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あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~  作者: 一ノ瀬麻紀
太陽の話(スピンオフ2)

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10 珍しく休み

「あれ? 珍しいな。凛太郎(りんたろう)はまだ来てない……?」


 いつもなら、オレとほぼ同じ時間にクリニックにやってくる凛太郎が、まだ姿を見せていない。

 

 週の初めに、凛太郎から『今度の土曜日、時間を作っていただけませんか?』そう言われた。

 ホームセンターに一緒に行く予定だったあの日、凛太郎は今までのこと、そしてこれからのことを話そうと思っていたらしい。

 なのに、予定外の詩音(しおん)くんの登場で、予定が狂ってしまった。

 だから今度こそちゃんと話をしたいから、今週末の土曜日に会って話をしたいと言われたんだ。


 なぜ実習初日にあんなことを言ったのか。そのことを含め、真相が明らかになると思ったら、オレもどこか気持ちが漫ろになっていたかもしれない。

 もちろん仕事に影響してはいけないから、集中はしていた。けどふとした瞬間に、すぐ凛太郎のことを考えてしまっていたんだ。


 凛太郎は真っ直ぐオレに思いを伝えてくれるのに、オレがこんなでどうする? ちゃんと向き合って答えを出していかないとだろ?

 オレは、何度も自問自答を繰り返した。


 今週末に、凛太郎の話をちゃんと聞き、オレの気持ちも整理しようとしたところで、まだ答えは出ないかもしれない。

 でもそれでもいいんだ。少しでも、何かが前に動き出すと思うから。


太陽(たいよう)くん、ちょっと来てくれるかな?」


 凛太郎がいないことを不思議に思い、誰かに尋ねようと思っていた時、ちょうど春岡先生に声をかけられた。


「春岡先生、おはようございます」

「太陽くん、おはよう。今日ね、凛太郎くんお休みすると連絡をもらったよ」

「え? あいつが休むなんて、どうしたんですか?」


 土曜日の約束があるのに、金曜日に休むなんて……と、オレはびっくりして春岡先生を見た。

 凛太郎は、オレに思いを伝えられると、緊張しながらも週末を楽しみにしていますと言っていた。

 なのに、前日である今日休むなんて、相当のことだと思う。


「熱が出ちゃったみたいでね。太陽くん、悪いけど、仕事帰りにちょっと様子を見に行ってくれないかな?」

「発熱!?」

「滅多に風邪もひかないし、体調崩したことがないと言っていたけど、疲れが出てしまったのかもしれないね」

「そうですか……」

「完璧と思われがちだけど、アルファだって頑張りすぎれば、体がSOSを出すんだよ」

「そうですね……」

「疲れているところ悪いけど、お願いね。……はい、これ住所」


 春岡先生は、そう言ってオレにメモを渡して、そのままクリニックの奥に行ってしまった。何か知っていることを聞きたかったけど、もうすぐ診察も始まるし仕方がないだろう。

 オレは、凛太郎がなぜ発熱したのか心配しつつ、春岡先生に渡されたメモを開いた。


「あ……すぐ近くじゃん」


 そこに記されていた住所は、オレの家から徒歩10分ほどの場所だった。クリニックまでは20分程度というところだろうか。

 凛太郎は去年まで海外留学をしていて、5年時に日本へ戻り、医学部へ編入したと聞いている。

 だから、大学に近いこの地域を選んだというのが自然だろうけど、どうも凛太郎の言った『やっと会えた』という言葉が引っかかる。


 ……まさかな。

 実習初日のあの勢いを考えると、わざわざオレのアパートの近くを探して引っ越したとも考えられる。

 けどさすがにそこまではしないだろうと、自分の考えを即座に否定した。



 診察時間も終わりクリニックを出たオレは、凛太郎の住むマンションへの通り道にあるドラッグストアに寄った。


「とりあえず連絡してみるか」


 何か食べられそうなものとかあるかもしれないと、一度電話をしてみることにした。けどしばらくコールするものの応答はなかった。


「熱があるって言ってたもんな。きっと寝てるんだろう」


 本当なら好きなものを買っていってやりたかったけど、適当に選んでカゴに入れた。

 凛太郎なら『太陽さんが選んでくれたものなら、なんでも好きです』って言うかもしれない。そんな想像をして、ここがドラッグストアだと言うことを忘れ、思わずクスッと笑ってしまった。


 ドラッグストアから5分程度歩いた場所に、凛太郎の住むマンションがそびえ立っていた。明らかにこの一帯で目立っている、立派なマンションだ。


「うわー、立派だな」


 オレはまるで田舎者のように、建物を下から見上げた。


 エントランスに入ると、各部屋へ通じるインターホンがあった。ちょっとドキドキしながら、春岡先生に聞いた部屋番号を押した。


『はーい』


 インターホンからは、明らかに凛太郎ではない、明るく可愛らしい声が聞こえてきた。

 あれ? この声には聞き覚えがある。


「こんばんは。凛太郎くんはいますか?」


 インターホンの先にいる人物が誰かは顔は見えないけど、オレの想像はおそらくあっていると思う。

 不躾に「誰?」と聞くのも失礼かと思い、オレは玄関先で家を訪ねる時のように、凛太郎がいるか尋ねた。


『……失礼ですが、どなたですか?』


 オレの問いかけに、一瞬の間があった後、返事が返ってきた。

 ここでなんと答えるのだろうかと、一瞬でも考えてみたオレはおかしいのかもしれない。

 だって、この状況でオレは『凛太郎の大学の実習先の看護師』それ以上でも以下でもない存在なのだから。


「……凛太郎くんの、実習先のクリニックの者です」

『ああ、凛太郎くんがお世話になっています。……でもすみません。凛太郎くんはちょっと今休んでいるので、日を改めて来ていただけますか? 凛太郎くんには後で伝えておきますね』


 まるで、(つがい)か配偶者のような対応に、オレの心は小さな棘が刺さったように、心にわずかな痛みを残した。

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