011
言った、いや言ってしまった。
刑事ドラマのような、あのセリフを。
つい、数分前にここで危険な女スパイがいると聞いたのに。
人を一瞬で殺す生物兵器『エノシガイオス』を持った女スパイが、ここにいると聞いたばかりなのに。
でも、自分はもう引くことができなかった。
(神影さん、あとは何とかしてください)
嘆くような顔で、それでも自分は前に出た。
「あんた、何者だ?」
「印南 英紀。警備員探偵だ」
「その警備員探偵が、犯人を捕まえてくれるの?」
泣き止んだギャル風の女、柚乃が自分の方に目線を送ってきた。
その目は、希望と疑惑の二つの感情が混じっていた。
「探します。だから、まずは自己紹介をしましょう。
殺された『うねばあちゃん』の話も聞きたいですし」
「そうだな、閉じ込められた展望台に殺人犯がいるのなら…それは危険ね」
話をしたのは、女性だ。
水色のスーツ姿を着た女性。スーツの色も全く同じだ。
一人は、こげ茶のポニーテールの女性。背も高い女。
もう一人は、黒髪ショートカットの女性。大人の女性の平均的な身長。
どちらもかなり若い女性の見た目で、来ている水色スーツが全く同じ。
しいて言えば、背の高い女性がズボンで、背の低い女性がロングスカートなところだ。
喋ってきたのは、ポニーテールの女性。
「いるんでしょ」
「早とちりしすぎじゃない、瀬奈」
「でもこういうのって、エレベーターも動かなくなってここから出る方法はない。
それに、あのおばあさんの死に方が殺害なら…犯人はここを出ることができない。
もしかして、警察がすでに動いているとか」
「ふむ、それもそうね」
背の高いスーツの女は、背の低い女の後輩らしい。
後輩の言葉に、先輩の女性は妙に納得していた。それにしても背の高い女は、鋭い。
「いいでしょう、自己紹介しますよ。
私は『伊丹 美月』。隣にいるのが、『若杉 瀬奈』。食品会社の営業職に在籍している。
私の方が、一年先輩ね」伊丹が言ってきた。
「伊丹に…若杉」自分は、胸にある手帳にメモをしていた。
頭があまりよくない自分は、とにかくメモを取ることにした。
さっきの年の差カップルは、成沢と柚乃。柚乃の苗字は、そういえば知らない。
メモを取りながら、俺の周りに人が集まってきた。
「印南さん。ほんまに犯人を捕まえてくれるん?」
そこには関西弁の女性が、赤い派手なメガネをかけていた。
派手な黄色いシャツに、藍色のハーフジーパンの女性。背中に、緑色のリュックを背負っていた。
緑色に髪を染めていたツインテールの女。化粧も、かなり濃い。
カジュアルな格好の女性は、自撮り棒を持ってポーズを決めていた。
「君は?」
「ウチは、キナン。キナちゃんって呼んで。キナくさチャンネルやってるねん」
そこには、明らかに面倒な女性が姿を見せていた。