006
話が唐突で、いろいろ戸惑っていた。
何より、エレベーターの封鎖という物騒な言葉が聞こえた。
カフェから、同じフロアにあるエレベーターに向かって走っていく。
この神戸タワーは、かなり高い。
だが、エレベーターは上下一基だけ。
上りのエレベーターは、三階フロアにあった。
下りのエレベーターは、一階フロアにあった。
客は、三階まで到着して一階に降りていくシステム。
つまりは、上りエレベーターが誰も乗せずに一階に向かう。
一階でエレベーターが停止し、客を乗せて下っていく。
そのエレベーターの目の前に立った自分は、愕然とした。
「エレベーターが、下がっていく」
唯一のエレベーターは、どんどん最上階から降りていくのが見えた。
代わりに来るエレベーターは、無線の連絡が正しければもうない。
そんな自分は、すぐさま無線を手に取った。
「本部、本部、応答願います」
だけど、その前にタワーの館内放送が流れた。
『現在22:00になりましたが、エレベーターの故障もありまして現在エレベーターを停止しております。
お客様には、誠に申し訳ございません。
しばらくの間、展望室にとどまりますようにご協力よろしくお願いします』
突然の一方的な、放送が流れた。
エレベーターの前には、どんどん人が集まっていく。
そして、警備員服の自分に近づいてくる二人組が見えた。
「ちょっと、どういうことですか?」
「と、言われましても、館内放送の通りです」
客に対して、困惑の顔で謝罪するしかない。
無線を持った自分も、意味が理解できない。
まるで、この展望室に密室を作ったかのようだ。
(密室、そういえばさっき無線に出たのは警察だよな)
警察が、展望台で何をするのだろうか。
このタワーは、警察に協力の要請は受ける仕組みだ。
だからこそ、自分はどうしても本部に聞きたかった。
『こちら印南』
『本部だ』
『何か、あったんですか?』
『人は周りにいるか?』
無線で聞こえてきたのは、いつも通り本部にいた人間。
先ほど無線に出てきた、警察の国木という人物ではない。
『今は、います』
放送が起こって、エレベーターの前に人がいっぱい集まっていた。
12名、自分の目の前から確認できた。
『よし、その中に犯人が二人いる』
『犯人?』
『そうだ、危険な薬物兵器を持った犯人がいる』
『ちょっと待って、俺は探偵とかじゃないし』
『30分以内に、二人を見つけてくれ。
そこには、刑事も一緒にいるから…協力を仰げ』
『刑事って誰?』
『見ればわかる』
本部は適当なことを言っていた。
前には、12人。
騒いだり、こちらを見たりしていた。
年齢的には、若い人間も年老いた人間もいた。
割合的に女性が多いけど、自分から見たら刑事の姿をした人間はわからない。
『それと、階段のカギはお前が管理しろ。絶対に階段を開けるな』
『それで、納得するんですか?客も』
『どうにかして納得させろ!いいか30分だ。それ以上、封鎖はしない。
それまでに犯人を、必ず捜せ。
事件は、すでに起こっているのだから』
本部の最後の言葉が、自分はどうしても気になった。
そのあと、本部との無線が途絶えた。
おそらく、モニター室からこの展望台を見ているのだろう。
それにしても犯人か。
一体、何の犯人だろうか。
その答えは、数秒後にわかっていた。
「すいません、警備員さん」
出てきたのは、一人の女性。
エプロンを着た女性が、自分に焦った顔で近づいてきた。砂川さんだ。
「なんですか?」
「人が、トイレで倒れています」
その言葉に、自分は驚くしかなかった。




