005
(INNAN‘S EYES)
自分は、印南 英紀。
職業は神戸タワーの、警備員。
外注の警備会社で、このタワーに派遣されていた。
中年の小太りの男性。
藍色の警備服を着ていて、周囲を見回していた。
現在の時刻は『21:58』タワーの営業時間は、もうすぐ終わる。
(今日も無事、平穏…と)
いつもどおりで月並みのことだけど、タワーは、何事もなかった。
午後出社の自分は、展望室を見回していた。
歩き回りながら、自分は周囲を見回す。
さすがに閉館時間ということで、客は少ない。
会社帰りのOLに、若い女性。カップルも見えていた。
夜の静かなタワーで、ガラス張りの外から海や神戸の夜景が見えた。
音楽も流れて、自分はずっと周囲を見ていた。
(何もなし、今日は残業もないか)
平和なのが一番だ。
元々、この神戸タワーはいくつかの監視カメラもあった。
下にある本部に戻り、カメラの確認をするのが自分の最後の業務だ。
ほぼ円形の展望室を歩いていると、一人の女が声をかけていた。
それは、昼間はカフェで夜はバーになる展望台内の店。
店を仕切る、バーテンダーの女性だ。
「印南さん」
自分に声をかけたのは、若い女性。
凛とした顔立ちの若い女は、警備で歩いていた自分に声をかけた。
「砂川さん」
彼女は、砂川 真紀。
展望台一階にあるカフェ&バーの店員だ。
展望台の3分の1を占拠した店。
見晴らしのいい窓側の席は、とても人気だ。
「今日もお仕事ですか?」
「そちらも終わりですか?」
「この時間だと、お客さんも少ないですし」
夜はバーに変化するカフェには、3つのテーブルが埋まっていた。
カウンターには、誰も座っていない。
1つのテーブルには、カップル。
1つのテーブルには、二人の女子グループ。
そしてもう一つのグループは、スーツを着たサラリーマン。
「こちらも、業務を終えて…」
だが、そんな自分の持っている無線に発信が突然入ってきた。
「あっ、本部ですか?」
無線主は、神戸タワーを監視している監視本部。
そこから現場にある自分に、無線が飛んできた。
「どうしましたか?」
「言いにくいのだが…」
「はい?」
「今、ここに兵庫県警が来ている」
警察の名前を出して、自分は驚いていた。
すぐさま、無線には一人の人間に変わっていた。
「今、展望台にいるのは警部会社の印南君か?」
「えと、あなたは?」
「兵庫県警の国木だ。今より、エレベーターの封鎖を行う」
「封鎖?」
「エレベーターの凍結を今から行う。時間は、30分。
繰り返す、これより閉館時間から30分後の22:30までを封鎖する」
渋い声で一方的に、無線で言い放ってきた。
その言葉を聞いて、自分は反論をしようとした。
だけど、すぐに無線がブチっと切られた。
そのまま、自分はエレベーターの方に走っていくのだった。




