054
エレベーターは、ガスが充満していた。
エノシガイオスの空気が、完全に支配していく。
でも、バーコイには抗体があった。
この状態は、圧倒的に俺が不利だ。
エレベーターの密室で、俺に対して最凶最悪の生物兵器を放つ。
だが、俺はそれでも立ち上がった。
「お前は、人間か?」
さすがのバーコイも、驚くしかなかった。
俺はそれでもふらふらになりながら、バーコイの前に歩み寄った。
でも喋ることはできない。マスク越しから、口を開けて俺は耐えていた。
(俺はまだやれる)
再び、バーコイがスプレーに手をかけた。
それを見て俺は、バーコイに突進した。
捨て身のタックルは、バーコイも避けられなかった。
「しまっ…た」
バーコイは、バランスを崩して倒れた。
足がもつれた俺も、小さな体のバーコイの上にのしかかった。
だけど、力が入らない。
バーコイを抑えようにも、腕には力が入らなかった。
体重だけで、バーコイの動きを封じていく。
(大丈夫だ、こいつは)
そんな俺だけど、体格で下回るバーコイは力があった。
大きな体の俺を、押し上げていく。
(え、ちょっと)
俺は、抵抗することもできない。
暴れようにも、体に力が入らない。
バーコイの柔術だ。関節技で、俺の右足を撮って体を入れ替えた。
(簡単にはいかないか)
俺は青白い顔で、一気にバーコイに押しやられた。
小さな体でも、技の切れ味は抜群だ。
右足があらぬ方向に曲がる。
身動きができない俺は、体をあっさり返されて入れ替えされた。
バーコイは再びスプレーを、俺に向けてきた。
その目は、血走っているように見えた。
「ゾンビめ、消えろ」
バーコイは、怒りに満ちた目で俺を見ていた。
俺は、立ち上がることもできない。
喋ることもなく青しい顔で、倒れるしかなかった。
次の瞬間、エレベーターが開いた。
空いた瞬間、エレベーターの前には多くの警官が待ち構えていた。
それがかすかに見えた瞬間、俺は安心して目を閉じていた。




