が見えている。
三毛猫は身体をよじらせ、目の前にあった一軒家へと入っていった。
「よし!じゃあ世界を救った話だね!」
キャロルが俺の部屋に戻るので後を追う。
温かいカフェラテを出してあげたところで、キャロルは話し始めた。
「うーんとね。田中さんって十分前のこと覚えてる?」
気のせいだろうか。
今までキラキラとしていたキャロルの目から光が消えたように感じる。
「十分前?」
十分前というと、『レンタル☆魔法少女』のサイトを見つけた時ぐらいだろうか。
もう少し前かな。
それより前は……あれ?
何をしていたかを覚えていない。
「……覚えてない!?なんで!?」
「やっぱ覚えてないかー。実はね、田中さんはこの世界の人間じゃないんだよー!」
「…………は?」
意味が分からない。
そんな訳ない。
だって、昨日も一昨日も俺は、仕事をして……
あれ、記憶が全くない。
何も覚えてない。
レンタル魔法少女のサイトを見つけてからの記憶しか残っていない。
「たまにいるんだよー。”別世界から迷い込んで来る人”がー」
「別……世界……?」
「私ぐらいになると誰かがこの世界に迷い込もうとした時点で気付くからねー。私がパソコンに『レンタル☆魔法少女』のサイトを開いておいたんだよ!」
待て待て。
何も理解が追いつかない。
俺が別世界から迷い込んでいる……?
迷い込んで来るのを見越してパソコンに『レンタル☆魔法少女』のサイトを開いておいた……?
「そもそも、この世界に魔法を知らない人はいないから田中さんの存在は異質なんだけど……まあ結論言っちゃうと、田中さんは”何か”がこの世界を観測する為の媒体のような物なんだよー」
身体から鼓動を感じる。
胸に手を当てるとドクドクと動悸がする。
なんだこれ。
「今、田中さんから心臓の音がするようになったー!!直前まで田中さんに心臓は無かったんだけどー気付いてる?」
「……どういうこと……?俺って一体……?」
「”媒体”は本来、心臓を必要としないからねー」
キャロルが一言唱えると、俺の身体が淡く光り出した。
「次元の違う存在……いわゆる上位存在がこの世界を観測する為の媒体が田中さん。って説明してもよく分からないよねー」
頭がフラフラする。
今すぐにでも倒れそうだ。
「観測してる目的は分からないけど、もしかしたらこの世界に危害が及ぶかもしれない。だから私たちは事前に防いでるの!」
あれ、俺、床に倒れてる。
いつの間に。
立ち上がれない。
意識が、無くなる。
「これが『レンタル☆魔法少女』である私。ムーン・キャロルの世界を救ったことがある話だよー!!」




