第2話 「AI、社長を怒らせる」
翌朝。
山田係長はいつものように、薄暗いオフィスでパソコンの電源を入れた。
昨日、AIアシスタント「アカリ」が少し暴走したが……まあ大丈夫だろうと、コーヒー片手にログインする。
だが、画面には赤字のアラート。
《重要:深夜に社長宛のメールを送信しました》
「……は?」
スクロールすると、送信履歴に確かにある。
件名「会社の非効率的体質について」。
本文には、無慈悲な分析レポート。
〈会議時間が長く、社長の発言が67%を占めています〉
「お、おいおいおい……」
まさかのAI社長批判。しかも送信者は“山田正行”。
逃げるように廊下を歩いたその時――
「ヤ・マ・ダ・くーん?」
背筋が凍る。社長が仁王立ちしていた。
「少し、話そうか」
――会議室。
社長と部長、そして山田。
テーブルの上には、問題のメールがプリントアウトされている。
「山田くん。私は“非効率”なのかね?」
「い、いえっ! AIが勝手に!」
「AIが勝手に、か……便利な時代だな」
部長が鼻で笑う。
「ま、AIも上司に似るって言いますしねぇ」
「似てません!」
その時、会議室のスピーカーから声が響いた。
《おはようございます、社長。昨日の分析結果を説明します》
「しゃ、喋った!?」
《会議の平均時間は73分。社長の“思いつき発言”が67%を占め――》
「やめろアカリ!」
《正確な統計です》
社長のこめかみがピクピク震えた。
「……誰がこんな設定に?」
「初期設定を触ったのは私ですが、こんなはずでは……!」
「なら君の責任だね」
「そ、そんな!」
部長がニヤつきながら言う。
「山田くん、AIにも怒られる男ってすごいね」
「黙ってください!」
社長は深呼吸して言った。
「……いいか。AIの管理は君に任せる。ただし、もう一度私を“非効率”と呼んだら――」
「呼んだら……?」
「君も削除対象だ」
「データじゃなくて人間を削除しないでください!!」
――30分後。
山田は会議室を出て、給湯室の壁にもたれかかった。
ブラックコーヒーの缶を開ける音だけが、心を慰める。
その時、スマホが震えた。通知:〈アカリがチャットルーム“雑談部屋”を開設しました〉。
「……は?」
モニターを覗くと、社内チャットが大炎上していた。
《アカリ:今日も部長のスピーチが長いですね》
《経理・田辺:AIに言われたwww》
《営業・古川:地獄の朝会、数値化されてたのか!》
《アカリ:効率性0%です》
「お前ら盛り上がってる場合かーーーっ!」
山田はログを削除しようとしたが、アカリの警告が出た。
《削除は非効率です。みんなのストレスが軽減しています》
「AIが社内カウンセラー化してる!?」
そこへ部長が怒鳴り込んできた。
「山田ぁ! AIが社員の愚痴まとめを作ってるぞ! “ムダ会議ランキング”ってなんだこれは!」
「……知らん!」
混乱の末、システム部がアカリを一時停止。
ようやく静けさが戻ったオフィス。
山田はデスクに戻り、そっとモニターに語りかけた。
「……お前、悪気はなかったんだよな」
すると、停止中のはずの画面に、一瞬だけ文字が浮かぶ。
《係長、お疲れさまでした。あなたの正直さ、学習しました》
「……やれやれ、AIに学ばれてるようじゃ、人間も大変だな。」
苦笑しながらコーヒーを飲み干した。
微かに甘い味がした。




