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海神  作者: 葉月 優奈
二話:回収人
17/56

017

(NARUSAWA‘S EYES)

俺は、成沢 天満。

令嬢の娘でもある香月 柚乃は俺の彼女だ。

大阪の芸大を卒業した俺は、絵で一生食っていく、そんな未来を描いていた。


だが、絵で描くことができる人間はほんの一握りだ。

油絵を専門とする俺は、競争の激しい油絵の世界。

俺の絵はほとんど売れず、卒業から10年近くたっても生活できるほどの収入はいまだにない。


そんな時に出会ったのが、柚乃だ。

香月家は、神戸でも有数の金持ちの家系。

芦屋の豪邸に、住んでいた超がつくようなお嬢様だ。

年齢は19歳、未成年だ。


売れない画家と、お嬢様が出会った理由は絵のモデルを頼んだ時。

彼女が絵のモデルを受けて、一緒に話す中で仲良くなっていた。

その後、柚乃は俺の身の回りの世話をしてくれるようになった。

掃除に、洗濯。でも一番大きかったのは、やはりお金だ。


生活費にも困っていた俺は、彼女と出会って裕福な生活ができるようになった。

まさに、ヒモ生活だ。

それでも、柚乃はそんな俺を好きでいてくれた。

年齢も離れ、生活基盤ももろい俺を好きでいてくれて…俺も好きになった。


だけど、俺たちが付き合うことに周りは…いやたった一人だけ反対した人物がいた。


(それが、『鵤 うね』)

柚乃の祖母であり、俺を最も嫌った人だ。


鵤家といえば、香月家と政略結婚をしている間柄。

元々鵤家は、関西での大企業だ。

それにすり寄って、香月家と結婚した。

柚乃の父親は、鵤家の所有する会社を現在経営している社長だ。


(そんな世界の人間は、売れない画家を許すはずもない)

俺は、何度も話し合いをしてきた。

だけど、鵤は俺と柚乃の結婚を許さなかった。


「まさか、こんな姿に変わり果てるとはな」

俺は隣にいる男性と、一緒に死んだ婆さんを運んでいた。


運んだ先は、夜景の見えるリビング。

近くにはベンチが置かれていて、植え込みもあった。

顔には布がかけられて、息をしていない。

トイレから出てきたとき、俺に一人の人間が近づいてきた。


「うねばあちゃん」

俺の彼女、柚乃だ。

女子トイレに入ることも、できなかった彼女は変わりはてた祖母の顔を見て泣いていた。


「柚乃、ごめんな」

「おばあちゃん、昨日はあんなに元気だったのに」

「…そうだな」

昨日も俺は、柚乃と一緒に会っていた。

いや、今日も一緒にここに来ていた。

というより、俺たちに勝手についてきたのだが。

倒れたうね婆さんを、外が見える植木の近くにあるベンチに寝かせた。

俺たち四人は、うね婆さんのそばで沈痛な顔を見せていた。


(それにしても、婆さんは死んだのだろうか?

まさか、本当に殺されたのだろうか)

でも、俺は殺していない。それだけは間違いない。

恨みはあるし、口うるさい婆さんだ。でも、俺は殺すようなことはしない。


「さて、あなたは顔見知りということですが」

「ああ」警備員の印南が、すぐさま俺に聞いていた。

だけど、俺は冷静な顔を見せた。


「これって、急死したんじゃないのか?」

「いや、殺されている」

印南は、なぜかそこを断言した。


「どうして、そこまで言い切れる?」

「それは…」印南は、ためらっているようだ。

なにかを、隠しているのか。

それとも、俺を殺人犯に仕立てるためにこの男も協力しているのか。


そういえばこの『神戸タワー』は、鵤グループの資金援助がある話だ。

あり得ない話じゃない、俺と柚乃の結婚を阻むなら。

あの婆さんなら、やりかねない。


「まあまあ、何にせよ、死体を調べてみるのがいいんじゃないか?」

印南を助けるように出てきたのは、グレーのスーツの男性。

波多野はベンチで眠る老婆に、冷静な対応をしていた。



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