表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/8

第八話:英雄への褒賞と、新たなる始まり

 アルバレスト公爵一派が衛兵に連行され、謁見の間の重い扉が閉ざされた後、残されたのは国王陛下とジグムント元帥、そして私たち二人だけだった。


 国王は玉座から降り立つと、厳格な君主の顔から、一人の人間としての温かい表情へと変わっていた。


「アシュトン監察官、そしてアリア嬢。見事であった。二人の勇気と忠誠心に、心から感謝する」


 陛下はまずカイン様に向き直った。


「監察官。其方の功績に報いる。本日付で、監察局を『王国特別査察局』へと昇格させ、其方を初代局長に任命する。王国にはびこる不正の根を、その力で断ち切るがよい」


「はっ。身命を賭して」


 カイン様が、深く頭を下げる。


 次に、陛下は私の前に立った。


「そして、アリア嬢。君はもはや、ただの調律師ではない」


 陛下は慈しむように、私の手を取った。


「君の『調律』の力は、この国を悪意から守る、かけがえのない宝だ。よって、君に『王室付き筆頭調律師』の位と、『聖女』の称号を与える。これからは、その力を、国と民のために役立ててほしい」


 聖女。その言葉の重みに、私はただ立ち尽くすことしかできなかった。


 「それから……」と、陛下は悪戯っぽく笑みを浮かべた。「アシュトン局長。二人の個人的な事柄についても、私が証人となろう。英雄には、その隣に立つべき、気高き魂が必要だからな」


 それは、私たちの関係を、国王自らが祝福するという、この上ない言葉だった。カイン様は私の手を強く握り、二人で再び、深く頭を下げた。


 ◇◇◇


 王城の庭園を、二人で並んで歩く。


 ようやく取り戻した平穏な時間に、私はまだ、夢の中にいるような気分だった。


「私が……聖女、だなんて。なんだか、まだ信じられません」

「君は、俺を救ってくれた」


 カイン様が、足を止めて私を見つめた。「絶望の淵にいた俺を、その手で、その力で。それだけで、君は聖女と呼ばれるに値する」


 彼の真剣な眼差しに、私の胸が熱くなる。


 これまでのこと、これからのこと。私たちは、たくさんのことを話した。


 私の新しい称号。彼の新しい役職。もう二度と戻ることのない、ポンコツ置き場での日々。すべてが変わり、新しい生活が始まろうとしている。


「さあ、帰ろうか。アリア」

「はい、カイン様」

「……カイン、でいい」

「えっ?」

「これからは、そう呼べ」


 不器用な命令口調。でも、その耳が少しだけ赤くなっているのを、私は見逃さなかった。


「……はい、カイン」


 名前を呼ぶと、彼は満足げに、そして少し照れくさそうに頷いた。


 国王陛下が私たちに与えてくださった、新しい屋敷へと向かう。そこが、これからの私たちの家であり、新しい仕事の拠点となる場所だ。


 扉を開けると、ジグムント元帥からの使いが、一通の手紙を持って待っていた。


「アシュトン局長、アリア聖女様。陛下からの、新たなご依頼にございます」


 手紙には、こう記されていた。


『王国の東部、古来より龍が棲むと言われる『龍哭山脈』にて、地脈の魔力が原因不明の暴走を起こしている。麓の村々では、植物が枯れ、動物が凶暴化するなどの被害が出始めている。聖女アリアの『調律』の力で、この地の乱れを鎮めてほしい』


 カイン様……いえ、カインは私の顔を見て、にやりと笑った。


「どうやら、ゆっくりしている暇はなさそうだな。行くか、アリア」

「はい!」


 私たちの戦いは、まだ終わらない。


 ううん、違う。私たちの、希望に満ちた新しい物語が、今、ここから始まるのだ。


 私は、愛する人の隣で、力強く頷いた。


「どこへでも、あなたと一緒なら」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ