055
――2日後――
次に目が覚めた時は、白い光が飛び込んできた。
(まぶしい)
眼が眩むほどに、視界に飛んでくる光。
真っ白な光に包まれた俺は、黒い闇から解放された。
「天国か?」
「違う」
俺は目を覚ましたら、それはベッドの上だった。
いつの間にかパジャマに着替えさせられた俺は、まだ呼吸が安定しない。
動くだけで、胸が痛かった。
俺が周囲を見回すと、病室だと分かった。
真っ白い部屋は、昼の明るさでさらにまぶしい。
闇の中から、俺が目を覚ましたのは病院のベッドの上だ。
ここは、神戸市内の大きな病院。
目を覚ました俺は、まだ苦しかった。
隣に座っていたのは、一人の男性。
深緑のスーツを着た伝説の刑事は、年老いた顔をしていた。
「国木さん」
出てきたのは、兵庫県警で伝説の刑事だ。
俺が密かにあこがれたベテラン刑事は、今回の神戸タワーの封鎖を水面下で動いていた。
「まったく無茶しおって」
「でも、耐えましたよ」
「耐えたからって、いいわけじゃない。
あれは最悪の生物兵器だぞ。『エノシガイオス』」
中年刑事の国木は、怒っていた。
怒られて、俺はしおらしい顔を見せていた。
「申し訳ありません」
「でも、どうやって助かったんだ?」
「子供の時に、死にかけたんです。俺。
家が火事になって、三世代が組んでいた三階建ての家は燃えた。
両親と祖父、祖母。子供の俺。でも助かったのは俺一人だけだった。
ほかの四人は、全員死んだ。
でも、俺を助けてくれた人物がいるんだ。その人は消防隊員で、かっこよかった」
「なぜ、そこで消防隊員が出てくる?」
「その時に教わったんだ。
煙や毒ガスを吸わないように、凌ぐ方法を。
煙が立ち込める中、逃げる方法を」
腰を低くして、ゆっくり外に向かう。
幼い時に、消防団員に言われたことをあのエレベーターの時に思いだした。
あの時も、ものすごく呼吸が苦しくなって死にはぐった。
今回は、二度目だ。
もうあんな苦しいことは、ごめんだと思った。
エノシガイオスを吸うことで、俺のような苦しみを味わう人間は出したくない。
そんな気持ちが、俺をこうして生かせたんだ。
「まあ、無事で何よりだ」
「あの後、どうだった?」
「バーコイは、ちゃんと捕まった。
これも、君の勇気あるおかげだよ。
君の体が回復をしたら、君を表彰したいと本部長から話も出ている」
「そうですか」
俺は、自分の手を見ていた。
俺の両手は、まだ痙攣が止まらない。
血液の流れが悪くなったあのガスを、あと数秒吸い続けていたら死んでいたかもしれない。
運よくエレベーターが開き、俺は助け出されたんだ。
「今日は、ゆっくり休めよ。神影刑事」
国木は俺に背中を向けて、俺のいた病室から出ていった。
それと同時に、俺は一人の人間を思い浮かべた。
それは、エレベーターにいたあの女だった。




