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イチゴの匂い、ショートケーキの上のイチゴ。
甘酸っぱくてクリームの少しついた、におい。
イチゴは、切ると断面から甘酸っぱい匂いがしていた。
その匂いが、なぜか女子トイレでかすかに広まっていた。
「あの、さっき女子トイレで感じませんでしたか?」
「いや、だけどその匂いって…ニュースで見たんですけど」
茶色のスーツの男性が、スマホを操作していた。
間もなくして、私に対してあるニュース画面を見せていた。
「『イチゴ爆弾、エノシガイオス』これって」
「そう、エノシガイオスという未知の成分。
その匂いは、使用後から数秒間甘い匂いが広がってやがて死に至らしめる。
まさに悪魔のような生物兵器。
傷一つつけずに、人を殺す兵器」
「それって?」
「ニュースとは別に、国際的に非難された爆弾の話。
遠くの国で、ラビーネ病院を襲った生物兵器の話」
「その話は、僕も知っている」
「自分も」
印南と波多野も、同意した。
というより、世界的にニュースになって日本でも何度も放送されていた。
戦場からの中継も、ここ最近よくテレビを賑わしていた。
テレビ、ネット様々な媒体でこのニュースは放映されて知らない人はいない。
だがその爆弾は、イチゴの匂いがするというニュースは結構マニアックだ。
「ネット記事にはなっているけど、そんな兵器が遠く離れた日本にあるの?」
「あるらしい」印南が、はっきり肯定した。
なぜ、印南はここまで断定することができるのだろうか。
何か、彼の中に根拠があるのだろうか。
「問題は、その『エノシガイオス』があるのならこのタワーのどこかに爆弾があるということ?」
爆弾そのものは、殺傷能力はない。
だけど、そのガスをわずかでも吸っただけで死んでしまう。
ラビーネ病院では1200人が、亡くなったと報道された。
戦争とはいえ、それはあまりにも非人道的だと国際的に非難された。
「落ち着いてください。まだ、爆弾があると決まっておりません」
「確かに、ここは日本です」
印南の結論に、波多野も同意していた。
「だけど、あの匂いは絶対に変よ」
「トイレでイチゴの匂い、確かに変ですね」
私に同意したのは、上原さん。
そんな四人の会話を、鵤と関係性の強い男女のカップルが難しい顔を見せていた。
なにより、殺人になれば彼らは最優先の容疑がかかる。
「実際に鵤さんが、急死するような人ではないのですよね?」
「それは、ないと思う。でも俺たちは」
「いや、わからない。柚乃は何も」
ギャル風の少女は、悩んでいた。
柚乃も、どうやらぼさぼさ頭の男性である成沢を疑い始めていた。
「いいや、俺はやっていない。爆弾も何も知らない」
「嘘つかないでよ、天満が殺したんじゃないの?」
柚乃の疑惑は、全く晴れない。
「ねえ、なんか面白い話をしているんじゃない?」
そんな中で、一人の少女がカフェから近づいてきた。
ツインテールの少女が、危機感というよりわくわくした高揚感でこちらの話を聞いていた。




