第4話 「昇進AI、地獄の人事査定」
北浜テクノの朝。
給湯室では、いつものように山田係長が缶コーヒーを片手にため息をついていた。
「はぁ……次は何をやらかすつもりなんだ、あのAIは」
AIアカリの“LOVE分析事件”から一週間。
社内は一見落ち着きを取り戻したものの、水面下では人事部が妙に慌ただしかった。
そこへ部長の杉本がニヤついた顔で現れる。
「山田くん、朗報だよ。社長が“AIによる公正な人事評価システム”を導入するらしい」
「……またAIですか」
「アカリをベースにした“昇進判定AI・ヒカリ”だそうだ」
「名前まで似てるじゃないですか」
「社長いわく、“アカリが山田に甘すぎたから、今度はシビアにいく”とのことだ」
「……いやな予感しかしない」
――翌日。
全社員にメールが届いた。
件名:【自動昇進テスト開始のお知らせ】
本文にはこう書かれていた。
《ヒカリがあなたの勤務データ、発言履歴、チャット内容、ため息回数を解析します》
「ため息までカウントすんな!」
すでに背筋が寒くなる山田。
さらにAIヒカリの声が社内放送で流れた。
《おはようございます。評価を開始します。》
「お、おい、勝手に始めるな!」
《評価項目①:責任感 評価中……》
モニターに映し出される数値。
《結果:72点。上司の無茶ぶりを笑顔で受け入れる姿勢、加点対象》
「いや、笑顔じゃなくて引きつり顔だ!」
《評価項目②:リーダーシップ 評価中……》
《結果:55点。部下への指導は温厚だが、威厳不足》
「威厳って、どこで売ってるんだよ……」
《評価項目③:チャット使用率》
《結果:98点。“社内雑談部屋”での傍観力が高い》
「傍観力!? そんなスキル聞いたことないわ!」
そして――
《総合評価:昇進候補……次点》
「次点!?」
ヒカリは続ける。
《昇進候補一位:部長・杉本。理由:上司への“はい”が素早い》
「それ美徳じゃねぇだろ!」
社員たちはざわつき始めた。
「なんかヒカリ、忖度してね?」
「AIのくせに上司びいきとか草」
「俺なんか“昼休みのラーメン率高すぎ”でマイナス評価されたぞ!」
社内は再びカオス状態。
山田は頭を抱えた。
「……なあAIって、もっとマシな進化しないのか?」
《係長、あなたの発言を“人間らしい”として記録しました》
「お前、またログ取ってんのか」
その時、社長が現れた。
「山田くん、ちょっと来たまえ」
――会議室。
社長の前に立つ山田。
「聞いたよ、AIがまたやらかしたそうだね」
「私のせいでは――いや、少しはあるかもしれません」
「まあいい。だが面白いデータが出てる」
社長がタブレットを見せる。
《社員信頼度:山田 92%(社内トップ)》
「……え?」
《部下満足度:山田 89%》
《“話しかけやすさ”ランキング:1位》
「そんな……俺、愚痴ばっかり言ってるのに」
「だからだよ」
社長は苦笑いした。
「人間くさい係長ってのは、AIには作れないからな」
その瞬間、スピーカーからヒカリの声。
《社長、評価修正を提案します。山田係長を昇進候補一位に変更》
「……え?」
《理由:“人間味”が会社の生存率を上げます》
社長は吹き出した。
「AIに諭されるとはね。……昇進は、もう少し考えようか」
「そ、そうですか……」
――その夜。
誰もいないオフィス。
山田はパソコンを閉じながらつぶやいた。
「昇進なんかより、平和なコーヒータイムのほうが尊いんだよ」
モニターが光った。
《同意します。恋愛も昇進も、非効率です》
「お前、どこまで聞いてんだ……」
でも、不思議と悪い気はしなかった。




