009
刑事の俺は、普通にスーツを着込む。
でも、刑事のようなオーラは消していた。
潜伏することも、仕事の上であまりない。
だが、今回の相手は特別だ。
敵はバーコイ・シスチャニフ。
彼女が持っているのは、『エノシガイオス』を携帯化した兵器。
すでに、彼らボルシュニクはそういう兵器を作ることができるのか。
空気を吹きかけるだけで、相手を窒息死させてしまう。
その兵器の実験と交渉のために、彼女はここにいた。
(残念ながら、俺の見える範囲で西洋人はいないんだよな)
展望台に戻ってきた俺。
展望台は、騒然としていた。
エレベーターは完全に封鎖されている。警察の手が回っていた。
階段のカギは、印南だけが持っていた。
鍵の存在も、ほかの客は知らない。
(成りすましているのは、誰と誰だ?)
バーコイと、ジョンソンの二人。
バーコイは、戦争組織ボルシェニクで訓練された女スパイ。
頭もよく、言葉を巧みに使う。
戦争王カシチェイの秘蔵っ子で、天才的なスパイの才能がある。
『エノシガイオス』の爆弾を使い、エノシガイオスにもある程度の耐性があると聞く。
もう一人は、ジョンソン。
こちらは生物兵器を求める組織らしいが、詳しいことはわからない。
展望台にいる人間は11名。
先ほど、エレベーター前が止まった時に数えた。
11名が、いろいろ起きて騒然としていた。
そして、印南がエレベーターの前に立っていた。
「えー、すいません皆さん。警備員の印南です」
目の前に出て、印南が腰にある小さなスピーカーを持っていた。
周りの人間は、彼に注目していた。
「おい、どうなっているんだ?これは?」一人の男が叫ぶ。
「会社の方と連絡を取りましたけど、30分ほどエレベーターが止まるそうです。
それと、女子トイレの方ですが、お客様がなくなっていました」
そういいながら、印南はスマホを見せてきた。
スマホには、一人の老婆の倒れた姿が見えた。
「『うねばあちゃん』」
泣き出しそうな顔で、一人の若い女が悲しそうな声を上げていた。
それは、カップルできていた若い少女だ。
髪を茶髪に染めていて、ネイルも長い。
ミニスカートで、少し日焼けした肌の少女。
年齢的に、高校生に見えなくもないかなり若い女性。
それと同時に、俺は周囲を見回した。
周囲を見回しながら、俺は一人の男の動きを見ていた。
堂々とした様子で、スマホを淡々と見ていた。
俺と同じような、会社員風の男性。
グレーのスーツを着た男性は、少し背が高かった。
背の高い男性に、俺は近づいていく。
遠目から、男に近づく。
近づきながらも覗くスマホには、英語の文章が書かれていた。
(英語?)
俺の気配に気づいたとき、すぐさまスマホを隠す男性。
「何か?」
「いや、大変なことになりましたね」
「あなたは?」
「同じ客ですよ」
刑事であることを詐称し、背の高い会社員に接触していた。
接触しながら俺は、右手で下の方に親指を立てて印南に見せていた。
俺の親指に、印南もどうやらすぐに気づいていた。




