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あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~  作者: 一ノ瀬麻紀
あれで付き合ってないの?(本編)
8/60

08 友達とのお出かけ

 「僕ね、こうやってオメガのお友達とお出かけするのが夢だったんだ」


 そう言いながら隣を並んで歩く飯田(いいだ)くんは明らかに浮き立つ様子で、同じように初めてのおれも自然と足取りが軽くなっていた。


 蒼人(あおと)の休学から数日後に声をかけられてから、飯田くんとは学校でちょくちょく話をするようになった。

 太陽とは変わらず登下校は一緒だったけど、学校にいる間は飯田くんとの時間が長くなっていた。

 一緒に過ごす時間が増えればその分親しくなるわけで、飯田くんに話し掛けられてから二週間ほど過ぎた日の土曜日に、おれ達は初めて遊びに行く約束をした。



 

「わぁーっ。僕、ゲームセンターって一度来てみたかったんだ!」


 BGMと言うには主張し過ぎな音楽と、ピコピコガチャガチャといういかにもゲームセンターな音。土曜日ということもあり、たくさんの人で賑わい、子供から大人まで話し声が混ざり合っていた。


 ここは小さな子供も遊べるクレーンゲームから、大人も楽しめるコインゲームまで色々と揃っていた。

 おれ達のいるエリアは入口にほど近い、クレーンゲームのコーナー。ゲームセンター初心者にはちょうどよい場所だった。


 出かける計画を立てている時に、どこへ行きたい? そう飯田くんに聞いてみたら、『ゲームセンターに行ってみたい』と言われた。

 ご両親は厳しい人で、いわゆる娯楽施設という場所には遊びに行ったことがないそうだ。だからちょっとした冒険に出た気分らしい。


 おれは蒼人に連れられ何度か来たことはある。けれどこういった空間には正直慣れなくて、いつもなんとなくそわそわしていた。今日も久しぶりに来てみたものの、やっぱり何か落ち着かない。

 それでも楽しそうにクレーンゲームをする飯田くんを見ていると、一緒に遊びに来て良かったなと自然と口元が緩んだ。


 ゲームセンターで楽しんだ後は、これまた初めてだというカラオケボックスへと来ていた。

 カラオケはおれも歌うのが好きで結構頻繁に行っていたから、勝手知ったると手際よく受付を済ませた。


 このカラオケボックスは持ち込みも出来るけど、せっかくだからとお昼も頼むことにして、フリードリンクも付けた。種類も豊富だしソフトクリームも食べられる。

 早速取りに行こうと二人で席を立ったが、荷物もあるから交代で行くことにした。


 何にしようかなーと機械の前で考え込んでいると、すぐ後ろで何やら人の気配がした。気になって振り返ると、知らない男二人がニヤニヤしてこちらを見ていた。


「ねぇ、キミひとり?」


 ナンパの口説き文句そのままのセリフを口にした男は、品定めをしているのか、全身を舐め回すように見てきた。

 明らかに怪しいし、表情も声も嫌悪感しかない。気持ち悪い。

 眉をひそめて男を見ると、にたぁっと笑い、こちらへと一歩ずつ近づいてきた。


「えっ……」


 ある程度離れていたし、相手も動かなかったから大丈夫だと思っていたのに、突然動き出したからビックリして、身体が硬直してしまった。慌てて首だけ動かして店員を探すけど、見える範囲には誰もいない。


 どうしよう……。ここから逃げなきゃ……。


 ぎこちないながらも身体を少しずつ動かし、じわりじわりと近付いてくる男達から距離を取ろうとした。

 一気に走り出したいのに、恐怖で身体が思うように動かない。


「おっと、逃げないでくれよ。ちょっと君とお話したいだけじゃん」


 逃げようとしているのがバレたのか、一人が逃げ道を塞ぐように立つと、もう一人はおれの目の前まで迫ってきて、腕を掴んできた。


「嫌、だっ……! 離せっ」


 出来る限りの力で抵抗するけど、おれの腕を掴んだ手はびくともしない。

 同じ男でも、オメガは一般男性よりも力が劣ってしまうことが多い。

 普段はあまり意識してこなかったのに、こんなピンチになって初めて、嫌でも第二の性を意識せざるを得なかった。


 肩を抱かれ腰まで手を回されると、身体がゾクッと大きく震えた。


 気持ち悪い……。おれが欲しいぬくもりはこれじゃない。


 どんどん気持ち悪さが増していく。身体中を駆け巡る嫌悪感と、心の中を埋め尽くすぐちゃぐちゃな感情。

 おそらくおれの肩を抱く男は、アルファなんだと思う。さっきから不快な匂いが纏わりついてきている。


 嫌だ、気持ち悪い。……助けて、蒼人──!


 パニックになったおれの脳裏に浮かんだのは、兄弟のように育った幼馴染の姿だった。


 蒼人の匂いはこんな不快じゃないのに。蒼人が側にいれば安心するのに。蒼人に触れられたら心がホカホカするのに。蒼人と一緒にいるだけで、幸せな気持ちになれるのに……!


 何度試みても、身体は自由に動かない。

 抑えられた身体は緩められるどころか、ますます密着されていく。


 なんで……なんで……。


 どう足掻いても相手は楽しそうに笑うだけだ。

 おれは抵抗を諦めて、ぎゅっと目を瞑る。今にも溢れそうになっていた涙が、一気に頬を伝った。


 もう駄目だ──。


 そう思った瞬間、急に拘束されていた身体が開放され、纏っていた嫌悪感もこつ然と消えた。


 え……?


 恐る恐る目を開けると、店員さんに羽交い締めにされているさっきの男が一人と、もう一人の男はおれと同じくらいの歳に見える爽やかイケメンに拘束されていた。


「大丈夫?」


 爽やかイケメンは声までイケメンで、おれの方を見て心配そうに声をかけてきた。


「あ、ありがとうございます。大丈夫です……」


 本当は、蒼人が助けに来てくれたのかと一瞬期待してしまったんだ。

 だからワンテンポ遅れてしまい慌てて御礼の言葉を伝えると、男を捕まえたまま『良かった』と胸を撫で下ろしたようだった。


 そちらを見ると捕まえている男が目に入ってしまって、さっきの嫌悪感を思い出しブルッと身震いをした。




 しばらくして警察が来ると男たちを引き渡し、簡単な事情聴取を受けた。

 少しの間身体の自由は奪われていたけど、どこかに連れ去られたりしたわけではないので、相手へ厳重注意という形になるだろうと言われた。


 相手はやはりアルファだったらしく、あまり事を荒立てたくないようで、店側からもそういった対応をお願いされた。

 おれだって面倒なことには関わりたくないしと、悔しいけど承諾することにした。


 何が性差別のない世界だよ……。


 現実はまだ根強い差別が残っているのだと、身に染みて感じる出来事となった。

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