003
(MIKAGE‘S EYES)
――前日――
ここは、神戸市の警察署。
警察署の地下に、狭く薄暗い取調室があった。
ほぼ中央にテーブルに、椅子が二つ。
壁も分厚く、ガラス越しに部屋も見えた。
俺は椅子に座った金髪の男性に、向き合っていた。
俺は刑事の神影 原基。スーツを着ていて、目つきが鋭い。
一応まだ20代の俺は、取り締まりをしていた。
「お前たちは、なんでこの薬を売っていた?」
テーブルに置かれたのは、ビニール袋に包まれた白い粉。
「金のためだ」
「資金稼ぎということか?」
「そうだよ」
金髪の白い肌の男性は、日本人ではない。
明らかな西洋人だが、この神戸では珍しいことではない。
今は外国人だって、観光以外にも仕事で多く訪れる港町なのだから。
それでも、彼らの仕事は合法ではない。
だけど、俺はこの薬を売っている理由を知りたいわけじゃない。
「お前たちの裏には、誰がいる?」
一番聞きたいことを、目の前の金髪男性にぶつけていた。
囚人服の金髪の男性は、ほほがやせこけた中年の男だ。
髭も生えていて、くたびれた様子の男性。
手錠がかけられていないが、腰に縄で縛られていた。
テーブルのそばには屈強の警察官が、逃亡阻止のために彼をしっかり押さえていた。
この部屋には、三人の警察官も制服を着て警備にあたっていた。
「……」やはりこの質問だと、男は頑なに喋らない。
「まだ黙秘を続けるか?
では、少し世間話をしようか」
俺は椅子に座り、目線を落とした。
「お前たちの国では、生物兵器『エノシガイオス』これを戦争で使ったそうじゃないか?」
「それは国の話だ」
「君らの国は、戦争をしていた。
国際的非難を受けたあの生物兵器を使っても尚、今も戦争は終わっていない。
だが、あの事件を境に戦況は一変した。国際情勢は、今や君らの敵になった。
『ラビーネ病院の悲劇』によって」
「あれは嘘だらけだ。反乱軍のでっち上げだ!」
「国際的に、お前たちの国は相当非難されているそうじゃないか。
多くの人間が、生物兵器の力で苦しみながら死んでいく。被害者は1200人ほど」
「日本にはフェイクニュースが、出回っているのか」
「国際映像だし、ほとんどの日本人が知っている。
興味があるかどうかは別だが、日本はかつて敗戦国だったしな」
「負けたのは、日本が愚かな判断をしたからだ」
「それでも日本は平和が好きな国民なわけで、『エノシガイオス』を日本で持ち込まれた噂がある」
「……」
「兵器を持っている人間が、この国にいるのは間違いないよな?」
「『エノシガイオス』は、そもそも存在しない」
「そういう嘘は、いけないぜ。
色々調べてさえてもらったが、あんたらは売りつけようとしている、
しかも売りつける相手は、ラビーネ病院を占拠した反乱軍」
俺は、金髪の男を問い詰めた。
俺の言葉を聞いて、金髪の男性はようやく困った顔を見せていた。
この部屋に入って初めて見せた、僅かな隙。彼は何かを知っている。
(動揺が見られるか、やはりこの組織は黒だ)
だとしたら、もっと核心をついてみるか。
「なあ、知っているか?戦争魔術師カシチェイは、この日本にいるという噂を」
「なんで、その名を?」
「これでも、日本の警察は有能なんだ。
ボルシュニクのカシチャイは、『エノシガイオス』で新たなビジネスを始めることも。
お前らの国に、その情報を流してもいいんだぞ」
「それは、よくない」
国と、ボルシュニクの関係に亀裂が生じていた。
「最も、お前たちを捨て駒にしてカシチェイは敵とさえ取引を行う。
なあ、裏社会でカシチャイはなんと言われているか知っているか?金の亡者だとよ」
「カシチャイが、まさか…」
その言葉に、金髪の男は動揺がはっきりと見えた。
「カシチェイは、金のためならば、祖国も売れる、そんな男だ。
お前がいたチョウルイベギマも、お前らはもう捨てられたんだよ。
ボルシュニクも、カシチャイも、お前らを助けてくれない」
「そんなはずはない」
「いいや、捨てられた。
だからこそ、お前はここで捕まった。
摘発されて20日ほど過ぎても、助けることをしない。それが現実だ」
「そんな、俺は何のために」
「さあ、取引の話をしようか」
俺はすぐに、近くにいた一人の警察官に声をかけた。
部屋を退室した警察官は、間もなくして戻ってきた。
手には高級のウォッカを持って、中年の刑事が現れた。
「まあまあ、一杯やろうぜ」
部屋に入ってきたベテラン刑事は、落ち着いた様子で金髪男性に語り掛けていた。




