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海神  作者: 葉月 優奈
四話:女スパイ
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そのガスの色は、赤みがかかっていた。

いや、ピンク色のようにも見えた。

たまらず俺は、スーツのポケットに手を伸ばした。

伸ばした先に会ったのは、白いマスク。これでも一応用意はしてきた。


だけど、あくまで用意したのは市販のマスク。

ピンク色の煙が立ち込める中、俺はマスクをつけた。


(市販のマスクじゃ、やはりダメか)

鼻で息をするも、苦しい。

俺の瞼が、重くなった。

全身に激しい脱力感が起こって、体中から汗が噴き出た。


(やばいやばい、死ぬ)

ラビーネ病院では。このガスで1200人の命が奪われた。

同時に仰向けにして、膝を抱えた。

壁を使って、頭を少し上げた。

膝を曲げて、俺はマスクをしていた。


(これで耐えなければ、死ぬかもしれない)

吹かれたピンクのガスは、俺の意識を奪っていく。

俺はどうしても、死ぬわけにはいかない。

絶対に生きる、何があっても。


俺は死にたくない。

死ぬつもりもない。

だから、こんな場所で倒れるわけにはいかない。

それでも呼吸が、息ができない。


(苦しい)

俺の眉間に、血管が浮き出ていた。

心を強く持って僕に吹き付けられたガスは、僕の顔色を青白くさせた。


血液が、頭に回らない。

苦しいし、心臓の鼓動が速い。


(でも、待っているんだ)

刑事の俺には、守るべき家族がいた。

妻も、小さな子供もいるのだ。


だからこそ、こんなところで死ぬわけにはいかない。

それでも、俺は立ち上がろうと足に力を入れた。

ゆっくりと立ち上がって、それでも頭はフラフラとしていた。


「俺は死ねない」

ガスを吹きつけられても、なお俺は立ち上がった。

それは、俺の執念だった。

スプレーを持った薬栗は、それでも冷めた顔で俺を見ていた。



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