013
(MIKAGE‘S EYES)
展望台の夜は、とてもきれいだ。
神戸には150万の人間が住んでいて、夜景には150万の生活がある。
だけど、『海神』と呼ばれた生物兵器『エノシガイオス』は危険な兵器だ。
俺たち兵庫県警は、国際警察の要請を受けて一つの組織を摘発した。
『ボルシュニク』の下部組織、『チョウルイベギマ』。
六幹部の一人、カシチェイ。彼は金集めの天才といわれていた
育成機関でもあるチョウルイベギマは、日本にも支部が置かれていた。
彼らは、日本を舞台に戦争の取引をしていた。
それをみすみす許すわけには、いけない。
茶色のスーツを着た、俺は偽名で行動していた。
今の俺の名は『上原 希弘』。
薬品の貿易会社に通う会社員、今の俺はそんな人物を演じていた。
俺が話をしているのは、一人の男性。
グレースーツの男性は、俺より少し背が高い。
体はやせ形で、モデル体型だ。黒い髪は、肩まである男にしては長い髪だ。
「なるほど、波多野さんですか」
「ええ、上原さん」
「それにしても、お互い災難ですね」
「全くですよ」
グレーのスーツの男性は、波多野という。
関東の広告代理店で勤務していて、神戸には出張に来ていた。
「でも、なんでエレベーターが動かなくなったんでしょう?」
「故障じゃないですかね?閉館時間も近いし」
「まあ、緊急点検ならしょうがない。安全第一ですよ」
波多野と、俺は話を合わせた。
頭をかきながら、それでも笑っていた。
「あーあ、早く風呂に入りたい」
「まったくですね。もう寒いですし」
季節は秋だけど、もうすぐ冬。
夜は、さすがに冷えてきていた。
長袖のスーツだけど、肌寒さを感じられた。
「それにしても、広告業界は儲かっているんですか?」
「仕事がおかげさまで。私の会社は、儲かっていますよ。
だからあちこちに、こうして出張に行くんです」
「仕事が嫌いですか?」
「嫌いというか、ブラックですから」
波多野とは、仕事の話をしていた。
そんな話をしていると、一人の人間が姿を見せていた。
警備員の制服を着た、大型の男性がこちらにやってきた。
「失礼ですが、お二人さん」
印南は俺たちにも、近づいてきた。