表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~  作者: 一ノ瀬麻紀
太陽の話(スピンオフ2)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/81

12 プリン

 バッグの中からメモとペンを取り出し、サラサラとペンを走らせた。

 これでよしと。

 オレは、春岡先生から預かった袋とメモを置き、そっと部屋を出ようとした。


「あ、太陽(たいよう)さん! 僕、用事ができてしまって、戻らなくちゃいけなくなったんです。申し訳ないんですけど、凛太郎(りんたろう)くんのそばにいてあげてくれませんか? さっきはあんなに元気でしたけど、熱はまだ高いんです」

「え? まだ熱あるのか?」

「そうなんです。なのに無理して起きてきちゃって。ちゃんと寝てるように伝えてくださいね」


 詩音(しおん)くんは、慌てた様子でそう言うと、慌ただしく部屋を出て行ってしまった。


 なんだ、元気そうだったから熱も下がったのかと思っていたのに。

 オレは、凛太郎の様子を見るために、部屋に入らせてもらうことにした。

 コンコンと軽くノックしてみるけど、返事はない。カチャリとドアノブを回し、静かにドアを開けた。


 整頓された部屋の窓側に置かれたベッドで、凛太郎は横になっていた。

 オレは起こさないように近づくと、凛太郎の様子を注意深く見た。熱でつらそうな様子もなく、一定のリズムで静かな寝息を立てている。

 よかった、これなら大丈夫かな。

 オレは、そっと額に手を当てた。


「んっ……」

「あ、悪い……起こしちゃったか」


 オレが手を当てたそのタイミングで、凛太郎は小さな吐息を吐き、ゆっくりと目を開けた。


「あれ……太陽……さん?」

「調子はどうだ?」

「ん……大丈夫です」


 まだ寝ぼけているのか、夢うつつといった様子でオレの方を見て、額に当てた手を力無く握りしめた。


「太陽さんの手、冷たくて……気持ちいいです……」

「それは、お前が熱があるからだろ。もう少し寝てろ」

「そんな……もったいないです。せっかく太陽さんが、こんな近くにいてくれるのに。……あ、そういえば、詩音は?」


 凛太郎はオレと会話しているからか、意識がはっきりしてきたようで、さっきまでいたはずの詩音くんのことを聞いてきた。


「詩音くんは、急に用事ができたから、オレに凛太郎を見ていてと頼んで出かけて行ったよ」

「そうですか。では今は、太陽さんと2人きりなんですね」


 凛太郎はそう言ってゆっくりとベッドから起き上がった。


「おい、寝てろって」

「大丈夫です、太陽さんも知ってるでしょ? アルファは頑丈にできてるんですよ」

「それ、前にも言ってたけどさ、アルファだってただの人間だ。休む時はちゃんと休め」

「ふふ。第二の性で差別しないのは、太陽さんらしいです」

「そうだな。第二の性を理由にするのは、あまり好きじゃないな。……そうだ、プリン買ってきたけど、食べるか?」


 熱があっても食べられそうなもの……と考えた時、オレの親が子どもの頃によく作ってくれたプリンを思い出した。卵製品だから、栄養も摂れる。

 だから、発熱の原因はわからないけど、プリンを買ってくれば間違いないだろうとオレは思っているんだ。


「食べます! 僕、プリン大好きなんです」

「そうか、それは良かった。今持ってくるから待ってろ」


 そう言って、オレはプリンの入った袋が置いてある部屋に戻った。


「太陽さん、食べさせてください」

「は? さすがに1人で食べられるだろう?」

「嫌です。太陽さんに食べさせてもらいたいんです」

「何子どもみたいなわがまま言ってんだよ」

「僕だって……たまには甘えたいんです」


 凛太郎はオレから視線を外し、窓の外を見た。

 優秀なアルファの家系に生まれ育った凛太郎は、ずっとアルファという重圧に耐えてきたのだろうか。

 オレの計り知れることではないし、凛太郎がそう言ったわけじゃない。けど、なぜかそう感じたんだ。


 だから、こういう時くらい、素直に甘やかしてやってもいいのかもしれない。

 オレは、プリンを開け、スプーンで一口分すくった。


「ほら、凛太郎」


 オレの声に少しびっくりしたように振り向くと、スプーンを差し出すオレと目が合った。

 一瞬戸惑ったあと、ニコッと満面の笑みを浮かべ、雛鳥のように大きく口を開けた。


「うん、美味しいです。太陽さんに食べさせてもらったから、何倍も美味しいです」

「ふっ、大げさだな」

「好きな人に、プリンをあーんしてもらえるなんて、こんな幸せなことはないです」


 凛太郎の言葉は、悪い気はしないがちょっと複雑な気持ちだ。

 実習初日の言葉の意味を、改めてちゃんと伝えたいと凛太郎は言っていた。それ以降も、オレのことが「好き」という言葉や気持ちを隠しもなく伝えてくれた。


 でも、凛太郎にはあんなに可愛い婚約者がいることが分かった。

 だから凛太郎の言葉は、恋愛的な意味ではなかったんだ。

 オレの勝手な勘違いで、1人でドキドキして、自分の気持ちと向き合うなんて言ってしまった。

 けど、いつかはちゃんと話をしないといけないな……。

 

 プリンを食べ終わり、もう一度ベッドに寝かせると、凛太郎の手を握った。


「詩音くんが帰ってくるまでそばにいるから、ゆっくり休んで」

「このまま、詩音は戻って来なくても良いのに……」


 凛太郎の言葉に『何言ってんだよ、詩音くんは婚約者だろ?』と言いそうになったオレは、その言葉をグッと飲み込んだ。

 この話をするのは、凛太郎が全快してからだ。


 眠りませんと言っていた凛太郎だけど、まだ熱があるからなのかうとうととし始め、いつの間にか夢の中に再び吸い込まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ