053
そのガスの色は、赤みがかかっていた。
いや、ピンク色のようにも見えた。
たまらず俺は、スーツのポケットに手を伸ばした。
伸ばした先に会ったのは、白いマスク。これでも一応用意はしてきた。
だけど、あくまで用意したのは市販のマスク。
ピンク色の煙が立ち込める中、俺はマスクをつけた。
(市販のマスクじゃ、やはりダメか)
鼻で息をするも、苦しい。
俺の瞼が、重くなった。
全身に激しい脱力感が起こって、体中から汗が噴き出た。
(やばいやばい、死ぬ)
ラビーネ病院では。このガスで1200人の命が奪われた。
同時に仰向けにして、膝を抱えた。
壁を使って、頭を少し上げた。
膝を曲げて、俺はマスクをしていた。
(これで耐えなければ、死ぬかもしれない)
吹かれたピンクのガスは、俺の意識を奪っていく。
俺はどうしても、死ぬわけにはいかない。
絶対に生きる、何があっても。
俺は死にたくない。
死ぬつもりもない。
だから、こんな場所で倒れるわけにはいかない。
それでも呼吸が、息ができない。
(苦しい)
俺の眉間に、血管が浮き出ていた。
心を強く持って僕に吹き付けられたガスは、僕の顔色を青白くさせた。
血液が、頭に回らない。
苦しいし、心臓の鼓動が速い。
(でも、待っているんだ)
刑事の俺には、守るべき家族がいた。
妻も、小さな子供もいるのだ。
だからこそ、こんなところで死ぬわけにはいかない。
それでも、俺は立ち上がろうと足に力を入れた。
ゆっくりと立ち上がって、それでも頭はフラフラとしていた。
「俺は死ねない」
ガスを吹きつけられても、なお俺は立ち上がった。
それは、俺の執念だった。
スプレーを持った薬栗は、それでも冷めた顔で俺を見ていた。




